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九月十九日

【山行】御座山

日没が日々早くなり、日帰りで遠出するにはラストチャンスかと、そわそわしながら計画してきたこの9月の連休の山行。「佐久の幽巒(ゆうらん・奥深い山という意味だそう)」御座山(おぐらさん)へ、『山と高原地図 西上州』破線ルートの山口コースから登ることとした。

最も一般的なルートはマイカーでアプローチする「長者の森コース」のピストン。このコース以外は村営バスでアクセス可能で、山口コースの他には2つあり、一つは北相木村の北側から舗装路の登りが1時間半続き、山頂への道は長者の森コースと合流する白岩コース。もう一つの栗生(くりゅう)コースは南側で、南相木村から登り、山頂まで全コース中最短距離だ。
車はなく、またそれならば来た道を引き返すのみで帰るのは味気ない。この条件で、往復にならずに難所も少なそうだと、当初は栗生コースから登り白岩コースで下山するルートで下調べをしていると、栗生コースが昨年の台風19号により登山道破損のため通行止め(2020年4月2日発表)とのことで、栗生コースが使えず、残るは山口コースのみであった。

前述の通り、登山地図では破線で示された難路で、他のコースに比べ利用者の極端に少なく、深い原生林の中を薄い踏み跡を辿って進むという。
地図読みや危険箇所の歩行技術もない自分にとってはいささか挑戦的かと思ったけれど、入手できた数少ない情報によると、登山道は踏み跡は薄いが赤テープ(道の目印)が豊富なようで、ルートの答え合わせには充分使える模様。また、技術的な難所もないようだ。
登りに使うならば引き返すこともできるし、この機会に地図読みやルートファインディングの経験を積もうと、初めての破線ルートを使った計画を立てることとした。

普段計画と記録に使っているYAMAPの地図に山口コースの設定がなく、手動でポイントのない箇所へのルート設定も行えないため、ルートの設定は「山と高原地図」からルートが取れる「ヤマプラ(ヤマレコのサービス)」を使用して行った。

また、今回初めて「2万5千分ノ1地形図」を購入。確かに地形が想像しやすい縮尺であり、等高線を追ってこれから向かう山道の尾根や沢を思い浮かべながら線を書き込むのは、能動的な予習になるし、山行の愉しみを膨らませてくれるものでもあるのだった。
長野県HPで登山計画書を提出し、山岳保険にも加入し、入念な準備でこの連休初日を迎えた。

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前日の夕方に立川駅前の駐輪場でレンタサイクルを借り、朝4時前自宅を発ち30分漕ぎ立川駅へ。御座山への玄関口はJR小海線の小海駅で、ここから電車で約4時間。前日金曜に有休を取っていたことで、この御座山への公共交通機関のみでの日帰り山行計画も少し気持ちの余裕はあったけれど、アクセスに行きだけでも諸々合わせて5時間はかかり、ぎりぎりの計画であることには変わりなかった。

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小淵沢駅で小海線へ乗り換え、八ヶ岳方面を眺めながら1時間で小海駅へ。
登山口へは行き帰りどちらも北相木村営バスとなる。この村営バスは日祭日の便が少なく、帰りのことを考えると平日か土曜である必要があり、加えてアクセスにかかる時間と日照時間から、計画時以降で今期挑むにはこの日が最初で最後の機会と踏んだのだった。

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山口公民館前バス停に着いたのは9時20分頃で、バス停の向かい側には「御座山登山口」の立派な看板が立っていた。

【START】山口公民館前バス停 9:20

「御座山」の標識へ沿って林道へ進む。

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林道内も標識があり、迷うことはなかったはずだが、何故かこの辺りで道を間違えたと思い込み引き返したりしていた。脇道に入らず進んでいれば問題はない。

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舗装路が途切れた先に崩落箇所が現れた。危険ではないけれど、渡る道を見つけるのに案外手間取る。抜けるとすぐ分岐にあたり、木に赤テープの巻かれている右手が山口コースの登山口。

10:39 山口コース登山口

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ホーロー看板の文字が消失してしまっているけれど、現地で近寄ってみると「御座山→」という跡がなんとか読み取れる。
右を向いた先でいきなり、下草が茂り道の跡が見通せない景色となる。

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下調べの通りとはいえ、これまで歩いて来た山の道とは明らかに異なり、雰囲気に思わず身構える。沢沿いの道は赤テープがたくさんあり逆に判りにくい状況となっていたが、沢を登っていくことにした。

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赤テープが途切れた箇所で右岸へ上がり、左手に見える沢の跡のような石の転がる道へ進む。実はこの辺りで先程の沢の先に黄色のテープが見えており、この左手の広い道の先にはテープがなかったため、まだ直進するのかとうろうろしてしまった。この地点に戻り地図とコンパスで確認すると、やはり左手の道の方で問題なさそうで、自明な道だから目印がないのか。

広いけれど小枝が散乱していてほとんど手入れされていないであろう道を抜けていくと、いよいよ藪っぽさが増していく。

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目印を頼りに、時折現れる標識にほっとしながら、草を分け入り細い踏み跡を辿る。

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この辺りから道の周囲にトリカブトの花が見え始める。
切れ込みが浅く広い葉の形から、トリカブト属の中では珍しい無毒な種類のサンヨウブシと思われる。

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サンヨウブシは淡色や白色の花のものが多いという。白色のトリカブトは初めて見たかも。

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一旦開けた道に出て、廃道との分岐を過ぎた後、目印は見えるところにあるものの、完全に道が消失した。
シダや苔に覆い尽くされ、散乱する枝の上に乗り、足元が浮いたまま、とにかく赤テープを探して進んでいく。

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土の見える道らしい道に辿り着いてGPSを確認すると、西側に膨らんで迂回するような軌跡が残されていた。最初の赤テープ群の手前左手に細い道があったようだったが、そちらが正しいルートであったのかもしれない。登山地図では迂回するような箇所はなく、少なくとも今回通った箇所は道とはいえない様相だった。

道へ戻った後は崩落箇所を越えて、細いけれどはっきりとした踏み跡と目印を辿り、緩やかに登って行く。

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苔の穴ぐらにヒキガエル君を発見。お邪魔しました。

少し進んだ先の涸れ沢を渡る箇所は意外と傾斜があり、ロープが括られていた。

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この辺りで13時半頃、行動開始から約4時間半で、予定では山頂に着いている頃。遅れているが、GPSで見ると南の鞍部まであと少し。しかし実際には、ここから更に傾斜が強まっていき、先程のロープのあった涸れ沢の地点からここまでと同じ距離だが倍の高低差、200mの高低差を400mの道で登ることになったのだった。
ここまでの道のりでは緩やかに高度を上げて来たが、この南の鞍部まで詰める箇所は体力的な負荷が大きく(ここまでの補給もトレイルミックスとチョコレートバーのみだったため、シャリバテも起こしていたのかもしれない)、また道がほとんど消えて体の浮く藪漕ぎの箇所もあり、稜線が見えてもなかなか距離が詰まらなかった。時間に追われつつも、休み休みで慎重に進む。

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13:57 南の鞍部

予定の約45分遅れで南の鞍部へ出た。約4時間40分、コースタイムからは1時間20分も遅れてしまったが、初めての難所指定ルートを無事に歩き切ることができ、ひと安心。
ここからは途端に登山道らしい拓かれた道となり、山頂まではもうひと息。

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判りやすい道と思って進んでいたら、この箇所でルートミスをしてしまった。よく見ると右側のシャクナゲの枝に赤テープが巻かれ、進む方向を示していたが、右側の細い道を見落として直進してしまった。進んだ少し先が道がなくなり崖になっていたため引き返し、その際に進行方向左手に道が付けられていることに気が付いた。焦らず視野を広く観察しなければ。

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立派な避難小屋の脇を抜けると、切り立った岩峰へ出て、その細まった奥に味わい深い標識とお社がたっていた。

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14:27 御座山山頂

眺望は全くなかったけれど、下を覗き込むと高度感に足がすくむ。

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岩の隙間から顔を覗かせていたイワカガミ。低山に多いらしいが、あまりはっきり見たことがなかった。

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イワインチンというらしい。

予定から1時間遅れでの登頂で、日没まで時間がない。予定に入れていた山頂での1時間の休憩を削ってちょうどだけれど、疲労が拭えず、少し落ち着いて食事をとることにした。ニューコンミート炒飯の予定を、火を使わず混ぜご飯にして済ませる。それでも30分ほどは山頂で休憩滞在していた。これまで全く目にしなかった他の登山者に、この時間の山頂だが、1組と出会った。

エネルギーを溜めたところで動き出し、北のよく歩かれているルートへ下山開始。
しっかり整備された道で安心だけれど、結構急な箇所もあり、登りでは体力を使うだろうな。

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黄色の鮮やかなきのこで、カベンタケかカベンタケモドキというらしい。その違いは顕微鏡で見ないとわからないのだとか。

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左手の道も指している標識だけれど、廃道になっているため通行できない。

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15:35 前衛峰

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タイルのようなものが埋め込まれ、筆で漢数字の書き入れられた石標が続いていた。

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見晴台も勿論眺めなし。

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このコースはシャクナゲが多く、花期の頃には華やかな姿を見せてくれるのだろう。

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16:59 白岩コース登山口

長者の森コースとの合流点の分岐を白岩コースへ進んで程なく、白岩コースの登山口へ出た。山中で大分暗くなってはいたものの、山を抜けたここは高原野菜畑であり、木陰がなく視界良好となった。

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17:51 白岩バス停【GOAL】

農地を歩く途中ですっかり日が暮れてしまったけれど、無事白岩バス停に到着。予定通りのタイムで下ることができた。

ここで北相木村営バスを待つのだけれど、細い道で停留所に「バスは手を振って停めて下さい」と案内があったことに不安を覚え、少し先にある始発バス停の三寸木まで歩くことにした。

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結局始発バス停と言ってもバスが停まって待っているのではなく、折り返しのバスが停まるだけのようで、体で停めなければならないことに変わりはなかったのだった。夜の帳が降り、辺りは真っ暗となり、ヘッドライトを振ってバスを呼び、この日最後の乗客となって小海駅まで運んでもらい、中央線高尾駅までの接続の最終列車に乗り、地元駅に着いたのは日付が変わる目前だった。

山中は8時間半の行程で、残りはまるまる移動時間となって合計約19時間半の半ば強行的な日帰り山行。計画も実行もなかなかタフだったけれど、この山口コースからの道のりを歩くことで、深く静かな森の中から岩峰の山頂に登り詰め、「佐久の幽巒」御座山の所以と魅力を肌身に感じることができた。そしてこの状況ならではの、濃密で忘れがたい夏の思い出となったのは間違いないだろう。

《山行を振り返って》
当たり前のことだけれど、登山道は人が切り拓いた道であって、その道を歩くのは人の跡を辿ることだ。いくらほとんど使われていなくても目印が残り、難易度が上がろうとも踏破された道を辿ることができ、少ない情報でも事前の収集で答えを得ることができる。だからこそ山行はまったくの未知との出会いを目的としない一種の旅行であり、そうたり得ているということを今回あらためて実感した。
今回情報はできる限り集めたつもりで、目立った不足もなかったように思うけれど、読図の技術が全く不足していることは準備段階からの懸念だった。実地では赤テープ頼りでなんとか進めてしまったけれど、分岐での進行方向の確認に迷った場面が実際にいくつか出ており、目印が多いという事前情報がなければ立ち往生となっていただろう。
今後読図の知識と経験を蓄えて、安全登山のための基本技術の向上、またより静かな山歩きを楽しむことにつなげていきたい。

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