稲荷にいる動物との出会い
経営の神様・松下幸之助翁が、かつて新入社員の最終面接のとき、最後の質問で、こう尋ねた話は、あまりに有名だ。
「あなたは、運がいいですか?」
細かなエピソードや真意については、すでに他で語り尽くされているから、そちらへ譲るとして、自分ならその場で質問されたら、どう答えただろう(松下電工の最終面接には絶対に行ってないが!)。すでに答えを知っている今なら「おかげさまで、運がいいです。」となる。
先日、伏見稲荷大社へ参拝したときのこと。
毎年1月に仲間とご祈祷を受けるのは、ここ10年の、禊や100㎞ウォーキングなどと共にライフワークとなっているが、今年はあいにくの状況で時期をずらさなければならなかった。
ここまで、ひと気のない伏見稲荷大社はレアだ。
すっかり春めいて、全国各地の桜の開花宣言が、ちらほら聞かれる頃の訪問となった。幸いにも好天に恵まれた。本殿にて祝詞をあげていただき、およそ40分ほどかけて山頂まで登山をする。
ご存じの方も多いと思うが、まぁまぁな急こう配のため、登りはまだよいとしても、下山はなかなか足腰にくる。さらに冬と勝手が違い、春の麗らかな陽光の下では、ジャケットを着ていられないほど暑くなった。いつもは素通りする途中途中のいくつかの誘惑(茶店)だが、溜まりかねて水分補給のために暖簾をくぐった。
500円玉を用意して支払おうとしたら、中ビンが650円!? まぁ、でも、それはそうだろう。だからと言って、「じゃあ、結構です」とはなりにくいし、何より水分補給だ(お酒は水分ではありません)。
店主のおばあちゃんに千円札を渡し、席についた。ほどなくしてお菓子と一緒に運ばれたビールをグラスに注ぎ、ひと息に流し込んだら、そのうまいこと、うまいこと。一人至福を噛みしめた。
おばあちゃんがおつりを手に戻ってきた。それを受取ろうとしたときに、
「あ、マスクカケ、だね?」
たしかにそう聞こえた。知人からマスクストラップをいただいていたのを使っているが、それを珍しく思ったのだろうと勝手に思って、「あぁ、これね。」と得意げにそれを手にしてみたら、「違う。そっち。」と手の方を指さして、
「マスカケ、でしょ?あんたの。」
「え、ま、ます、かけ?なんですか、それ?」
「手相よ。一本繋がっとるのは、強運なんだよ。」
どうやらおつりをもらうときに、おばあちゃんは、右手のひらのそれに、瞬時に気づいたようだ。なかなかの商売人と見える。「2~3千円で、一回見てもらったらどうです?」と勧められ、「まぁ1万もするなら自分で本を買って読んだ方がいいけどね。」というアドバイスもいただき、スッと奥へ引っ込んでいった。
さて、初めて聞いたそれに、「へぇ」と、しばらくマジマジとみていたが、そういわれて悪い気はしないし、まんざらでもないわけで。
呑みながら、よくよく調べると、強運というか、天下取りの相とのこと。
ますかけ線を持っている有名人は、アインシュタインをはじめとして、松下幸之助・桑田佳祐・アントニオ猪木・明石家さんま・黒柳徹子・福山雅治・本田圭佑・タモリ・志村けん・イチロー・東国原英夫・小泉純一郎と、そうそうたる名前が上がります。
アインシュタインから入るのか。で、松下幸之助翁も(笑)。桑田・本田・北村=みんな「けいすけ」。意味の分からない、自己暗示、勘違いの魔法をかけるのは得意な方。ちなみに、尾張が生んだ世紀の三大武将・織田信長、豊臣秀吉、徳川家康も、みんなそうだったと言い伝えられているとか。これは、えらいことダナ。
キャッシュレスが推進される昨今、もし伏見稲荷の茶店にまで彼らの触手が動いて、スマホを握りしめたままの決済をしてたら、こんなことは幸運、訪れいなかっただろう。
そう、やはり、運がいい部類の人間のようだ。(シンプル)
ニヤついているのを察したかどうか定かではないが、三度登場のおばあちゃんが、「はい、これ、サービスよ。」と言って、なんとつまみに佃煮を一皿盛ってくれたのだ。
おお、さっそく、運がいいな♪(シンプル×2)
その後、何人かなじみの客もきたし、小生のような一見ともやり取りをしているのを、リアルClubhouseしていると、コミュニケーション能力(あんまり好きな言葉ではないが)が巧みで、なんとも耳障りがよい。
ますかけは事実としても、客をそうして瞬時に見抜くおばあちゃんの眼力、はたまた客商売の才覚や神髄を感じずにはいられない。しっかりとビジネスを成り立たせているのだ。1万なら本を買って読めという金銭感覚の取れた先のアドバイスも頷ける。
もしや、ますかけ持ちでは?次回、確認せねば。
その後、勝手に気を良くして、もう1本、追加したことはいうまでもなく、ビールと伏見稲荷大社のおばあちゃんに見事に酔わされた。ん、稲荷?
もしや、キツネだったのでは?次回、確認せねば。
まくらのキタムラ
北村圭介