職員室デジタライゼーション〜関 数男の悲劇③〜
灯油ストーブを中心にして、ロの字型に長机が配置された会議室。机の上には、紙、紙、紙。
「これは、一体…。」と数男が一瞬、思考停止していると、明子が明るい口調で、「さ、資料を組んでいきましょう。」と声をかけた。「おいおい、マジかよ。」と内心呆然としながら数男は、資料を組む輪に加わった。
グルグル、グルグル…と長机を回りながら資料を組んでいく。資料を組み終える頃、数男の脳裏には、幼い頃に母が読み聞かせてくれた虎がハチミツだかホットケーキだかになってしまう物語が浮かんでいた。
しかし、会議が始まると、さらなる衝撃が数男を襲った。それは、入学式の実施計画が議題に上がったときのことである。「私は、会場準備の担当ですが、教室準備と重なってしまうため他の方に変更してください。」「4月5日は、別の会議が入るので、準備を4日に変更します。」「受付担当が前年度の職員のままだったたので訂正してください。」と次々に変更、修正の声が上がったのである。
このような事態に直面し、数男は、計画立案者である教務主任の力量を疑いかけたが、それどころではない。一言でも聞き漏らすと、計画遂行に支障をきたしかねない。必死になって変更点をメモしていると、顔と名前の一致しない男性教員から、「先ほどの件について、聞き漏らしたので、もう一度教えてください。」と声が上がった。
見かねた教頭が、「後日、修正案を配付します。」とやや強引に議題を前に進めた。それまで、必死にメモをしていた職員たちは、教頭の指示を受けて、ようやく一息ついた。おそらく、全員の資料が真っ赤になっていたことだろう。
数男は、背筋が冷たくなった。「教育計画にある入学式実施計画。今、職員に配られている入学式実施計画。更に、修正案を作成し、印刷・配付する。一つの議題に対してかける作業時間と紙が多すぎる…。」
数男は、漠然とした恐怖を感じていた。しかし、数男の悲劇は、これで終わりではなかった。
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