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実体がなければ登記は出来ません。でも登記は通ります。

司法書士 森谷崇継(もりやたかつぐ)です。
北海道北見市にて司法書士を生業にする者です。

いきなりですが、実体がなければ登記は出来ません。
でも登記は通ります。
 
なぞなぞじゃないですよ。
 
実体というのは、要は、登記の原因となる事実です。
事実があり、それを登記簿に反映させることが登記申請手続きです。
登記申請手続きとは、具体的には申請書・添付書類を管轄法務局へ提出することです。
法務局というのは、法務省の地方支分部局の一つ、要はお役所です。
 
法務局の登記官が、提出された申請書や添付書類が誤字脱字含め形式的に整っているかを審査します。≒形式的審査権
 
ここで一つたとえ話を。
 
「Aは、母親Bが所有する土地・建物をA名義にする贈与の登記を申請しました。Bは、Aが自分の子であることすら認識できない程度に重度の認知症であった。Aの自宅には、Bの実印や印鑑カード(印鑑証明を取得する際に提示するもの)、不動産の権利証があり、Aが自由に使用できる状態にあった。」
 
贈与というのは、無償(≒対価なし)で、物を譲り渡すことです。
また、贈与は契約です。契約である以上、当事者双方の意思が必要となります。片方が一方的に譲るor貰うと主張したとて効力は発生しません。
 

贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

民法第549条(贈与)


では、上記事例の母親Bには「ある財産を無償で相手方に与える意思」≒贈与の意思があるといえるのでしょうか?
 
自身の家族を認識できない程度にBが重度の認知症であれば、贈与の意思というものは存在しないことが容易に想像できると思います。つまり、契約有効とならず、Aが勝手にBの実印を押印したところで効力は発生しないことになります。≒無効
 

法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする

民法第3条の2(意思能力)


一方、法務局サイドでは、Bの実印が押印された登記の申請書・添付書類、代理で取得した印鑑証明書と権利証等、所定の書類が不足なく提出されることで登記は通ります。当然母親Bに直接確認することはせず、実体判断というものはなされません。≒形式的審査権
 
ここが歪みの部分です。
真っ当な専門職(司法書士)が絡めばこうはなりません。
※ 別に記事にします。
 
勘違いしてはならないのが、本来であれば無効な登記≒実体上無効な登記が通ってしまうことを制度目的として良しとしているわけではなければ、登記が通ったから実体が有効となるものでもありません。
 
後日、他の親族から、「この贈与は、Aが勝手に行った無効なものだ!」と主張されれば、すべてが巻き戻しになるだけでなく、有印私文書偽造罪(刑法159条1項)、同行使罪(刑法161条1項)及び公正証書原本不実記載等罪(刑法157条1項)等犯罪のリスクが顕在化します。

「自分でも登記はできる」と主張する人を度々見かけます。
節約できるのは大いに結構だと思いますが、中には「親のものは子である自分のものだ!勝手に登記しちゃえ!」と実体のない登記を行う人は一定数存在します。全く悪気のない人もいるかと思いますが、そこには違法・無効と必ず法律的瑕疵が生まれます。

知らず知らずのうちに法を犯していませんか?

司法書士は登記申請のスペシャリストですが、登記申請には上記事例のような前提となる実体判断があります。当然、司法書士はこの実体判断に対して非常に重きを置いて職務に臨みます。

登記は司法書士に。
登記が関係するお話しであれば、まず司法書士に相談すべきです。
連絡は、Shihoshoshi.moriya.T@gmail.comまで。


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