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No.19 特別養護老人ホームへの入居


へっぽこ娘

母の介護認定が「要介護3」になったことは前に書いたが、その後見学して良さそうだった数か所の特別養護老人ホームに早速入居申し込みをした。同じタイミングで、ケアマネさんが今年の中旬に新しくオープンする施設のパンフレットを持ってきてくれて「ここに入れるといいなと思っているのよ」と勧めてくれた。
ケアマネさんは最近の母の様子や私の介護の大変さを聞いて、家で看るのも限界に近いということもわかってくれて、なるべく早い入居をと考えてくれていたのだ。
それまで申し込んだすべての特別養護老人ホームには入居待ちの人が100~200人ほどいたので、すぐには入居できないのは明らかだった。わずかな望みを託して早速その新しい施設にも申し込み、いつどこの施設から来るかわからない連絡を待つことになった。
 それぞれの自治体によって多少の違いはあるが、特別養護老人ホームに入居するまでには、いくつかのステップがある。母の場合は入居申請をしたあと、実際に家族や本人の様子を知るための面談を経て、それらの情報をもとに厳正に判定会議が行われた結果で入居が決まり、施設と契約をすることになるということを知らされていた。
 数週間後、新しくオープンする施設からの面談の連絡が予想以上に早くきた。早速母と私の面談に担当者が自宅まで来て下さり、その情報を判定会議にかけるので結果を待つよう言われた。数百人待ちの他の施設からは何の連絡もない状況のなか、ほどなくして新しい施設から6月の入居が決定したとの連絡が私の携帯に入った。
 連絡を受け取った瞬間、入居待ちの方がたくさんいるのに、こんなにもスムーズに入居が決定したことに驚くと同時に、嬉しいようなホッとしたような、とうとうそうなるのかというような、何とも複雑な気持ちが湧いてきた。仕事中だったので、すぐに上司に伝えたときにその気持ちは益々大きくなり、報告しながら胸が熱くなるのを感じた。「よかったね。と手放しに喜んでいいのかわからないけど、でも決まって安心だね」と私の複雑な気持ちを察しながら上司や同僚たちが次々に声をかけてくれた。
 姉や弟にもすぐにメッセージで伝えると「本当によかったね」という返事が返ってきた。そんなやりとりをしているうちに最初に湧いた複雑な気持ちはスーッと冷めていき、自分でも不思議なくらい早い段階で「本当に良かった」という安堵感だけが残った。
 その後も相変わらずの毎日が過ぎていき、感傷的にならずに入居に必要な書類や持ち物を淡々と揃えている私がいる。認知症が少しずつ進んでいるとみえて、母のおかしな行動にはさらに磨きがかかってきた。それにいちいち苛立っては怒ったり嫌味を言ったりしてしまうのは入居が間近に迫った今でも変わらない。それどころか「あと少しの辛抱だ」と自分に言い聞かせて心を静めているような状態なのだ。まったく進歩がないなと感じて、私はやっぱり冷たい人間なのだろうかと思うときも多々ある。でも人に何と言われようと私なりに母と精一杯向き合ってきたという自負もある。
実際に母が入居するときになったらどんな思いが湧いてくるのだろうか。これからも自分の素直な気持ちを見つめてみようと思っている。

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