十月二十五日
高幡不動からの初電で京王線高尾駅へ向かう。中央線に対して高架で作られているこの駅へ列車が近付くにつれ、曙の空が一面に広がり、この日の山行への期待が高まる。爽快感あふれる眺めを求めて機を窺っていた、大菩薩峠から南の小金沢連嶺縦走へ向かうのだ。
登山口の上日川峠へのバスの初発は8:10だが、同じ気持ちで週末の天気予報を眺めてきた人も多いことだろう。混雑を避けて確実に乗車できるよう、一足早く、と言ってもバスが来るまで1時間半ある甲斐大和駅へ降り立った。
駅前の料理屋の前に現れた、鋭い目つきの姐御三毛さんに構ってもらい、ちょうどJRから多くの乗客が降りてきた頃、ダイヤ初発より20分程早い臨時便のバスが用意され、予定より早い出発となった。
50分程の乗車で着いた上日川峠は、駐車場の整理が追いついていないような大賑わい。
本日はここからまず大菩薩峠へ向かい、そこから南下し小金沢山-牛奥ノ雁ヶ腹摺山-黒岳-白谷ノ丸と小金沢連嶺を縦走し、湯ノ沢峠から焼山沢真木林道で下る行程だ。
期待通りの秋晴れ空の下、登山口が空いてきた頃合いを見て登り始める。
今回は大菩薩嶺へは向かわないため、福ちゃん山荘の分かれ道では唐松尾根ではなく右手の富士見山荘跡を通る道をとる。歩きやすい道を小一時間進むばかりで大菩薩峠へ出て、前回訪れた際は叶わなかった展望が待ち構えていた。
ここから北の大菩薩嶺へ向かう稜線歩きは絶景が大人気だが、今回向かう小金沢連嶺も眺めが楽しみな道で、期待を胸に南へ進路をとる。
暗いシラビソの樹林帯が熊沢山まで続き、ところどころで霜柱も見られた。これはこれで歩くには好きな道だけれど、これほどの晴天の日、森を抜けていきなり現れたササ原の道には思わず驚きの声が漏れた。
山の形がはっきりとわかり、伸びやかに広がる景色。これほど開放感のある道は初めてだった。
ササ原の明るい尾根道からまた薄暗い樹林帯へ入り、少し登ると、小金沢連嶺の最高峰(2014m)、小金沢山へ到着。
大月市の選定した秀麗富嶽十二景の一つとされているだけに、富士山も綺麗に見えるが、周囲に連なる山々の眺めも広がって気持ち良い。
ここから共に2番山頂とされている牛奥ノ雁ヶ腹摺山へは30分弱の道のりだが、爽快な眺めを愉しみ、ゆっくりな歩みとなった。
日本一長い山名の牛奥ノ雁ヶ腹摺山。山頂周辺は広々としており、ピクニックのようにシートを広げ、腰を落ち着かせて憩う人々の姿もあった。
棒ラーメンと豚の生姜焼きおにぎりで昼食をとり、更に南へ向けて出発する。
ササ原の後倒木の転がる道を越えて着いた黒岳は特に眺望もなく過ぎたけれど、その先10分足らずで着いた白谷ノ丸の山頂からは、樹木のないカヤトの草原が近くの連なる山々の姿を現し、奥には裾を広げた富士山の姿が突き当たる、今回の山行で随一の眺めが広がっていた。
気持ち良く名残惜しい稜線から離れ、峠へ向かうにつれて葉を秋色に染めた広葉樹が現れてきたところで、湯ノ沢峠へ出会った。
ここから西の焼山沢真木林道へ抜ける道で下山するところ、間違えて北側の舗装路へ出てしまい、折り返して20分程のロスとなり、日も大分傾き始めた頃の下山開始となってしまった。
沢沿いで流れの音が心地良いが、道はそれなりに荒れていて歩きにくく、渡渉点も多い。幾度か失敗して水没してしまったが、冷えるような状況にはならず、なんとか暗くならないうちに林道へ出ることができた。
陥没箇所が多くあり通行止めのかかっていた焼山沢真木林道を抜け、17時過ぎにやまと天目山温泉へ到着。残念だけれど入浴は避けて、バス停にすぐやってきた甲州市横断線で甲斐大和駅へ帰り着いた。
好天に恵まれ、広々とした絶好の眺めの中をゆったりと歩き、この小金沢連嶺縦走はとても充実したものだった。
大菩薩嶺が日本百名山とあり、手軽に回ることのできる大菩薩峠周辺の周回ルートは登山客が多く混み合うけれど、峠から南側のこの道はまだ数がぐっと少なく、静かで開放的な山歩きを愉しむことができ、自分にとってとても心地の良い道のりだった。湯ノ沢峠から南にもこのような草原の道が続いているとのことで、また計画が楽しみになる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?