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タブランとマツカン

むかし「タブラン」という言葉がありました。ユザーンが使っている楽器の名前じゃないよ。あれはタブラね。タブランとは「タブチのランニングホームラン」の略です。

タブチはご存じですか? 田淵幸一選手のことです。いしいひさいち先生の漫画「がんばれ!!タブチくん!!」のモデルとなったキャッチャーです。

タブチはいわゆる何と言うか、昭和のキャッチャーというか、ドーンとした体型でね、足が速くないイメージの選手。だから「タブラン=タブチのランニングホームラン」は「絶対にありえないこと」という意味で使われていました。

なんで今日、そんな話を始めたかと言うと「マツカン」を見てしまったからです。マツケンじゃないよ。そう、サンバじゃない。オ・レ!じゃない。もういいかい。だまれ。ケンじゃなくてカンね。マツカン。まあ、マツカンなんて言葉は元々なかったんですけどね。

「マツカン」は「松葉の完投」を略した、いまここで作った言葉です。

松葉といえば(ドラゴンズファンの方には説明不要ですが)、「5回まではしっかり抑える」という不思議な特徴を持つピッチャーです。5回まですいすい抑えていても、なぜか6回に入ると打たれることもあったりね。

だから昨年までは5回降板が基本。その起用法が定着して、5回で降板することを「定時退社」、6回も続投することを「残業」と呼ばれたりもしていました。

しかし!! 2024年4月29日、なんとその松葉が完投勝利!! いやいや「タブラン」のように「絶対にありえないこと」とは思っていなかったけど、こんな光景が見られる日がくると想像していたかと問われたら、すみません、ちょっと想像していなかったと答えざるをえません。

こんなことだって起こるんだよ。おうおう。何事も勝手に決め付けちゃいけない。私だって他人から「こういう人だよね」と勝手に決め付けられたくない。というか自分で自分自身を「こういう人だよね」と決め付けているのもアカンよね――みたいな熱い気持ちが湧いてくる光景を見させてもらいました。

だからね、「マツカン」はね「できないと思っていたことができた!」という意味で使うといいよ。たとえば、ギターを始めてどれだけ練習してもFが押さえられない。でもついにFの音がでたときね。「マツカ〜ン!」と思わず歌っちゃうみたいな。

これ、誰に向けて何の話をしているんでしょうね。まあ、あれですよ。とにかくうれしいし、自分もがんばらないとな、と思ったという話です。

そういえば佐渡島庸平の本にこんな一節があったことを思い出した(クリシュナムルティという思想家の言葉だそうです)。

「彼はこんな人だ」と言わずに、「二月に彼はこんな人だった」と言うことがとても重要です。なぜなら、その年の終わりには、まったく違っているかもしれないからです。重要なのは、自分の先入観や固定観念、意見ではなく、いつも溌剌とした心をもって他の人間に会うことです。

佐渡島庸平『観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』より





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