見出し画像

ミュージカルの戯曲を読む。

戯曲を読んでいる。いかにも文学家という感じがするだろう。舞台上で役者さんが演じるに当たってのセリフや、仕草のリクエスト、場面割の書かれたものだ。

舞台の台本があるとして、今読んでいる戯曲のほうは演じ終えたものを再度ト書きも含めて書き直されたものだろう。

台本のほうは、おそらく最初の段階から何度も書き直しを経て、ステージでの上演に至る。私が読んでいるのは、いわばその完成したものだ。

それが"戯曲 ミュージカル刀剣乱舞 結びの響、始まりの音"である。

家に妻のブルーレイがあるので、それを見ながらセリフを追っている。私はなぜだか、日本語のドラマやアニメでも字幕がある方が聞きやすい。目で見たほうが覚えやすいのかもしれない。音で聞いて理解しているつもりではあるのだが、何を言っているのかは実際に文字で見たほうがわかりやすく感じる。

私はブルーレイを再生すると、戯曲の本を開きセリフを順に追う。なりきって読み上げたりもする。しかし、実際に読んでみるとかなり難しい。演劇として、しっかりセリフが決まっている。まさに一言一句、はっきりと言葉があった上で、間を取り、感じを乗せる。特に私は実際にやってみて、かなりセリフを早口で言ってしまう。また、言うことに必死で台詞を読むのだが、実際の映像ではかなりたっぷりと間を取って話している。

なにより、役者さんたちはこのセリフを全部覚えているわけだ。以前、このミュージカルの演出家をされている茅野イサムさんのインタビュー記事を拝見したが、セリフは全部覚えているとのことだった。ステージ全体を見る立場の方からすれば、当然備えておかなくてはいけない技能なのかもしれない。

しかし、この文章量、何より演じる時間、読むのにも演じるのにもとにかく時間がかかる。セリフをはっきりと、噛まずに、かつ、しっかりと間を作って感情を込めて演技にする。しかも、途中の回変わりのMCでは演者さんがその部分だけ台本を書くこともあるそうだ。

私は今手元に本を持っているが、本番では当然本を持つことはできないので全部頭に叩き込むことになる。この本一冊全部、暗記しているというのか。にわかには信じがたいが、目の前の映像と本のセリフはピッタリと一致している。少なくともそれは事実だ。

セリフが飛ぶ、セリフを食う。そんな言葉を聞くくらい、掛け合いにおいては自分の番で言葉を言わなくてはとせっつく気持ちもあることだろう。私ならきっとそうだ。

私は母の友人が劇団におり、たびたび演劇に連れて行ってもらった。ミュージカルとはもちろん違うが、取り直しの聞かない一回きりの演目は、ハラハラとしたり予算の都合を感じたりした。しかし、私自身が演劇をする気にはならず、今でもあくまで真似事である。

また、ミュージカルは、演劇のあとにライブパートがある。本一冊のセリフを完璧に覚えて、人前で披露できるようになったうえで次には踊りのスキルを求められる。私はダンスも得意ではないので、真似して踊っていると画面の向こうの人々はもう既に別の振り付けに移っている。

私は妻と一緒にペンライトを振る。何となく運動している気になるからだ。実際効果はあるようで、妻の方は二、三日経っても「まだ、あのときの筋肉痛がいる……」と言っている。

妻も、私がここまでハマるとは思っていなかったらしい。しかし、気になってしまったものは仕方がない。大きめの本屋さんで偶然、刀剣乱舞の本を見つけそれがト書きであると分かったとき、既に私の手の中にありこれから買われる数冊の仲間入りを果たした。茅野さんのインタビューが掲載されている本もその時に購入した。

2.5次元俳優さんたちのYou Tubeちゃんねる、ぼくたちのあそびばの企画「細かすぎて伝わらない、2.5次元俳優モノマネ」の中で、それまで演者さんのあるあるが繰り広げられていた中突如として、鳥越裕貴さんが繰り出した「シャイな演出家」というモノマネでフフッと笑い、そこに牧島輝さんが「それで言うとありますよ」とたたみかけた。

「シャイな演出家が、怒り始めるときにカ〜ッとなって 語彙がもう「オレ」と「オマエ」しか無くなる時」

私はこのモノマネで、シャイな演出家が気になってたまらなくなり、茅野イサムさんにたどり着いた。私は刀剣乱舞のファンであり、シャイな演出家こと茅野イサムさんのファンでもあるのだ。正確には、モノマネで誇張されている茅野イサムさんのファンというべきなのかもしれない。ここまで来るともはや架空の人物を偶像的に崇めている。

そうして一人を好きになっていくと、段々他の人も好きになっていく。私も最初は、榎本武揚というキャラクターにしか興味がなかった。しかし、そこから藤田玲さんを知り、藤田玲さんが演じるということで呪術廻戦の舞台を見るために慣れない応募を妻に手伝ってもらった。そして今度は、ミュージカル新テニスの王子様に出演するというではないか。とりあえず、また妻に見てもらいながらチケット争奪戦に参加することになりそうだ。

話を戻すが、戯曲である。舞台、あるいはミュージカルという世界があることはよく知っていた。最近は見る機会も増えた。しかし、戯曲の本を手に、彼らの言葉を予め見た上でそれをどのように表現しているのかを見ると、ミュージカルの新たな楽しみ方を見つけたような気分になる。

やってみて初めて分かることもある。ゆっくり話す、まくし立てて話す、説明のために順序立てて話す。その一つ一つに技術があり、ただ言えばいいというものではなく、適切に伝わるように何度も何度と練習が必要であることはよく分かった。

ただ音読をするだけでも、とても疲れる。それを、全身を使って表現したあとでダンスパートまであるのだ。

ミュージカルと、それを作る人々にまた新たな視点での敬意を抱く。しかし、本当に疑問である。どうやってこれを全部覚えているのだろうか。特に、藤田玲さんは、舞台とミュージカルを掛け持ちしているわけだが、本当にどうやっているのだろうか。

パラパラとページをめくる。奥付には、演者さんの一覧がある。

刀剣男士や歴史上の人物の名前たちと、演者さんの名前が並ぶ。

"榎本武揚 藤田玲"

私のミュージカルへの情熱は、この榎本武揚から始まったのだ。そう思うと、この文字列だけはスタッフクレジットとして、私の中に深く刻まれた一文である。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。 感想なども、お待ちしています。SNSでシェアしていただけると、大変嬉しいです。