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微睡む薔薇

薔薇よ...

紅い静寂の森の影、わたしを語り、
幸福の泉に、不実の美が身投げする。
星の騒めきを鏡に映す過去たちに、
意味の鎧を貫き、白い闇に芽吹く。
運命の寂寞は、夜の樹枝(じゅし)を撓ませて、
水面の颯々に、わたしの波紋は語られる。

花の純粋は、研磨の果てを、根拠に薫り、
感性の波乱は、僅かに沈黙を揺らすのみ。
静けさの後(あと)の、声の輪郭の優雅さは、
肉叢の、絶頂に宿る、言葉の雛形、
夢に、意味を響かせ、不在を合一する、
囀りの為の歌詞、眠りの中の舞踏。

薫風を装う、光明が、庭の木陰に、
とぐろを、透かし、夜に侍り、陥穽に沈む。
臥床の眠りは、暗闇の心に目ざめ、
錆びたる月にかたむき、詩の糧を育む。
底無しの沼に忍ばせた、思念は悦び、
茨に、絡み付いていた、痛烈な矜恃。

天使の両翼に内在する、肌の味に、
木枯らしの爪痕、刺先は、意味を痛み、
嗚呼!希望に満ち溢れた、木漏れ日の金言よ、
風に舞う路地の、落葉の、倦怠の不滅よ!
霊魂は花序に宿り、時に群れ揺れていた、
その二股の舌、とぐろに包む、絶望...

星を研磨している銀河の眼差しは、遥か、
さ迷い、海辺を浚う、純麗の芳香は、
一面に轟く、鼓動は、おまえの故郷に、
細波は、想念を泳ぎ、心臓は高鳴る。
ふくよかな丘陵は、胸に、睫毛に、溺れる、
霧に包まれ、髪は心地よく、目覚めだす。

果実は痛み、透明な原種を船に積み、
泣いている薔薇の、純粋な水の欲情は、
途切れながら、むなしく、愛を伝達している。
幽かに揺れたる、素朴な恋の諦観に、
穢れを、忘れた想いは、二十のペタルに、
とぐろを巻いた、黒髪の、微睡みは薫る。

白い掛布(かけふ)は、夢に、腕を深く沈ませ、
水浸しの、目の上に、常盤木が寝そべる。
裸の篝火で、海面を炙りだしても、
水面の輝きは、暗礁を隠してしまう。
空は幻を持て余し、水を焦がして、
索漠と色褪せた、窓の外を眺める。

星の邪魔にならないように、月は現れ、
離陸の許可を待つ、沈黙が完成する時、
平和の光芒に、いま祈りは込められる。
波を金色に鞣し、空の溜息を吸う、
窓から垂れた腕に、純朴な、指は芽生え、
花を摘み(つみ)はじめ、夢の薫りへ立ち昇る。

淡いしじまの後ろに、風韻の哀愁が、
夢に足枷をして、睡りから目覚めない。
金と銀を交織する、落日の働きは、
虚無を夢窓する、私の胸にあらざらし。
山の尾根に佇む、余光は星を讃え、
詩情は、夜空の被布の下で露わになる。

なんという!悠悠の時に微睡む朱橋を、
季節も恋も愛欲も、歳月と渡り、
如何なる倐忽も、波打つお前の瞳に、
悠久は、暁のように燃えているのだ。
花の乱心は、水面の輝きに映え渡り、
美の条件を、悲しみは水に流してゆく。

1行20音節6行10詩節

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