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NO.9『事件①“散らかった部屋…”part2』

前回の続き。ちょっと聞いて~

へっぽこ娘

その人は民生委員さんを長年されていた方で、現在もお年寄りが日中遊びに来るようなサロンでボランティアをされている。あの人なら何か力になってくれるかもしれないと思い、嫌がる母を引きずるようにそのお宅まで連れていった。玄関に出てきてくれたおばちゃんに事情を話すと「あらお母さん、どうしたの?少し私とおしゃべりしようか?うちでお茶でも飲んで行かない?」と優しい言葉をかけてくれた。その言葉に私自身が癒され、すごく救われた気持ちになったが、母は首を横に振って「いいから、いいから」と言って道路に出ようとする。「じゃあ、私とお散歩する?公園までちょっと歩こうか」と言っておばちゃんは家の鍵を閉め、母の手を取って「私が連れて行くから大丈夫よ」と小声で私に耳打ちしてくれた。私はようやく母から手を離し、少し離れて後をついて行く。母は途中何度も立ち止まってはおばちゃんに「もういいから帰って」と言ったり、急に泣き出したり、「踏切に飛び込むの」と言ったりしながら、時間をかけて近くの公園にたどりついた。すっかり日も暮れて真っ暗な公園のベンチに座ると、おばちゃんが「歌でも歌おうか」と懐かしい童謡を歌い出す。何か会話をしながら、少しずつ母は落ち着いていった。その後もおばちゃんは、家に帰ると言い出した母に付き添って、家まで送ってくれた。お礼を言って玄関先で別れたが、母はその後も家に入ろうとせず、私の問いかけにはひと言も答えず、花壇の縁に座り込んで動こうとしなかった。丁度その時姉が到着した。途中何度かラインで様子を知らせていたので、おおよその状況を理解していた姉は「ここは私が見てるから、家に入っていていいよ」と言ってくれたので、私は急いで母の部屋に入り、割れた食器や壊れた物を片付け、母が帰ってすぐに寝られるように掃除することができた。姉はしばらく母と一緒にいてくれたが、何を聞いてもひと言も話そうとしなかったようだ。それでもだいぶ落ち着いてきて今度は母の部屋から出入りできる縁側の方で座り込んでいると姉が報告してくれた。そこは母がいつもへそを曲げたときに座り込みをする縁側で、いつもほとぼりが冷めると自分で部屋に入ってきたので、ここまでくれば大丈夫かなと直感でそう思った。姉は状況によっては泊まるつもりで来てくれたのだが、その旨伝えるとお茶を一杯飲んだだけで「何かあったらまた来るからね」と言ってくれて帰って行った。姉がすぐにきてくれて本当にありがたかった。

その後いつでも入れるようにと鍵をかけずに2階で待っていると、夜の10時をまわった頃ようやくガチャっと玄関のドアの音がして母は中に入ってきた。その音が聞こえた時、あぁよかった、もう大丈夫だなと私は本当に安堵したのだった。

今日はここまで。聞いてくれてありがとう。


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