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座頭市、開眼す #下道一組

この世の名残り、夜も名残り、ふたり手をとり 瀬田の唐橋 渡らむと 来れば夕鶴よろめきて 与平、太夫と声かくれば 大事なきと応じ

与平どん そろそろふたりの故郷 名で呼んでおくんなんし
よし では 夕鶴
いな 稚児の頃のごとくに のっ
お、お幸ぼう

瀬田橋はたもとにて 暁の鐘 鳴るは七つ 見れば追っ手 わんさと迫り来てけり。

与平どん これが今生の鐘の聞き納めぞよ
気を強う 渡ればそこに 頼みの下道一組の早籠まってをる

与平、夕鶴の手を引き 急ぐも橋は中ほど 見るや 前より座頭渡り来る

あら、市さん
お、その声、夕鶴太夫 何故瀬田に来たる
こちの人と冥土一本道の足抜けでありんす
追っ手はあっちからか
あい 

市、仕込み杖抜けば 刀刃一閃 瀬田の唐橋 血の雨降り 腕 首 次々に川にぞ落ちにけり

ありがとうござりんす 市さん
ほんま おおきに 
いや、礼はこっちぞ、これで閻魔の願掛悪人千人斬りを果たしけり
え。
ほら 今は太夫の花のかんばせも拝める 

#短編小説 #ショートショート #掌編小説 #毎週ショートショートnote
#下道一組 #座頭市 #曽根崎心中

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