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コント『ギプス』

病院。
ギプスを外した患者。
それを見ている医者と看護師。

医者「はい、これでギプス外れましたよ」

患者「うわぁ」

医者「スッキリしたでしょう」

患者「そうですね、解放感がすごくて」

医者「もう痛みもないよね」

患者「はい。とにかく今はギプスが外れて嬉しいです」

医者「これからリハビリ頑張っていきましょうね」

患者「はい」


医者、おもむろに患者の患部のにおいを嗅ぐ。


医者「臭いねぇ」

患者「あ、ほんとだ。臭いですね」

医者「いやぁ臭い」

患者「すいません」

医者「いやいや臭くて当たり前なのよ。今までずっと密閉されていたんだから」

患者「ですよね」

医者「いやあ、(もう一度臭いを嗅ぐ)それにしても臭いねぇ」

患者「…。」

医者「森くんも嗅いでみなよ」

看護師「え、良いんですか?」

医者「いいよ、ね?」

患者「まあ」

看護師「じゃあ失礼させていただいて、、臭っ!臭いですね」

医者「だろ?相当臭いだろ」

看護師「臭い。これは臭い。あー臭い、目にくる」

医者「ハッハッハッ」

ナース「担々麺出そうです」

医者「昼担々麺食ったのか」

看護師「いやぁびっくりしたぁ、臭かったぁ。衝撃ですね」

医者「森くんのリアクションは嘘がないから良いよね」

患者「…そうですね」

医者「でもね、浜本さんこれは相当臭いですよ」

患者「そうですか」

医者「これはランクインあるかもね」

看護師「ありますね」

患者「ランクイン?」

医者「いやランキングがあってね、ニオイの。浜本さんの今のニオイはもしかすると5位圏内に入ったかもしれないんだよ」

看護師「わたしは4位は堅いと思います」

医者「とりあえず今のチャンピオンが今村さんって方で、これはもう殿堂入りって言っても過言じゃないくらい臭かったの」

看護師「伝説ですね。生ける臭いの伝説」

医者「で、2位が72歳の坂本さん。この方もすごかった」

看護師「わたしが初めて嗅いだのがこの方でした」

医者「で、3位が鳥飼さん、なんだけど、このとき森くんは」

看護師「わたしその日インフルエンザで休んでたから嗅げなかったんですよ」

医者「で、4位の新井さんと浜本さんが良い勝負なんじゃないかと話してるとこなの」

看護師「わたしの見立てでは今夏場だからそのぶんのポイントがどれくらい考慮されるかによりますね」

医者「どうだろういけると思う?」

患者「はい?」

医者「4位。本人的には」

患者「いや、あまりよくわからないですけど」

看護師「自信持たせるわけじゃないですけど相当臭いですよ」

医者「森くんは嘘つかないからね」

患者「あの、ランキングに入るとなんかあるんですか?」

医者「基本うちの病院では優遇される」

患者「優遇?」

看護師「臭い人はそれだけ匂いを閉じ込めてたってことですから」

患者「意味がわからないんですけど」

医者「すべてはリハビリテーション科の内山さんの審査次第」

患者「内山さん?」

看護師「人呼んで『匂いのスペシャリスト』『デモーニッシュノーズ』の持ち主と言われ、我が病院のギプス取り外し後のすべての匂いの審査を一手に引き受ける審査員」

医者「内山さんのニオイは嗅がないであげてね」

患者「は?」


内山さん、現れる。


内山「じゃあ、早速嗅がせてもらおうか」

医者「お願いします」

看護師「お願いします」

患者「…。」

看護師「ほら」

患者「ああ、お願いします。」

内山「では、失礼させてもらって」


内山さん、ゆっくり患部の匂いを嗅ぐ。


患者「あのこれ今なにが行われて…」

看護師「シッ!」

医者「内山さんの集中を削いだら審査に影響するよ」

内山「…うん。はい、とりあえずありがとうございました」

患者「はあ」

内山「なかなか強烈な匂いでございました。かなりの高評価が期待できると思いますよ」

医者「おい、良かったなぁ!」

内山「しかし、ひとつ言っておかなくてはならないことがある。実は僕今日ちょっと風邪気味でねぇ、鼻が詰まってるもので」

医者「え!?」

看護師「そんな!?」

内山「つまり、わたしの体調が悪いときにギプスを外した、このタイミングの悪さ、この辺が減点対象になるため、申し訳ないがランクインはまたの機会とさせていただきます」

看護師「…そんな」

医者「…嘘だろ」


内山、鼻水をすすりながら出ていく。


患者「…。」

医者「…。」

看護師「…。」

医者「…いや、なんて言ったらいいか、期待させてしまった私たちも悪かったというか」

看護師「…ほんと、ごめんなさい」

患者「いやいや別に良いですよ」

医者「とにかくランクインは叶わなかったけど、君は充分臭いから、自信持ってください」

看護師「わたし応援してます

患者「意味がわからないですけどありがとうございます」

医者「お大事に」

患者「はい」


患者、出ていく。

医者、タバコに火をつける。


看護師「…先生。もしも、もしも、内山さんの鼻の調子が良かったら」

医者「たらればを言うのは良くないけどそんな未来も見てみたかったね」

看護師「先生。…臭いですよ」

医者「浜本さんには負けるよ」

看護師「あっはっはっ」


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