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小さな生活の声 ライターっていつまで続けていけるんだろう(とま)

「小さな生活の声」は25〜29歳を対象にした会話の記録です。20代後半に差し掛かった途端、急激に変化する周囲の環境。結婚、出産、キャリアアップ……着実にステージを登っている友人を見て、自分には何もないと焦燥感に駆られる人もいるのではないでしょうか。“大人になっていく自分”と本格的に向き合い、大人と子供の狭間で揺れ動きながら少しずつ変化していく。そんな彼らと私の本音を記録していきます。

第6回目に登場するのは、フリーライターとして活動する27歳女性・とまさん。

『けもなれ』は転機になったドラマ

奈都樹:よろしくお願いします!前からとまさんの記事やTwitterを拝見してたので、今回はお話伺えて嬉しいです。

とま:ありがとうございます。よろしくお願いします。

奈都樹:読み手に寄り添う繊細な文章を書かれる方という印象があって、お会いしたいと思っていたんです。以前はOLもやられていたそうですね。

とま:はい。人事・会計システムなどを作ってるベンチャー企業で、私は少し特殊な職種についていました。担当部署の上司と部下の間を取り持つような役割です。上司に代わって社員の声を聞いて、部署内で意見を言いやすい環境にしていくんです。あとは社内イベントの企画を考えたり。

奈都樹:へえ!業務だけ聞くと、とまさんに合いそうですけど…

とま:1年ほど働いて辞めました。入社した時期が会社の業績が悪化したタイミングと重なり、雑用係のようになってしまって。想像していた業務はほとんどできずモヤモヤしていたんです。他の職種の方から「楽でいいよな」「あの人たち結局何してるの?」とか思われてるんだろうなって出来事もありましたし、私自身負い目もありました。

奈都樹:そうなんですね。

とま:ほぼ定時で帰れるので、プライベートを楽しみたい人にはいい職種だったと思います。同僚は華やかな美人ばかりで、社交的な子が多かったですね。仕事が終わったらコリドー街や合コンに行くみたいな。同僚の男性から誘われて飲みに行ってる人も多かったですし、社内恋愛もよくありました。

奈都樹:「定時で帰れる部署」って聞くだけでは羨ましくも感じるのですが……とまさんはもっとバリバリ働きたいタイプだったんですか?

とま:何よりやりたい仕事ができないことへの葛藤が大きかったんです。だけど、いわゆる「バリキャリ」みたいになれる性格でもなくて。

奈都樹:とまさんの想像している「バリキャリ」というと?

とま:意見が堂々と言えてメンタルが強い人。営業で活躍されてる女性たちはそういう人が多かったんです。私はキツく言われただけですぐ動揺してしまう性格で。そうやってビクビクしたり、嫌われないようにヘラヘラしてたりすると、相手の態度はさらにキツくなります。わかっていても頼り甲斐のありそうな強いタイプにはなれなかった。かといって、同僚みたいに華やかな女性にもなれない。生きていく上で、いつもその二択に絞られることがキツかったです。

奈都樹:確かに、本来はその二択で揺れ動くようなグラデーションの中で生きている人がほとんどであるはずなのに、そこがフォーカスされることってあまりないですよね。例えば「お仕事ドラマ」ってこれまでたくさんありましたけど、大体主人公は職場でも頼りにされていて経済力もあるキャラクターばかり。主人公の部屋が映されるたびに「あんな広い部屋に住める20代・30代なんていない!」と思ったりしてました(笑)。

とま:ドラマには決まった“働く女性像”がありますよね。「仕事にやりがいを持ちたいとは思ってるけどメンタルは強くない」とか「仕事はバリバリしてるけど男性にはあざとい」とかもっと多様な女性たちが描かれたら面白いのに。

奈都樹:そういえば、とまさんは『獣になれない私たち』(新垣結衣と松田龍平主演による野木亜紀子脚本ドラマ/以下、『けもなれ』)が好きなんですよね。退職されたのはちょうどその頃ですか?

とま:そうですね。『けもなれ』は転機になったドラマでした。周りは華やかな生活を送ってるのに、一方私は自分のやりたい仕事はできないし、結婚もできなくて……あのドラマと重なるところが多かったんですよね。モヤモヤしてたところに勇気をもらって転職できました。

実力がわからないと原稿料の相談もしづらい

奈都樹:そこからライターとして活動されたのが2019年ごろですよね。

とま:元々文章に携わる仕事ができたらと思っていたので、エンタメ系のメディアに定めて転職活動してたんですけど、すぐには受かりませんでした。それで3日ぐらい単発でWEBライターをやってたんですけど、1週間後にはフリーランスで活動していくことを決心していましたね。自分のペースで仕事ができるから人に気を使わなくてすむし、じっくり考えて作業することが向いていたんですよね。それからダメもとで営業していったら、いつの間にかフリーランスとして生活できるようになっていました。

奈都樹:ライターという職業は自分のペースを保つことが大変じゃないですか? スピードを求められることが多いですし、メンタルを保ち続けることも重要ですよね。

とま:そのあたりは上手く調整しながらできてると思います。自分のペースを保ちながらやれているのはよかったです。

奈都樹:ある程度の収入を保ちつつ、自分のペースも調整できてるのは凄いです。フリーランスで仕事されてる方はそのバランスが難しいと思うので。ライターを始めて4年目で考えることはありますか?

とま:仕事をいただけるのはありがたいとは常に思っています。ただ、同僚がいるわけではないから色々わかりずらいですね。原稿料のことだったり、スケジュール感だったり、ライターとしての評価だったり。自分の中で対策を練るしかないと考えてます。

奈都樹:確かにそうですね。

とま:今は生活ができる程度の仕事はもらえてるんですけど、急に仕事の依頼が来なくなったらどうなるんだろうという不安はあります。

奈都樹:実力がどの程度なのかは見えづらいですよね。会社のように定期的に面談があって、上司から評価されるわけではないですし。

とま:そうですね。実力がわからないと原稿料の相談もしづらいです。Twitterで原稿料問題を発信している方っているじゃないですか。私はそもそも基準がわからないので「この原稿料って低かったんだ」と初めて知ることがよくあります。ある種の図々しさがあった方が交渉しやすいんだろうなと思うんですけど……最近はかなりシビアに考えるようになりましたね。ライターっていつまで続けていけるんだろうとか。

奈都樹:そうですね。この年齢になると、将来のことが突然現実味を帯びて見えてきたりしますしね。

とま:私たちの世代は古い価値観と新しい価値観の間にいるんだなと思うこともあります。年下の知り合いたちは、実力主義的な考え方のなかで自信を持って生きていて。そこにもギャップを感じるんです。古い価値観も新しい価値観もどちらもわかるけど窮屈だなって。

奈都樹:そうですね。例えばここ数年で年功序列的な考え方はなくなってきましたけど、私はそれを悲観的にみてしまうところがあります。仕事の能力がシビアにみられている感じがして。「10年以上同じ会社で働いてるけど未だに給料は新卒とほぼ同等」という同僚を見て転職を決意したという友人がいたりもしました。

とま:そうなんですね。

奈都樹:マイペースに働いてギリギリな生活を送り続けることもできるかもしれないけど、果たしてそれでいいのかという不安もありますよね。とはいえ、頑張り続けると先にメンタルが崩れてしまう可能性もある。そのバランスが難しい。

とま:私たちってやっぱり考え方が「ゆとり」なんですよね。でも小さい頃って、昔の価値観もまだ全然残ってたから「女性は結婚が最終目標」的な考え方がまだありましたよね。女性は、結婚して、子供産んで、家庭に入って……みたいな。だけど大学生になった頃には「女性も働き続けることが当たり前」という考え方にシフトしていって、少し戸惑いもあります。

奈都樹:今専業主婦をしている女性は私の周りにもほとんどいません。女性が活躍できる場は増えていてそれ自体はいいことですけど、だからと言って女性が働きやすい環境になっているのかはまだ微妙ですよね。

とま:うんうん、そうですね。

世の中にうまく適応できない人に寄り添ったものが描けたらいい

奈都樹:あらゆることを考えていくと将来のことが心配になったりしませんか? 人並みに給料は貰っていても普通の生活を送ることは難しいですし。

とま:生活がパツパツななかで、みんなどうやって暮らしてるのか謎です。今は結婚して夫と二人だからやっていけてますけど、自分一人でライターをやっていくことはとてもじゃないけどできないです。

奈都樹:結婚したくないとか、子供ほしくないとかじゃなくて、単純に金銭的な不安からできない人は多いですよね。

とま:今の給料だったら子供は育てられないですもんね……。金銭問題は最近よく話に挙がりますね。この先どうやって生きていくの、みたいな。

奈都樹:私もよくします。

とま:子供ができたとして、大学とかどうやって行かせるのとか。私の母親はシングルマザーなんですけど、看護師としてずっと働いていて、私を大学まで行かせてくれました。改めて母親に守られてきたんだなと思います。

奈都樹:働きやすい環境は見つけたけど金銭的な面で不安もあるというなかで、今後について考えることはありますか?

とま:強い女にはなれないなと思うようになりました。会社でキャリアを積んで、後輩を育てて……みたいなことはできない。だから今の仕事は向いてるとは思ってます。ライターとしての着地点が完全に見えているわけじゃないですけど、今は自分でも脚本が描けるようにシナリオスクールに通ってるんです。

奈都樹:ええ!

とま:元々演劇が好きだったので物語を書くことは楽しいです。Twitterでは賛同が得られにくいかもしれないけれど、ドラマとか映画として形にすることですんなり伝わることってあるじゃないですか。作品を通して、世の中にうまく適応できない人に寄り添ったものが描けたらいいなと思っています。


【奈都樹後記】

仕事には責任を持って取り組みたいけれど、メンタルが保てないというジレンマってありますよね。いろんな同世代に出会ってきたけど、心の底から仕事なんてどうでもいいと思ってる人は実際そんなにいない。そういえば、この取材の後に「メンタル 崩す」でググったら『打たれ弱過ぎる若者をなんとかしたい!』という記事が上位にあがってきました。クリックしてみたら、とある大学の先生のインタビューでした。インタビュアーは冒頭に「「ゆとり教育」を受けた世代は、淡々としている、やる気がない、マイペース過ぎるなどの特徴があると言われています。上の世代にとっては理解しがたい面が多々ある彼らは、そもそもどのようなメンタリティの持ち主なのでしょう」なんて質問をしていたりして、しかもその回答もどこか大きくズレていて、こうやって誤解が生まれていくんだろうなと思いました。確かに打たれ弱すぎるかもしれん。だけどそんな若者を“なんとかしたい”という心意気があるのなら、その若者にちゃんと話を聞くことが一番早いのでは。このインタビューの空気感がそのままテレビにも反映されていて、「全然芯食ってねー!」と思いながらドラマを観てたりします(もちろん全てではないけれど)。そんななかで、とまさんのような書き手がもっと世の中に広まっていったらそのズレは少しずつ無くなっていくんじゃないかな。とまさんの思い切りというか、自ら道を切り拓いていく姿に刺激をもらいました。


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