職員室デジタライゼーション〜だったら差し込んじゃえよ①〜
新年度の始業式、入学式を終え、慌ただしい日々を過ごす中で、気づけば4月も3週目を迎えようとしていた。相変わらず迷宮のようなサーバーと悪戦苦闘しながらも、数男はなんとか授業準備や校務をこなしていた。昨年度と同じ学年を担任しているということで、授業で使う教材をある程度、使い回すことができたことで辛うじて仕事をこなしているようなものであったが…。
今日も、6時間の授業を終え、職員室に戻ってくるとひと足先に子ども達を下校させた低学年の担任たちが一斉に似たような作業をしている。
「一体、何をしているんだろう?」
数男は、学年主任の明子に聞こうと思ったが、あいにく彼女はまだ職員室に戻ってきていない。そこで、1年生の学年主任である加藤悠太に質問した。加藤は、50代半ばで、管理職から、学級経営力・授業力ともに絶大な信頼を得ている。穏和な性格で人当たりもよいが、言うべきことは言う。なので、職員会議でも加藤の鋭い指摘で議題の内容が再検討されることがあった。一方で、飲み会では、非常に剽軽で後輩である若手を非常に可愛がってくれる。
数男も歓迎会で、加藤と意気投合し、二次会、三次会と飲み明かしたことで、表計算小では、明子の次に気軽に質問できる存在となっていた。
「加藤さん、それ、何してるんですか?」
「あぁ、これかい。来週、家庭位置確認があるだろう。そこで、ポストに入れるカードを作ってるんだよ。」
と加藤は、A5の用紙に指名印を押しながら答える。
「一人一人の名前をハンコ押しするんですか?」
数男は、質問を続けた。
「そうそう。位置確認を間違えた場合の対策だね。」
加藤は、手を止めることなく続けた。
そう言われれば、先日の会議で、そのような話を聞いた気がする。その時、数男は、「家庭位置確認なんて、本当に必要なのか?」と疑問に思い、思案しているうちに聞き流してしまっていたようだ。そもそも、赴任早々、真っ向から異論を唱えるような気概はなかったのだが。
仕方なく、数男も「位置確認確認票」を作成することにした。しかし、一人一人の名前をいちいち押印するのは、面倒である。数男は、あることを思いつき、早速PCを開いた。