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エッセイ 『無名の役者の2024/4/22の嘘のない1日』

朝7:30に起きて、雨。
前日の天気予報でわかっていたけど納得はできない。予定が狂う。腹が立つ。
いっぺん窓を開け外に手を出して雨量確認。小雨。ミストサウナぐらいの量。賭けだがギリ行けるかな、チャリンコで。
本日の予定は14時からファーストフード店でのバイトだけの筈だったが、昨日急にお手伝いの連絡をいただき下北沢の舞台の小屋入り仕込み。朝の9時入り。
仕込みとは舞台を立てたり照明吊ったり言わば祭りの準備。本当は嫌い。朝早くにトラックから色んなものを数人で運び出して劇場に入れるために何往復もしなければならない。地獄。音響機材に『が〜まるちょば』のカバンみたいなのがあるがこれがクソ重い。順番に並んで運び出すがそれを引いたら地獄。あと、舞台セットを組み立てる場合はでっかい壁を二人か三人で運ぶ。ただの引っ越し。重たいしぶつけないように気を遣いながら。地獄。とにかく地獄。この仕込みという文化はまだ慣れない。嫌い。でも今日お手伝いを頼まれた劇団は面白いから好き。なので頼まれたら行く。俺は基本好きな人に頼まれたら無理してでも行くのだ。厳密にいうと、仕込みの「嫌い」レベルを上回る「好き」だったから行ったのだ。
違法だが傘を差してチャリンコで向かう。電車で行く金が勿体無いのだ許してくれ。雨の日の小田急線は遅延の確率が高い、許してくれ。
集合時間の5分前に劇場到着。制作も兼ねてる女優さんに「ごめんね、本当にありがとうねー」とお手伝いを頼んだことへの謝罪と感謝をお伝えいただく。もう全然大丈夫。そこで今回出演する男性の役者さん達はみんな仕込みの手伝いに今日来ることを伝えられる。友達や好きな先輩達みんなに会えるなら尚更嬉しいので、ほんと全然大丈夫。
ザ・スズナリと言う劇場。客として観に行ったことはあるが荷物だけ置きに楽屋へ。楽屋は畳だ。今回は出られないがいずれスズナリに演者として出てみたいと思った。
さあ、地獄のトラックからの運び出しだ!小雨ぱらつく地獄地獄。でも嬉しいのはここの劇団の人たちは面白い人達だからちゃんと地獄と思って仕込みをしている。だから楽。きつい現場は「仕込みも楽しい!文化祭の準備みたい!自分達が立つ舞台でしょ?自分達で作るのは当然!演劇ってこうゆうのが良いのよね!」みたいなポジティブオーラ全開で手伝うような奴らが大半を占める現場。これはきつい。おもろない。まあ経験でそんな現場にはあまり当たらなくなったが。
でもここの劇団はそんな所とはひと味違う。すぐサボる。自分達のできることなんか知れている、とすぐ座る。すぐタバコに火をつける。40〜50歳くらいの大人達。最高!社会的には最低。でも俺もこっちだから安心。最高!
で、そんな人たちとやってるからスタッフさんも優しい。呆れているだけかもしれないがとにかく甘い。少し手伝っただけで褒めたり労わったりしてくれる。いい空間。居るのは優秀なスタッフと面白いだけが取り柄のおじさん達。落ち着く。最高!
本当は大嫌いな仕込みだがこんな人達とワチャワチャやっているのは楽しかった。
途中休憩の時とかはみんなといろいろ話したりした。後輩の役者の男の子が、こないだ大きな舞台の手伝いで参加した時にテレビでも人気の有名人に挨拶を無視された話とか、あそこのラーメン屋美味いよ、とかどうでもいい話をたくさんした。どうでもいい話はそこに本当は居たくないけど居なくてはならないから、せめて楽しむためにする話であって割と好きだ。その「せめて楽しむ」のトーク内容にどれだけの質量があるかがその人の実力のような気がする。まあいいか。
途中昼過ぎに下のカレー屋からいい匂いがしてきた。みんな匂いにつられて思い思い言葉を口にする。僕は間違えて『ガラムマサラ』を『ガララマサラ』と言ってしまった。30秒くらい間違えに気づかなかった。アホがバレる。でもそうゆうのちゃんと指摘して笑いに変えてくれる。好き。おもろい。
13時過ぎに手伝いを終えてバイトへ向かう。
みんなに感謝されながら劇場を出る。
雨は止んでいた。
ママチャリに傘を引っ掛けてバイト先へ向かおうと思ったら交番の前で警官に傘を持ってることを指摘されてそのまま防犯登録確認をされる。咄嗟に「置き傘しててね」と嘘をつく。こんな嘘は36になっても平気で出る。悪気もないからもうだめだ。そんなことで怒られないのにせめて怒られないように逃げ場を作る癖がある。最低だ。でも素直に応じるし寧ろ爽やかに身分証とかも自ら出す。その辺のポップさで最低な嘘は許してくれ。
無事に確認を終えた。心なしか最初かまし気味に来ていたはずの警官が、何もないし寧ろ爽やかな好青年を俺が演じたもんだから別れ際は素敵な笑顔になっていた気がした。俺は役者だ。雨は止んだのだ。それでいい。
そこから50mくらい進むと、15年前くらいにお世話になっていた芸能プロダクションの社員さんに出くわした。5年ぶりくらいの再会!びっくり!会えたのはあの警官のお陰かも、と思った。道で懐かしい話を少ししてバイトもあるから名残惜しいが出発。もう少し話したかった。
ファーストフード店でのアルバイト。
14時から17時。今日は暇だった。暇だからバイト先の高校生とか大学生とかと色々話した。向こうからしたら俺はおじさん。でも嫌な顔一つせず普通に話してくれる。みんないい奴。ほぼ仕事もせずトークで終了。まあこんな日があってもいいじゃない。
さて、時刻は17時。微妙。そういえば朝から何も食べていない。弁当は劇場でもらって帰ってきたけど、なんかスーパーの弁当だしこれをこの時刻に食うには一食潰れて少し勿体ないような気がする。どうしようか悩む。そうだ、昼間に劇場で先輩の役者さんが話していたラーメン屋さんに行こう、と思い立ち高円寺のラーメン屋へ向かう。
新潟燕市の背脂ラーメンらしい。数多の脂が浮いてる。体に悪そう。でも美味そう。カウンターには俺一人。18時くらいだしそんなもんか。厨房はカウンターの目の前。厨房の兄ちゃんは袖から和彫りが見えている。なかなかワイルド。途中でその兄ちゃんの手元が狂ったのか、水をひっくり返し微量の水がかかってしまった。謝られた。でも朝から雨でだいぶ濡れてるしぜんぜん気にならなかった。和彫りの兄ちゃんにだいぶ謝られた。今日はよく謝られる。本当に大丈夫。ラーメンが出てくる。美味い。あの役者さんに嘘はない。焼豚が美味い。帰る時「さっきはお水かけてしまい本当にすみませんでした」と深々と謝罪された。めっちゃいい人。でも和彫り。人間は見た目など関係ないのだ。うん。関係ないのだ。
お腹いっぱい。眠くなってきた。どうしよう。家帰って19時くらいか。今寝ると早すぎる。でも今日は朝から働きづめだ。家に帰ると眠れてしまいそうだ。どうせならもっと疲れさせてやれ。持ち前のMっ気が顔を出す。お疲れゲージが溜まるとさらに溜めて気絶するように、いわゆる泥のように眠りたくなる衝動に時々襲われる。なので、急遽サウナへ。今日のサウナは豊島園のスーパー銭湯庭の湯だ。どうやら最近サウナがリニューアルしたらしい。18時以降は安いからそれを狙っていく。自転車で向かう。
途中練馬駅近くの歓楽街を通る。昔行ったことのあるセクシーキャバクラが潰れずにまだやってる。コロナ禍を乗り越えたのか。大したもんだ。前は3000円くらいだったのに一番安い時間帯で4980円になっている。物価上昇の波をセクキャバで感じる。金はないが無理すればサウナ終わりに寄れなくもないか。とりあえずキープで。
そんなこんなで豊島園へ。
うん。サウナそのものは新しくなっていないが水風呂と整いスペースが新調されている。良いではないか。
同性愛カップルと思しき二人組がイチャついていた。壺湯に二人で入っていた。どうかやめていただきたい。
1時間半ほど堪能して帰宅。
帰りは少し肌寒いがサウナ終わりなので適温。
整っている。整っている時というのは危険だ。

昔、名古屋のウェルビー栄という名店でバッチリ整った後、ほぼ無意識でスマホを操作し、調べ上げ、初めて降り立った土地のはずなのに気付けばファッションヘルスにいた事がある。その日はハロウィンナイトということで嬢には天使のような羽が生えていた。一瞬死んだのかと思った。
酒に酔った状態とよく似ていて欲望の赴くままに行動してしまうから十分注意しなくてはならない。

帰り道、練馬の歓楽街へ。
一応調べる。セクシーキャバクラは今の時間帯だと、7980円。…アホか!行くかボケ!破産するわ!くそが!短時間で手数多めの悪態ついて退散。今日は欲望に勝った。

帰りに近所の松屋に寄ろうと思ったが店の前で喚き散らかしている老人が居たのでやめた。「俺は住吉の大幹部や!」と言っていたがたぶん彼は嘘をついている。大幹部は道で酒を呑まないだろうしあんなに喚き散らかさない。余裕がない彼は是非サウナに行くべきだと思った。
ほっともっとでのり弁を買って帰宅して食べる。昼間に劇場で弁当貰ったの忘れていたことに気がつく。明日の朝へ持ち越すか、でも食中毒怖いな。心苦しいが破棄。すみません。せっかくのご厚意を。

今日はよく働きよく休んだ一日だった。

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