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死と血と暗闇の世界で。

Bloodborneというゲームをしている。

もう、何度死んだのだろう。ひたすらヤーナム市街で殺されている。そのやられっぷりたるやひどいもので、階段を降りたと思ったら死んでいる。本当に何が面白いんだか全くわからないゲームだが、たまに思い出して起動する。そして、雑魚とは到底言えないゾンビに腕ほどの長さのあるナタを振り下ろされて、体力をバリバリ削られる。気がつくと地面に這いつくばっている。

元々は、友人とモンスターハンターをするためにプレイステーション4を買ったことが始まりであった。この友人はゲーム選びに関してはいつも相談に乗ってもらっている。Nintendo Switchを買うときも散々「……私は、ゲームを楽しめるだろうか?」と慄きながらゲーム売り場で迷っている私の背中を押してくれた。なんだかんだでゲームは楽しかった。そろそろ新しいゲームを買いたいがプレイステーションのゲームはなんだかパッケージが暗くて怖い。小学生の時はマリオかポケモンか、はたまたどうぶつの森で遊んでいた。その頃から全く心が成長していない私には、どのゲームも難しそうに思えた。

それこそ、Twitterで「お尻を追いかけるゲーム」などとバズらない限りはタイトルを目にすることもないし「いや、アレは変なところばかり注目されているがストーリーも良いし、音楽もいいんだ」とプッシュされなければ買うこともなかっただろう。それがニーアオートマタというゲームだった。

マリオとポケモンでゲームに触れ、モンスターハンターでビビりながらモンスターを倒し、ニーアオートマタでアクションゲームってノーマルモードならなんとか行けそうだと思った私だ。そして、友人に「次は何をすればいいかな?」とチュートリアルを進めてくれるキャラクターに向けるような質問をした結果おすすめされたゲームがBloodborneなのである。

とりあえずプレイした感想は「いやこれバイオ・ハザードじゃねぇか」である。私はバイオハザードをやったことがないので、想像でしかないが物陰から「うぉぉぁあ!」と呻きながらゾンビが出てきて主人公を殺すゲームはみんなバイオハザードだ。

「なんなんこれ!!」

私は友人に文句を言った。

「え、面白いだろ?」

「怖い!」

「えー、面白いのに」

「何度やっても殺される」

「マルチプレイもできるから」

なんだよ、マルチプレイができるのか。ならモンスターハンターみたいなものだ。ソロで殺されるならバイオハザード、マルチで一緒に狩るならモンスターハンターである。

ところが、友人と一狩り行くためにはある程度ステージを進めてアイテムを獲得しなくてはいけないそうだ。しかし、私はあまりにもバシバシ殺されるので、そこまで場面が進んでいない。マリオで言うなら1−1の半分くらいのあたり、ポケモンで言うなら一番道路でポッポかコラッタと戦っているあたりだろう。全体像がつかめていないので大体のイメージだが、そんなに大きく外れてはいないはずだ。少なくとも1つ目のジムバッジは獲得できていない。

「駄目じゃん!」

「頑張れ」

私はここに生まれて初めて「序盤から殺されて学ぶゲーム」を手にしている。これまでのゲームでは弱い敵を倒しながら、勇敢に戦っていたのに、今や道具は使うたびになくなっていき、死ぬ度に経験値も根こそぎ奪い取られるデッド・オア・アライブな世界の住人である。死ねば死ぬほど状況は悪くなっていく、せっかく手にかした火炎瓶もうまく使いこなせず4つほど無駄にした。そして、道の影から現れたゾンビに松明で火をつけられて死ぬ。当然、火炎瓶は減る、経験値は奪われてしまった。回復薬は経験値を通貨代わりに獲得するのだが、ステータスには無情にも「0」と表示されている。

「無理だ! 敵が二人いたら死ぬ!」

「一人ずつ、おびき出して倒すゲームだから」

なるほど。一人ずつ。そうか。

再び、薄暗い世界に足を踏み入れる。目の前にはゾロゾロと歩くゾンビ。まだこちらには気がついていない。そーっと、近づく。しかし、一人だけおびき出すってどうすればいいのだろう。試しに一番後ろのゾンビに切りかかってみた。

ザシュ。やった、一撃。

しかし、そのゾンビのうめき声が前にいた3人のゾンビに届いたのか、はたまた近づきすぎたのか、ゾロゾロと追いかけてくる。

やっば。

走ってくるゾンビ。

逃げる私。

逃げているうちにだんだんゾンビも散り散りになってくる。一人が私に追いついた。

馬鹿め!!

お前一人なら怖くないんだよぉ!!

オラァ!

ザシュ!!!

よろめくゾンビ。

しかし、一撃では死ななかった。ゾンビがナタを振り上げる。私も慌てて攻撃しようとしたその時、二人目のゾンビが追いついてきた。

ザシュ!!!

痛い。回復薬!

ザシュ!!

やめっ。あっ、もう薬がない!

ザシュ!

ちょっ、

ザシュ!

ぐぁ!

私は死んだ。

そして再び、セーブポイントへと戻る。何だこのゲームは……ジリ貧じゃないか……。しかも、さっき倒した敵も復活している。そこまで無かったことになるなら、薬も元に戻してくれればいいのに。さっき横から飛び出してきたゾンビの攻撃をかわし、一撃をお見舞いする。よし、倒した。

しかし何度やっても、二人、場合によっては三人のゾンビに気が付かれ、逃げても逃げても追ってくる。そして「えーい! 知るか! やってやれ!」と振り返って応戦するのだが、この世界では数の力は圧倒的だ。

無理だ……倒せない……。

「百万回くらい死んだ」と、友人に報告する。本当はちゃんと死んだ数を伝えたかったけれど、数える余裕はなかった。

でも、とりあえず強攻撃を当てれば割と一撃で倒せる。今遭遇する敵は、だいたい二回殴れば倒せるはずだ。その二回がなかなか当たらない。

私は諦めてゲームの電源を切った。

何が面白いんだかやっぱりわからない。しかし、つまらないわけではない。これまでプレイしてきたのは夢中になって一気にクリアするゲームばかりだったが、Bloodborneはたまに思い出しては起動し、操作を思い出しながら武器を振るう。

ザシュ!

血しぶきを上げながら敵が倒れる。

ザシュ!

しかし逆に無謀な攻撃の結果として私は無残にも死んでしまう。チュートリアルもなにもない。そういえば最初に武器を選んだけれど、あれもどれが初心者向けとか全くわからなかった。性能に違いがあったのかもわからない。

そういえば、私はこのゲームのやり方をあまり調べていない。いつも攻略サイトに手を出すのに、Bloodborneはなんとなく「もうちょっとだった」といつも思う。あと一撃で倒せたとか、あそこでしくじりさえしなければ、という言い訳と改善点の間くらいの負け惜しみが脳裏をよぎる。手を借りたくない。このヒントは私が命を犠牲にして手に入れたものなのだ。

気が向くとまた、電源を入れて闇の世界へ足を運ぶ。

四人のゾンビをひきつけて一人ずつ倒す。

ザシュ! ザシュ!

街道を慎重に進み、驚かせてくるゾンビも一人ずつなんとか倒す。体力は残り四分の一、回復薬はとっくに切れた。

そして先に進むと、キャンプファイヤーさながらの焚き火を取り囲む十人のゾンビ。……十人、かぁ。試しに銃で一人おびき寄せてみることにした。

パァン!

命中!

あっ、三人気がついた。一人銃持ってんじゃん!!!

パァン!

私は死んだ。

やっぱり無理なんじゃないか。いや、しかし、さっき一人ずつ倒したところまでおびき寄せれば、あるいは……しかし、それだと長い戦いになるな……。

多分、効率のいい倒し方はある。でも、いつもこんなふうに「惜しかったなあ」と思いながら電源を切る。

「ちょっとだけ倒せるようになった」

「成長を感じる」

クリアするのはいつになるのだろう。いや、もっと手前に友人と一緒にプレイするという目標もある。それも、いつになることやらわからない。ただ、また思い出したらそっと起動して、また暗闇の世界に立ち向かおう。

それが明日か、来週かはまだわからない。

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