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後悔は深く根を張る

恋人と付き合って後悔していることが一つあるとすれば、寂しいという感情を知ってしまったことだ。

高校時代以前、寂しいという感覚は全く分からなかった。小学生の時は友達に囲まれていたので、もし寂しいと言う感情が生まれるとしたら引きこもっていた中学の時かと思うのだが、中学時代には誰かと一緒にいたいという気持ちを今ほど強く持ったことはない。高校時代も、孤独とか1人とか寂しいということを全く感じなかった。

今抱える、1人になることに対する不安は明らかに恋人と付き合ってから生まれたものだ。1人であることに対しての不安というよりも、1人になってしまうに対する不安。一体どうしてこんなことになったのだろうかと振り返ってみても、いつからこんなことになったのか。

私の人間関係はおよそ3年で終わりを迎えることが多い。幼稚園も3年間、小学校も3年生のときに転校して5年生から6年生に上がるときにまた転校、中学も高校も学校がそもそも3年しかない。大学も3年生になる頃にはほとんど単位を取り終えて大学に来なくなる。そうした環境の都合上、3年くらいで人間関係はどんどん切れていく。だからこそ、ずっと一緒にいられるという発想がそもそも私には無い。

そこに、恋人と言うイレギュラーが生まれてしまった。かれこれ6年も一緒にいる。

ただ、他の人は小学校も中学校も高校も、それぞれなんとなく友人ができていて、親友なんて呼べる人もいて、みんなで誕生日を祝ったりするんだろう。

先日、お誕生日パーティーに呼ばれた。書店で働いている社会人のAさんが自分でプロデュースした誕生日会。8人の大人たちに囲まれて、少数派の大学生としてお誕生会に参加した。わきあいあいとした誕生会が行われ私も出し物をして楽しんだ。

「Aさん、また端っこにいる。今回は主役なんですから」

「Aさん、次はどうしますか? なに食べたいですか?」

それぞれが声をかける。Aさんは照れくさそうにニコニコと笑って、Aさんに呼ばれて集まった人の会話を眺めていた。親戚の集まりに呼ばれたような暖かさがある。大人の話でちょっと分からないことがあったり、会話に混ざりたいけれど何となく入りづらかったりするような雰囲気さえも、人の暖かさを感じた。

良い誕生日だ。少し遠くから見守るような形で、私はAさんの誕生日を祝った。

最後の最後、ひとりずつ今日の主役であるAさんとの出会いについて語る時間があった。

トップバッターは言い出しっぺの女性。

「私が出逢ったのは……2年前?」

そうか、私よりも少し早く出会ったんだ。そう思いながら話を聞き、次の人へと順番が移った。

「僕は……半年前だっけ?」

えっ。思わず声が出そうになった。Aさんとずっと一緒にいるような雰囲気だったのに。ところが次の方も「私は去年出逢って」その次の方も「2年前に……」と話が続いた。今ここにいる全員がAさんと出逢ってから3年以上経過していなかった。かくいう私も、去年出逢ったばかりだ。

なーんだ。

肩から力が抜けた。

口々にAさんに助けられたことや、お世話になったことを話していて、また照れくさそうにAさんは笑っていた。

まだ出会って間もないのに、こんなに慕われているなんて。しかしAさんを見ていれば「それはそうだろう」と言わざるを得なかった。一気に人を引きつける魅力がある。だからわたしも、今日の誕生日に参加したのだ。

その日はおおいに飲んで、ふらふらになりながら電車に乗った。しかし、しばらく揺られていると何だか寂しくなってしまった。今年の誕生日も、そういえば私も3年以内に出逢った人にお祝いされていた。今で身の回りにいる人たちは、もうじき3年目、4年目を迎える。そろそろ節目を迎えて一度別れることになるのかと思うと、やはり心が苦しかった。

人の縁は3年。何の根拠もないジンクスかもしれないけれど、私にとっては経験則として充分な重みを持っていた。そしてずっと一緒にいたいと思う人が、ずいぶん増えてしまったことを実感した。離れてしまう、別れてしまうというのは本当に寂しい。

離れたくないと思っている時ほど、寂しさは募っていく。こんな感覚は、恋人と付き合って以後生まれた。自分が誰かから好かれるという思い上がりがふつふつと湧いてきて、それがリセットされていくことから目をそらし、自分を見ていて欲しいと望んでしまう。

これさえなければ、随分楽なんだけどなぁ。

夢中になって、走って走って、気がつくと周りに誰もいなかったり「またね」といって離れていく。それがイヤで、また顔を合わせるのも辛くて「またね」と言われる前に自分から消え去ってしまいたくなる。

出会ったときは、程なくして別れ方を考える。深入りしないように、ベタベタしないように、いつ「またね」と言われても良いように。ずっとそうだったはずなのに、誰かが側にいてくれるはずだと僅かに期待するようになってしまったこの変なクセは、深く心に根を張るばかりで、いつまでたっても抜けてはくれないのだ。

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