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手鏡日録:2024年5月31日

帰り道、車の後部座席でからからと音がする。プラスチックの仕切りケースに入ったビーズだろう。ブレスレット作りのためにかつて少しずつ買い揃えたパーツを、訳あって自宅に引き上げるところだった。
ターコイズ、ラピスラズリ、瑪瑙、アメジスト、タイガーアイなどの半貴石。樹脂のものや、チーク風のウッドビーズ、チェコ風のガラスビーズもある。アクセルやブレーキを踏み、ハンドルを左右に切るたびに、それらが乾いた音を立てる。水で満たされたような夜の中で、ビーズが転がるたびに濡れたようなその表面が乾いていくのを想像する。いや濡れながら乾いているのかもしれない。
たびたび目撃してきた、路上で轢かれた鼠たちの眼球も、最後は干からびてからからと鳴ったのだろうか。ただでさえ一瞬の邂逅であり、肉塊の中に機能を喪った眼を見つけるのは尚のこと難しい。
背後で蠢く石の音を聞きながら、自分が踏みつけにしてきたもののことを思う。目の前で、あるいは想像の及ばない遠いところで。私のビーズ、特に半貴石には、その石の持つ固有の物語とは別に、私の業が染み込んでいるような気がする。たぶん石ってそういうものだから。この次に作るブレスレットには、きっと濡れて乾いた何かが練り込まれている。
車の窓を全開にしてひんやりした空気を取り入れると、遠くの蛙の声が夜の縁からゆらゆらと打ち寄せてきた。

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