金曜日のショートショート04

金曜日のショートショート
第四回お題 【はじめての】

タイトル「それ完全に麻痺してるって。」


恋人は私のことが大好きだ。
彼は幼馴染みで物心ついた時から一緒にいた。幼稚園にはじまり小中高、そして大学。私の隣には常に彼がいた。そしてもちろん現在も。
はじめての告白もはじめてのキスもはじめてのお泊まりも、すべて相手は彼だ。私のはじめては、すべて彼に捧げられた。
そして彼は、私のはじめてを堪能し記録することに喜びを感じているようだ。

「あんたたちはいつもべったりね」
友人が、私達を見て呆れたように言う。
今日は、友人に誘われカフェでパンケーキを食べていた。私の隣にはもちろん彼が座っている。
友人は、誘ってもいないのに当然のようについてきた彼に冷たい視線を向けながら、「こんなに愛されて重くない?」と私にたずねた。
「正直重い」
私は素直にうなずく。
「この人、私のことが好きすぎて、私の幼稚園の通園バッグとか高校の制服とか、全部保管してるんだよ」
「キモっ」
友人が本気で嫌そうに顔をしかめた。
「それ好きとかじゃなくて、ただの変態だよ」
「でもそれが当たり前だからもう慣れちゃった」
「変態につきまとわれてるせいで、あんたまで感覚が麻痺してるね」
「麻痺してるかなぁ」
私は別に麻痺してるとは思わないんだけど。
首を傾げながら注文したドリンクを飲む。太いストローを吸い込むともちもちしたタピオカが口の中に入ってくる。
「タピオカ、はじめて飲んだけど美味しいね」
「え、タピオカ飲んだことなかったの?今回でタピオカブーム五、六回目じゃなかったっけ」
「なんか流行りにのりそびれちゃって」
そう言う私の隣で、彼が顔を輝かす。
「はじめてのタピオカか。そのストロー、記念に持って帰ろう」
「キモっ!」
嬉しそうな彼を見て、友人は近くにいるのも嫌だというように体を引いた。
「こいつ本当こわい。そのうち、はじめての寝返りやハイハイを見たいとか言って、タイムマシーンを買いそう」
友人の言葉に彼は「まさか」と涼しい顔で首を横にふる。
「さすがにタイムマシーンなんて高価なものは買わないよ」
「そう?」
疑いの目を向ける友人に、彼はうなずく。
「代わりに人工子宮とクローンのセットを買ったんだ」
その言葉に、今朝アマゾンから大きな荷物が届いていたことを思い出す。
なにを買ったんだろうと思っていたけど、あれは人工子宮だったんだ。
納得する私の横で、彼はとても幸せそうにつぶやく。
「これで彼女の人生を、はじめての細胞分裂の段階から、じっくり観察できる」
そのうっとりとした表情を見て、この人は本当に私のことを愛しているんだなぁと思った。


【企画概要】
友人3人で企画して始まった『金曜日のショートショート』は、報告不要で誰でもご自由に参加いただける企画となっております(もしよければタグをご活用ください)また、金曜日に間に合わなくてもOKなゆるゆるの企画です。過去分の参加もご自由に!
*次回(6/19公開予定)の第5回のテーマは『キャンセル』です。

【テーマ一覧】
01 金曜日(5/1公開)
02 レモン(5/8公開)
03 蟹(5/22公開)
04 はじめての(6/5公開)
05 キャンセル(6/19公開予定)


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