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10代が教えてくれる「選ぶ力」

(この文章は書きかけのものです。時間をかけて書き綴っていきます)
(公開日がなぜか2020年になっています。正しくは2024年4月です)

 いい歳になって初めてバンドの追いかけをみました。バンドの名前は「Altar Klee」。自分からすれば年齢が半分以下の高校生5人組。先日は、いい歳こいて2年生最後のワンマンライブのために青春18きっぷで名古屋まで行ってきました。
 Altar Kleeは1年生の頃からYouTubeに演奏動画を投稿し、1年ほど経った2023年秋に話題になりました。チャンネル登録者はこの記事を書いている時点でおよそ9.7万人。一番の火付け役はオールナイトニッポンで佐久間宣行さんが紹介したことです。

 この記事でも話題の中心は、複数のボーカルがいて、しかも5人全員が複数の楽器パートをこなすこと。公開されている18曲を順に見れば、ボーカルが3人、ギターが3人、ベースが2人(+サポート1人?)、ドラムが4人、キーボードに至っては5人全員がいずれかの曲で担当していて、とにかく曲ごとに編成が変わります。

https://youtube.com/playlist?list=PLOY2iPsSwcuw5XurJqcMeAQFdZOuL3PN9&si=QetK9Fkd8ugAjRYo

 このパートチェンジの理由について、彼女たち彼らは「(リード)ボーカルが曲ごとに代わるから」と述べます。ふつうはパートを固めるほうが個々の技術も高まるしバンドの個性や特徴なんかが出てくるものでしょうが、彼女たち彼らはそうはせず、各自が複数の楽器を練習することを選んでいます。
 そして演奏する曲のチョイスについてもYouTubeでは絶賛するコメントが散見されます。有名アニソンからボカロ曲、全歌詞英語の曲まで幅広く、例えば米津玄師ではなくハチ名義の曲を選んでいるあたりが「高校生とは思えない」と評価されています。演奏曲について自分は知らない曲が半分以上でした。けれどパートチェンジの理由通り、曲ごとにオリジナルの意図を汲み取り、ボーカルを引き立たせる演奏に挑んでいるのは音楽素人の自分でもわかります。
 パートが決まっていないことにも関連して、彼女たち彼らにはよくあるリーダーがいないようです。たいていのバンドは1人のつよい才能があり、それを輝かせるためのメンバーになっていくものですが、そういうものが、ない。部長はいるけど仕切っているようすもないし、ましてやメンバー唯一の男子が「男の子だから」などという理由でリーダーになっているわけでもない。むしろこの2人(なすさん、ウブ魚さん)はベースやドラム、キーボードなど音楽の下支えに徹していることがほとんどです。ボーカルという「この曲のリーダー」に誰もが柔軟に合わせるフォロワーシップの高さが際立っているというわけです。

 ここまでのことを踏まえて、自分はいちど「Altar Kleeは本物のデモクラシーを体現しているかもしれない」と書いたことがあります。誰もがリーダーになり、フォロワーにもなる。上下関係はなく、全員が対等。音楽だから、部活だから、高校だからという前提や条件のおかげかもしれないけれど、音楽だから、部活だから、高校だから、なおさらつよい上下関係に支配されることもある。そのように「組織」する方がつよくなれることもあるのに、彼女たち彼らはそれを選ばなかった。5人全員が「個」を保ち自由自在なバンドであることを2年にわたり続けてきたという選択は、いい歳したおとなからみてもすごいことだと思います。

 さてAltar Kleeの動画を何度も見ていると、他にもいくつかの高校生らしくない点に気づきます。ひとつは前後のMCや練習風景をほとんど見せず演奏だけを投稿すること。添えられたコメントもユーモアを利かせた(つもりの)一言だけ。カメラワークもいかにも素人の先生が録っているようなシンプルさで(時にブレる)、もちろん後付けの映像効果もなし。また、高校生なら1日何回も投稿しておかしくないSNS(XやInstagram)も、5人のメンバー全員がたまにライブ情報などを投稿するだけで、プライベートを明かさない。
 こうした抑制的な姿勢は、最初に書いたワンマンライブでも貫かれていました。自分も、合間のMCでメンバーの思いや人柄がうかがえるのを少しは期待していたのですが、よくあるメンバー紹介のようなインターバルは一切なし、パートチェンジのためのわずかな合間が複数あっただけで90分ぶっ通し。まともにしゃべってくれたのは、最後の最後のアンコール終わり一言ずつの挨拶でした。

 ここまで徹底していると、メンバーが本当にこのスタイルを選択をしているのか、あるいはそのように導いている「おとな」の存在を思わずにはいられません。そしてライブ会場で感じたのは、その両方でした。
 最後の挨拶MCで、5人全員が「先生」の存在を口にしています。おそらくここまでに書いた選曲、演奏、動画作成、あらゆる面で影響を与えている"顧問"的な人なのでしょう。この感謝を口にする時ばかりはいかにも高校生らしく、「部活感」があり、自分はその人物がいたであろう会場のPAブース付近にそっと目をやっていました。
 では、5人はそうした大人の理想を映し出す鏡、あるいは指導者次第で大きく変わる"野球部"や"吹奏楽部"と同じなのかといえば、動画を見る限り、そうではなさそうです。Altar Kleeは自分たちの選択と判断をできるメンバーでできており、「先生」はきっかけとヒントを与えたのに過ぎない。と、思いたくなる自分がいます。

(もう少し続く)

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