からだ、かたい

体が固い。

デスクワークをするときは、同じ姿勢でいないように、座り方を変えたり、高さの丁度良いロッカーにパソコンを置いて立ちながら作業をしたりしている。結構自由にやらせてもらえるので、昨日は床で正座してカタカタと作業した。

しばらく同じ姿勢でいると、体のどこかしらがじわりと痛くなってくる。腰のあたりや、肩のあたりに、謎の痛みが蓄積されていく。なにかよくないものが充電されている。

なので、お昼休みはストレッチをしたり、ヨガのようなものをしたり、ラジオ体操に出てきそうな運動をしたりする。体を動かせば、何となく体が軽くなったような気がして、また作業に戻る。

そして、座る。……痛い。

昔から年々、体の可動範囲がせばまっている気がする。しかも、運動もストレッチ程度にしかしないので、体力も落ちる。

これはいけない。と、帰りは最寄り駅から徒歩30分の道のりを走って帰った。1キロくらいであれば、まだ止まらずに走れそうだ。


高校生の頃まではまだ体力測定というものがあった。大学では体育の授業こそあったものの、測定やテストはない。

そのころは既に体の固さは健在で、長座対前屈という、足を延ばして座り、手を伸ばして、どれくらい体が前に倒れるかという例のアレがあった。もう既に座った時点で痛い。ここから前に倒すなんて信じられない。そう思いながら必死で体を倒し、わずかに測定用のバーが前にずれた。多分4センチくらい。

痛い。いてて。ちなみに握力は右も左も30だ。

そんな貧弱な状態だったのだが、持久走は得意だった。走り続けるだけならできる。万年遅刻ギリギリの私は、走る用の筋肉だけはギリギリで残っていたらしい。

1000メートル走も、楽しかった。1キロなら毎日走っているし、走り終わっても足が痛くならない。ただ、一周250メートルの同じコースを4週するのは飽きてくる。

どうしたものかと、思って1週目を終えたとき。小さい頃に見た「ランニングをしてみよう」みたいな、特集を思い出した。NHKか何かでやっていた、子供向けのやつだ。

2週目、レクチャーを一つずつ思い出してみた。走るときは、手を卵を握るように優しく丸くして、目線は上の方を見る。私はそれを思い出しながら、空を見た。高速道路が見える。青空よりも断然人工的な景色で、そこをトラックが走っている。

ふーん。こんなのあったんだ。

カーブを曲がって今度はグラウンドの外を見ると、見知らぬおじいちゃんが散歩していた。「何してるんだろう」そう思いながらゆっくりゆっくりあるくおじいちゃんを見ていた。再び高速道路が目に入る頃には、体は自然とコースを一周した。

「あぁ、そうか、別に前ばっか見なくて良いのか」

3週目、私は面白いものが無いか、キョロキョロしながら走った。蝶が飛んでいた、おじいちゃんはまだ歩いている、高速道路をバスが通る。注意力散漫な私は、いろんなものに目を引かれながら走った。気がつくと、一人二人と抜いていて、先頭に出ていた。

なんかもう歩いてる人もいる。でも私は、4週目の面白いもの探しに突入していた。

まーだ、おじいちゃんは歩いている。いや、木の下で止まった。なにか見つけたのかもしれない。おじいちゃんが視界からはずれると、空を見上げた。

私はその学年の誰よりも早く1000メートルを走った。

今日も、遅刻しそうになりながら走る。6月、空は曇り。でも、これから暑くなりそうだ。

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