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ポケモンへの強いモチベーション

「お前今回ポケモンに対するモチベ低くね?」

と言われたので「違うっ!」と大きな声を出してしまった。

なお、本エッセイはポケットモンスタースカーレット・バイオレットの本編及びダウンロードコンテンツのネタバレを含む点にご留意いただきたい。

ポケットモンスタースカーレット・バイオレットは、とても楽しかった。私はスカーレットを遊んでいる。例えば、私の友人は何故か全員バイオレットを買っておりユニオンサークルというみんなで集まれる機能があるのだが、奴らはそこでこれでもかとミライドンを乗り回して私の周りを取り囲んだ。

「おい、オレンジがいるぞ」

チンピラである。

「勘弁してくれよ」

私は笑いながら続けた。

「この歳になって通ってる学校に因縁つけられるのかよ」

二十八歳、初めての体験である。人生、何が起きるか分からない。友人とはちゃんと仲が良いので安心してほしい。ポケモン交換もする。

そんな感じで、一旦は彼らと別れ私のオレンジアカデミー生活は始まった。今回の舞台は学校だ。友人たちはチンピラを演じてくれたが、それはそれとして、この流れからは全く予想していないくらい、信じられないほどストーリーが良かったのである。

ポケモンバトルにおいて最強であるが故に孤独を抱えるネモが主人公の成長を喜び、最終的にライバルとしてまさに肩を並べる存在になったとき心から喜んでくれた。対等な仲間を探していた彼女にとっての宝物に自分自身がなる。

また、スター団といういじめっ子たちのグループに乗り込むうち彼らの背景が少しずつ明かされていき彼らもまた宝物を守る人々だったのだと解っていく。そこに深く関わるボタンという女の子の話。

それから、ペパー先輩。彼の相棒であるマフティフというポケモンのために秘伝スパイスを探す彼はその道を辿っていき無事マフティフを元気にさせた。その後バトルできるのだが、マジで強かった。

そうして、三人の仲間とのストーリーを追えて、ホームウェイという最後のルートに突入する。三人の仲間たちと、エリアゼロという立入禁止エリアにこっそり忍び込んでミッションを達成するのが目的である。

その道中でも、三人が会話する様子が見られるのだがここで初対面な三人は少しだけぶつかってはちょっと仲良くなる。友達の友達という微妙な関係から、少しずつ気を許せる仲間になっていく。スタンド・バイ・ミーじゃんね多分これ。ちゃんとちょっとしたトラブルと和解を短いスパンに詰め込んでくれて良かったよ。

とにかくだ。物語にのめり込んで、エンディングを迎えたとき。

「あー、最高だった。ポケットモンスタースカーレット、完!」

という気持ちになって、その後の図鑑埋めとか、ランクバトルとかを一切しなくなったのである。ダウンロードコンテンツも、配信者さんがやっているのをじっと見ていたらいよいよしびれを切らした妻が買ってきて「やりな! スグちゃま(スグリというキャラクター)に会いに行きな!」とシリアルコード付きのカードが机の上に置かれた。

ダウンロードコンテンツもクリアして、オマケ要素もきちんとこなしたとき、私の中に生まれた気持ちは「ダウンロードコンテンツ、え、おわ、終わり……?」であった。

全然スッキリしないが!? いや、良いエンディングではあった。しかし、これは「背景に何があったのかは考察で読み解くタイプのシナリオ」であった。キャラクター同士のやり取りが見られる機能も実装されているが、そこから「このキャラクターは〇〇さんと関わりがあって、それがきっかけでこういう行動をしているんだろう」と、ふんわり匂わされる事はあっても明確に示されない。

「何が言いたいんだ! はっきり言葉にしなきゃわからないだろうが!」

あ、でも、内容はめちゃくちゃ面白かったです。相棒とか悪の組織の壊滅とかはなかったけれど、それをやってきた主人公の加害性が描かれて「殴られたやつは、誰かを守るために強くなるとかはなくて、強くなったら自分より弱いやつを平然とぶん殴る」みたいな、負の側面がしっかりと描かれたので「マジかよ」と思いながらストーリーを進めた。

更には「主人公という才能の塊にはどんなに努力しても確実に負ける。それはもう、どうしようもない。そいつに主人公からしてやれることは基本的に無いが『てめぇこら、何ボーッと見てんだ一緒に戦え!』という些細な一言が小さじ一杯程度の救いになることがある」という、果てしなく僅かで小さな力しか無いことを思い知らせてくる。

本編ストーリーが「四人なら無敵! 何だってできちゃうよ! ね!」だったのに対し、ダウンロードコンテンツは「貴様には友達一人救う事はできない」と言わんばかりの現実を突きつけてくる。

あの子がどんなに努力しても敵わない相手が、俺であり、その強さ故に心をポッキリ折ってしまったら。もう、それはどうしようもない。それさえも噛み締めて前に進むしか無い。『ゼロから友達になりたい』と言って君はそれに頷いて応えるが、その後会うことははできない。なぜならその子は休学する。

顔がシワシワになってしまった。オレンジアカデミーに帰りてぇよ。なんだこれ。俺、そんなに悪いことしたかなぁ。したか。これがネモの抱えてた孤独であり、スター団の救いたかったものであり、ペパーが救いたいと願ったものか。そしてそれをもう一度叶えたかと思ったら、当たり前のように手から滑り落ちていく。

それでも、ストーリーは終わってしまった。

そしてリアルの友人たちと再びユニオンサークルを開き、ブルーベリーポイントという新たな通貨を荒稼ぎする。

「金払って作業すんの本当に意味分からねぇ」

と言いながら、ポケモンを倒し、写真を撮り、サンドウィッチを作る。四人集まればあっという間に不良生徒だ。特に「メタモンブロック探し」は、出たらすぐにサークルを解散して再集合したほうが良いといわれるくらい探した労力に見合わないブルーベリーポイントなのだが、一応やった。やってみての感想は、出たらすぐに解散して再集合したほうが良い。である。でも、探しながら文句をいう時間はそれなりに楽しいものであったので、無い方が良いとまでは言えない。めちゃくちゃ大変なタスクは一つくらいあっても良い。

この通り、ポケモンに対するモチベーションは決して低くはない。ストーリーは楽しいし、他の人と遊ぶのも好きだ。しかし、同時に「ストーリーが終わったら映画一本見たくらいのお腹いっぱいさになってしまったのであまり開かない」という状態でもある。遊ぼうと言われれば全然遊ぶ。でも、とりあえず立ち上げるには大切になりすぎた。

情熱の有無で言えば、有る。マジで今回は良かった。みんなやってほしい。ストーリーの美しさといい、小さくて大きな冒険をやってくれるしダウンロードコンテンツではエリアゼロ(立入禁止エリア)に入ったことを叱られる。叱ってくれる大人が居る。めちゃくちゃ良い。

ただし、胃もたれするくらいに「人の感情」が練り込まれている。ポケモンのいる世界なだけで、確かにそこに人が居る。だから、開くのに緊張する。そして、人が居るのに会えなくなってしまう。それがとてもさみしい。

だから今はTwitterを見て、他の人が描いているイラストを見たりして楽しんでいる。人には人のポケモンがあるのだ。

私はポケモンをしっかり楽しんでいる。

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