流氷チャレンジ失敗記(のち成功記)

流氷というものを知ったのは、高校のころ。

ホラ吹きと名高い歴史の先生が、授業の合間の雑談で、流氷の話をしてくれた。

「真冬に北海道に行くと、流氷を見ることができる。流氷は、北極のほうから流れてくるぶ厚い氷の塊だ。それが北海道あたりに流れ着くころになると、小さめの氷塊になる。氷塊には、取り残された白熊がしがみついているが、そうやって流れてきた白熊の大半は氷が溶けると溺れて死んでしまう。運良く北海道に渡れた白熊は、北海道に住むヒグマと死闘を繰り広げることになる……」

さすがに白熊vs.ヒグマの話あたりで「これはホラだな」と気付いてはいたものの、小さな氷の塊にしがみつくかわいそうな白熊のイメージがやたら印象に残った。

そしてそのころちょうど私は中野美代子氏の幻想文学にハマっていた(氏は北大の中国文化史研究者。『西遊記』の翻訳で有名)。作中で取り上げられているオホーツクの冬景色や蜃気楼の描写に率直に憧れたし、いつか必ず彼の地に流氷を見に行かねばならぬ、と、高校生たったわたしはかたく決意した。(なお、いつか必ず見に行かねばならぬとかたく決意しているもの、こと、風景は、ほかにもゴマンとある)。

結論から言うと、初めての流氷チャレンジは見事に失敗した。

詳しい経緯を話す前に、日本で見ることができる流氷についてある程度説明しておく。北海道に流れ着く流氷は、北方オホーツクで凍った海水が海流に乗って道東に流れ着くものを指す。 本で読んだり、人に聞いた話によると、流氷が海岸に接岸するときはドドドオという大きな音が鳴り響き、そこからは波の音が一切消えるらしい。 海は真っ白な氷原となり、その上を歩くこともできる(危険なので、個人ではなく必ずツアーを利用すること!)。
昨今は温暖化の影響もあって年によって流氷のコンディションが異なり、年々氷が薄く、または少なくなっているそうだ。 ゆえに、流氷を見たいと思ったら、まずは流氷がいつ、どこに来るかを知らなければならない。流氷は上記の通り道東に来る(網走or紋別が有名) 。おススメは海上保安庁の海氷情報センター(https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KAN1/1center.html)。確実に流氷を見るには、 最新の海氷情報をここで入手し、「流氷が来た!」という情報が来たらその地に飛べばいい。

 で、学生の頃、そうやって情報をキャッチしてはるばる網走まで行ったわけです。 

船で。 

いや、だって、学生だったので……お金なくて… …東京から茨城の大洗へ行って(3時間)、フェリーで苫小牧へ行って(20!時間)、 苫小牧からバスで札幌まで行って(1~1.5時間)、札幌から長距離バスで 網走行って(11時間)……ってやってたら、網走着いたころに低気圧の影響で流氷が沖へ戻っちゃってて…っていうコントみたいなオチ。

当時の写真が残っていた。中ほどの氷の塊が流氷(の残骸)

荒れ狂う海を前に、海岸に残った塊氷をただただ眺めて呆然としていたら、横を通り過ぎた車がわざわざ戻ってきて「早まっちゃなんねえ!」って叫んできたのはいい思い出。自殺じゃないです。

学生でね……おかね、なかったのでね……
せっかく来たので網走刑務所とモヨロ貝塚と北方民族資料館を堪能して帰ったけど。

で、二度目のチャレンジは、社会人になってしばらくしてから。 さすがに前回の一件で懲りていたので、流氷接岸のニュースを聞いたその日に飛行機取って、次の日に飛行機で紋別に降り立って、砕氷船発着場で翌日の現地の流氷見学ツアーに参加申し込みして……という感じで、流氷チャレンジ大成功。

こういう船に乗って、氷をガリガリしながら沖へ出て帰って来る。
明け方の流氷。絵的な綺麗さを重視してこのあたりの写真ばかり撮ってしまったが、もっとぶ厚い氷の写真をたくさん撮っておくべきだった…

以下、紋別の思い出写真などいくつか。

宿も当日取った(運良く空いてた)。朝ごはんのバイキングにホタテ食べ放題がついてて最高!!
砕氷船発着場のホットミルクとおこっぺケーキが美味しすぎた。セコマもあった。

紋別は本当に流氷の街だなあというか、流氷を見るための船(砕氷船)の時間に合わせてバスや飛行機の時間が組まれてる感じ。 空港もこぢんまりしてて、お土産コーナーも飛行機の発着に合わせて開くので、買い物チャンスは限られてると思ったほうがいいです。 だからこそ、流氷だけ見に来たんじゃー!という人にはうってつけというか。 

砕氷船発着場の向かいにあるとっかり(アザラシ)センターてアザラシと触れ合う

アザラシとの触れ合い体験もした。つるつるしてて、やわらかくて、弾力があって、何とも言えない触り心地。 さすが、高級毛皮として取引されていただけはある……。でもこのときマイナス8℃とかの猛吹雪で、正直、もう少し指の感覚がしっかりしているときに触りたかった。

オホーツクタワーで流氷とも触れ合う

オホーツクタワーという、その地域の展示(流氷博物館)と展望台を合わせたような博物館があって、 ここは私はかなり楽しかったけど、それはこういう場所を楽しめるかどうかの個人の資質によると思う。 流氷触ろうコーナーや、クリオネの展示や、クリオネの捕食模型が楽しかった。 また、こことは別に市立博物館もあってそちらはもう少し郷土資料館的な内容(個人的には流氷物の展示コーナーがツボだった)。

かわいいクリオネ
怖いクリオネ(の模型)


ありがとう紋別。謎オブジェの街。

まだ網走の流氷を見ていないし、流氷の上も歩いてないので、そのうちまた見に行きたい。


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