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時間の痣

ハンカチをひらいて旅人の温度

良く晴れて孤島が見える敗戦日

蛇消えて油に曇る実家かな

恋終はらせよジェラートに舌の痕

誰かの零したペンキに月日つくつくし

みづ満ちて桃に時間の痣昏く

蜻蛉とんぼ肺は空へとひらかれて

木槿より子音漏れ出てゐる薄暮

おしやべりと絵の具のあいだ小鳥来る

書架に置く五体どこかに秋の海

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夏が、あっという間に終わってしまった。
子どもの頃の夏休みは、なんだかんだ遠大な物語であったように思うが、大人の八月は単に12カ月のうちのひと月で、どうしたって無常を感じてしまう。

八月が足早に過ぎ去っていくのは、人生の過ぎゆく速さと入れ子構造になっているかのようだ。
子どもの頃の記憶との対比において、ことさら八月の速さは際立ったものに思われて、自らの残りの生を意識せざるを得ない。
平凡な感慨だけれど。

死の淵に際して、人が心残りに思うことの一つに「自分の生きたい人生を生きればよかった」があるらしい。
実に普遍的だと思う。
自分の生きたい人生を生きる。
これは、人生の秋を迎えた私にも可能なことなのだろうか。

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