見出し画像

クリエイティブな事をしてない奴の人生は、クソみたいにつまらないんだろうと見下していた。

令和二年、七月十日。
入籍をした。

その日、僕のクリエイティブは、死んだ。
死に顔は、穏やかだった。

僕は人生で一度も売れたことがないクソ配信者の分際で、何の配信活動も創作活動もしていない人間の事を見下していた。

「他人が作ったコンテンツを消費するだけの人生の何が楽しんだろうね?」

▲▲▲

ライブドアが15年くらい前にやっていたネットラジオ配信サービスに触れてネット配信を始めて、そこから自分で作ったホームページ、ブログ、ニコニコ動画、ユーストリーム、Podcast、web記事、YouTube、SPOON、radiotalk、twitter、自分で立ち上げたwebメディアetc…

それなりに流行っている媒体には手を出した。それなりに全部の媒体で面白い物を作ったと思っていた。いや、思っている。今でも。

が、一向に人気にならない約10数年の配信人生だった。

時代と共に『配信者』という言い方が廃れ、『クリエイター』と皆が名乗り始めた。何の結果も出してないくせに、地位が上がった気分だ。

そうだ、俺はクリエイターなんだ。人気が無かろうが、金を稼げてなかろうが、ネットで質の低い物を発信しているだけだろうが、俺が作っているモノは『コンテンツ』で、俺は『駆け出しのクリエイター』で、『作っている側の人間』なのだと思っていた。

アクセス数が20人くらいでも、再生数が500前後でも、フォロワー数が数百人程度でも、それでも自分のやっていることは価値のあることだと思っていた。それをやっている自分は、価値のある人間だと思っていた。

俺は、お前らとは違う。

クソつまんねー、ただ他人が作った面白を消費して生きているだけの奴らとは全然違う。

人の書いた本読んで、人の作った音楽聞いて、人の作ったネットの記事読んで、モノ買って、酒飲んで、カラオケ行って、「学生の頃は楽しかったなぁ~」って昔話して、年に数回旅行に行って。

世の中に何も生み出さない、終わった奴ら。
周りの友達の事さえもそう思っていた。

「何も生みだそうとしない奴らと飲んでも何の価値も無い」
「なんか面白いことしてぇな」

そんな薄っぺらい哲学ぶら下げて、昔からの友達は目に見えて減り、代わりに増えたのは『自称クリエイター』の、何をやってるか分からない上に売れてない、『何もやってない夢追い人』共。

でも、俺たちは優れている。
消費しかしない奴らとは違う。
結婚して、子供産んで、精々人並みのつまらない生活を送ってくださいね。
クリエイティブを持たず、その意識もない、つまらない君たちは。

そんなことを本気で思っていた。

そのくせ必死に創作も配信もせず、自分よりも下の存在を見て安心していた。
「あいつよりは面白いし」
「再生数5とかの奴ってなんで辞めないんだろうね」
「いいねはそこそこ付いたし」
「賞レース、佳作に乗ったし」
「twitterで褒めてくれる人もいたし」
「1円でも収益が出た時点で、その他大勢とは違う」

そんなことばかり自分に言い聞かせた。
何度新しい分野に行っても、媒体でやっても、一向に有名にはならなかった。

それでもいい、俺は面白い事をしている。
つまらない人生を送るよりも、売れずとも楽しい人生を送ってんだよ。

お前ら一般人と俺を一緒にすんな。死ね。

▲▲▲

そんな僕が、結婚をした。
しかも、付き合って2か月の人と突然結婚をした。

全ての価値観がひっくり返ってしまった。

僕の人生の優先順位の一番が「奥さんが悲しまないこと」になってしまった。
ウケること。面白い事をする事。人気になる事。クリエイティブな事をすること。その全てが2位になってしまった。僅差だが、確実に2位に降格してしまっている。自分でも驚くほどに。

価値観がひっくり返った。今まで散々ネタにしていたセフレや、風俗や、浮気の話が嫌いになった。
創作活動で人気になろうという意欲が大きく減った。今僕を動かしているのは残ったクリエイティブの欠片と、少し萎んだ承認欲求。

あれだけ心底見下していたはずの、そんな生き方を進んで選んでいる。

休みを指折り数えて、奥さんとのデートを心待ちにし、お金に余裕が出来たら奥さんに何をプレゼントしようかを考えている。

ツイートする内容も、大半が奥さんの事だ。
コンテンツ化?フォロワーに受ける内容?クソくらえだ。

なるほど。クリエイティブなんて無くても、世の中に受けなくても、人生は楽しく生きられるらしい。

人生で初めて、『ウケなくていい』なんて思ったよ。
悲しいね。あんなに、誰よりも受けたいと思っていたのにね。
発信しない人生を生きることに対して、後悔が無いのが一番悲しいね。

逆を言うと、僕が10年以上かけて頑張ってきたもの全てを天秤にかけても、奥さんが勝ってしまうくらい、彼女の事を愛してしまったのだ。

あの日、10年以上僕を支えてきた一つの僕が死んだ。
この10年では叶わなかった。

これから先、どうなるのかな。
文章は書くのかな、思いついた駄文を。

ラジオは?
動画は?
web記事は?

ごめんな。お前を殺したこと。
全然悔いてないよ。

また会おう。

さよなら、クリエイティブ。

この記事が参加している募集

はじめてのインターネット

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?