読書記録:ホームレス博士
水月昭道:ホームレス博士(2010,光文社新書)
仕事が忙しく,読書¬eの更新が遅くなってしまいました(←ただの言い訳)
そんな今回読んだ本は,忙しくてテンションが下がっている時に,さらにテンションを下げてくれる現実を見せてくれた「ホームレス博士」という本です.タイトルからも推測できる博士問題を扱った本です.
大学院とは何か
この本を読んでまず感じたのは「大学院とは何か」という点である.本書でも以下のように大学院における教育について記述がある.
大学院で2年間学んだ身として,研究のやり方,論理的に考えることについて少しは成長できたと思うし,専門的なことを時間をかけて考える時間は大変有意義であり,学んだことは多くあったと思う.そして,実際に大学院在学中に学んだことが今に生きていると感じることも多々ある.
しかしながら,本書にもあるが大学院修了の学歴と資格を義務化したポストがないこの日本においては,大学院で学ぶ価値があまりないように思われてしまう現実がある.大学院修了の学歴等が義務化されたポストがないこと自体が,大学院や学ぶことを日本社会が軽視しているということの表れなのではないだろうか.それでは,なぜこのような状況になってしまったのだろうか.
日本の現状とあるべき姿
日本の現状として本書に書かれていた美大についての現状を通じて感じたのは精神的に豊かでない日本という現実である.精神的な豊かさを表しているであろう美術に対する扱いが日本ではこの程度になっていることから,日本の精神的な豊かさは既に失われているのではないかと感じた.
そして,豊かな社会とは何かについて考えさせられた.豊かな社会を作っていくはずの研究者の多くが非人間的な労働環境に置かれ続けており,そのシステムが維持され続けているというという日本の研究者が置かれた現状が,本来あるべき姿から大きくかけ離れている日本の現状を表しているのではないだろうか.本書の中で扱われており,衝撃的であったのは博士課程修了者の「死亡・不詳の者」割合の高さである.15年程前のデータであるがここまで高いと以上と言わざるを得ないのではないだろうか.最近では中卒の死亡率の高さがニュースになっていたが,それ以上にインパクトが強かった.
そして,このような日本の現実を支えているのが,教育への投資の少なさと無知である.本書にも記載があるが,日本の教育行政に投じられる国費というのは,他の先進国と比較して少なすぎる.教育という将来の国にとって大事な部分に対して投資をしないで,成果だけを求めるという考えになってしまっているのは残念だ.
このように教育行政に公的資金を投じないで,非正規雇用などで良い結果を出す研究者を手に入れようとする方針から変えていく必要があるのではないだろうか.そして,公的資金の少なさと同じように日本の研究者を苦しめているのが「無知」であると感じた.非正規雇用の研究者の実態を知らないから公的資金を投じる理由がないという考えが生まれているのではないだろうか.
この悲惨な現状を変えていくために
このような日本の悲惨な現状を変えていくために,何が必要なのだろうか.それを考える上で重要になるのが,空気とそれを後押しするシステムそそて考えることだと本書を読んで考えさせられた.
空気とそれを後押しするシステムについて本書でも日本で禁煙が進んだ際の事例が紹介されている.
この大学院に行っても就職できない/非正規雇用されているのが悪いという空気やそれを後押しするシステムを変えていくことが,日本の研究者たちが置かれている悲惨な状況を打開するために必要なことではないだろうか.そして,社会を変えていくためには大きなパワーが必要があると本書でも述べられている.
この記述より,十分に思考することができる人が世界を変えることができるというのことは,学び続けることができる人,つまり博士たちが世界を変えることができる人たちであると思うし,自分も学び続けていきたいと感じた.このようなことからも学ぶということの尊さを感じた.
学ぶとは
この尊いことである「学ぶ」ということについて,本書の中でも多様な回答を紹介している.これらのことからも,「学ぶ」ということは人間らしく豊かな生き方をしていくために必要な尊い行為であると改めて感じた.学ばなくても生きていくことは可能であるかもしれないが,学ぶことで大変なこともあったとしても人間らしい豊かな人生を送ることができるのではないかと感じた.
私にとって学びとは○○です.そのように答えられるようになるには多くのことを学び,思考を続けることが必要だと感じた.そして,まだ自分にとっての学びが何であるか回答できないという未熟さについて気づかされた.これから学び続けて,学ぶことの意味についても学んでいきたいと感じた.
希望を捨てて「しぶとく」生きる
この希望を捨てて「しぶとく」生きるという言葉は,本書2部のタイトルでえあるが,現代の日本を生きる人にとって大切なテーマであると感じたし,結構気に入ったフレーズである.上記でも述べたが日本の研究者は悲惨な状態に置かれており,「しぶとく」生き延びることが求められる.
そのためには,型にはまりすぎず,自ら考え生きていく力が必要であると感じた.セオリーにはまることについては本書でも記述があるが,自らセオリーにはまりにいき,自らの選択肢を狭めていくということは往々にしてあるのではないのではないかと思うし,自分にもその節がある.
そして,周りに流されることに慣れた結果,自分で判断することができないという状態から脱却することも求められる.
このように何も考えずにセオリーや型にはまっていくと,自分で考えるという習慣を失う可能性があると感じた.自分で考える習慣を失ってしまうことで,本来「おかしい」ことであっても,その「おかしさ」に気づかず,自分が望んでいない方向に知らず知らずのうちに進んでいってしまう可能性があると感じた.そしてこれは,研究者だけの話だけではなく,日本の多くの人にとって必要なことではないだろうか.
日本に生きる一人に人間として,学ぶこと考えることを止めずに「しぶとく」生きていきたいと思わされる書籍でした.長くなりましたが,ここまで読んでくださりありがとうございます.
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