「流して生きていけたら楽だったのかも」Aさん 28歳(小売企業→メーカー勤務)の話
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仕事はずっと辞めたかった、でも会社のためにはなりたかった。
大学時代はまだ社会人というものがキラキラして見えてたんですよね……商品開発とかできたら楽しそうだなと思って、元々好きだったブランドの総合職として就職しました。
でも新入社員ってまず店舗に配属されるんです。接客業はほんっとに大変でした……。関東地区で第一希望を出したのに、配属されたのは知り合いも誰もいない関西地区ですよ。そこの店長とソリが合わなくって。
いわゆる女社会って感じでした。バイトから上がってきた人ばっかりだから社員には特に厳しくて。「大卒なのにできないの?!使えない」「なんでお前がここの店舗なの?」とかよく言われましたよ。私、学生の頃はバイトも頑張ってきたし、エントリーシートにかけるようなこともたくさんしてきて、授業サボってる子よりも社会人イケる!と思ってたんです。でも実際は全然ダメでしたね。自分に期待しすぎた分、無能さに凹みました。
今思えばあの環境もパワハラに近いものがあったと思うんですけど、会社には相談できませんでした。本社で働きたいのに、下手なこといえば使えないやつと思われて本社勤務の道から外れるかもしれないじゃないですか。ただでさえ身寄りのない土地で暮らして家族に心配かけてるのに、仕事の悩みなんて言えませんでした。心配かけてしまうと思うとつらくて。大丈夫って自分にも言い聞かせていました。
そう思ってたんですけど、新入社員研修でつい号泣しちゃったんです。店舗に配属されてできるようになったことを発表しなければならない場面で「私には何もできることがない!」って。今思い返せばそんなことなかったのかもしれませんけど、怒られてばかりで自信は皆無だし、怒られないようにビクビクしてさらに失敗する負のループから抜け出せなくて。みんなの生き生きとした発表を聞いていたら、胸を張って発表することができなかったんです。
そんな私の様子を見た人事の方が「何かあったの?大丈夫?」って優しい言葉をかけてくれて、思いきって事情を打ち明けることにしました。それで別の店舗への異動が決まって……ただ、こういうことってかなりイレギュラーなので、同期からは「〇〇は挫折したんだ」とか噂されたりして、それはそれで辛かったですけどね。
そういえば話してて思い出したんですけど、人事に「なんで私あの店舗に配属されたんですか?」って聞いたことがあったんですよ。そしたら「あれ?聞いてないの?性格テストで店長と相性が良かったからだよ」って言われて!え〜〜〜みたいな(笑)。テストなんて全然当てになんないわと思いました。
異動してからはだいぶいい環境になりましたね。上司にも怒られることはあるけど理不尽なことは言われなかったし、わかりあえる同僚もいたし。前の店舗がおかしいだけだったんだなって。
でもそこでも続けていられたのは1年ちょっと。終電が無くなるまで働いてたり、休みの日に四六時中連絡がきたり、連休がなかったり、深夜に会社のグループラインで長文の指摘をされたりでやっぱり色々辛かったんですよね。
一部の同僚と上手く付き合えていなかったことも大きいです。完璧主義でミスが無い人たちでした。だから私が何かを間違える度に「なんでこんなミスするのかわかんないんだけど」という感じで。当時みんな忙しくて余裕がないせいかギスギスしてたんですけど、そのイライラを全部ぶちまけられてる気がしちゃいました。
せめて会社のためになる資格を取ろうと思って勉強を頑張ってた時期もあったんですけど、ある日ふと「私このまま死んでいくのかな」って考えちゃったんです。元々総合職で入ってたのに、頑張ってもいつ本社に行けるのか見通しがつかない状態だし、冷静に考えられる状態じゃなかったんです。
現場では怒られることも多かったですけど、いくつか資格をとってたりはしてたから会社としての評価は高い方だったと思います。本部の人間から見たら“頑張ってる人”に見えたかもしれないですね。
でも仕事に対してモチベーションが上がったことはないんです。みんな死んだ顔して働いてるし、社員は休日出勤して勤務中に終わらなかった店のメンテナンスとかしてるし。ここにいたら自分も先輩たちみたいになるんだろうなと思うと、このままで本当にいいのかなって。それで自分の店舗異動の話があがったタイミングで退職することにしました。
別に厳しい人がいることが嫌だったわけじゃないんです。自分は誰からも必要とされてない気がして、そんな自分が嫌になる日々で。それが何よりキツかったんですよね。
まだパートやバイトの人が私を頼りにしてくれたからギリギリ気持ちが保たれてましたけど、あの頃はただ誰にも迷惑はかけたくないというその一心でした。
あるとき本部から「うちの会社の経営理念が書かれた本を読んで感想文を書け」って宿題が渡されたこともあったんですけど、そのときちょうど疲れ果ててたこともあって思わず本心を書いちゃったんです。「お客様に良い暮らしを提供するとか言っておいて、提供する側の社員は疲弊しすぎて良い暮らしができてない。説得力がない。まずはそこから改善すべきでは」って。
それを読んだとある先輩が、私が退職する際に手紙をくれたんですけど、そこには「Aさんが言ってることはすごくよくわかる。辞めることが良いことかわからないけど次のところで頑張ってください」って書いてあって。今思えば“納得していないことがあっても働くしかないよ、今後も同じ壁にぶつかるかもしれないよ”というメッセージでもあったのかもしれません。それは社会人歴が長くなるほどひしひし感じるんです。他の大人たちのように、そんなもんだよなーって流して生きていけたら楽だったのかもしれません。
完璧な上司よりも隙のある上司
今は中小企業のメーカーで営業職に就いて3年目です。心の平穏さがやばいですね……。給料は安いから貯金はできないし、休日出勤は月2回マストだし、条件的に大変だから一生続けられないし、経験積んだら転職しようという前提で入ったはずだったのに、居心地がよくて。
とにかく人がいいんです。取引先の人たちは当たりが強い人もいますけど、同僚たちが「Aさんに辞められたら困る」と常日頃言ってくれるんですよね。だからなんとか頑張ろうと思えるんだろうな。
それに上司の考え方も好きなんです。仕事に生きてないところっていうんですかね。休日は趣味に費やしてて人生を楽しんでるように見えるんですよね。
上司が失敗してる姿も結構見てるんですけど、仕事に対してゆるいところがいいなとも思います。なんとかなる姿を見ているので、すごくやらかして落ち込んだときにも、きっとなんとかなるってちょっと思えるので。身近に完璧すぎる人がいると落ち込んじゃいますけど、上司のちょっと抜けてるところをみてると、上の立場の人でも間違えることはあるんだなって救われる部分もあるんですよね。
そっか、そこまで一生懸命になりすぎなくていいんだって。私は今まで「自分は仕事ができないんだからもっと努力しなきゃいけない」って色々真面目にやりすぎてたのかもなって気づきました。
その人には本音も言いやすいです。会社の方針に対しての改善要望や愚痴を言ったりして。前職ではこんなにハッキリと誰かに要望を言うことはなかったと思います。うーん……なんていうか、心を開けたタイミングがあったんですよね。
私が前職にいた頃の話をしたときに「自分はメンタル崩して休職してた時期があったよ」って話してくれたんですよね。その人、休職したことがあるようには全然見えないんですよ!仕事も割り切ってるしプライベートも充実してそうで。でもこういう人でもメンタルを崩すことがあるんだなって。そう思うと身近に感じられたというか……そういう話をしてくれたから、私も本音で話そうと思えました。
今の職場は条件でみたらとてもいいとは言えないですよ。前職の頃の方が給料は全然良かったし。年齢的にも結婚とか出産とか考えるから心配になることもあります。それでも今の会社で3年以上働けてるのは、やっぱり身近に「こうでありたい」と思える上司がいたからだと思うんですよね。だって先輩たちはわたしたちの未来じゃないですか。
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