2023年8月&9月
518.祝福 (高原英理/河出書房新社)
『祝福』、今年これ以上凄まじい本に出逢える気がしないのだ…
奇妙な引力を持つ言葉が世界を侵食する――女子高生のブログ。架空の評伝。廃工業の秘密。魂喰い。ネットの新興宗教。表記を禁じた詩人……
存在を呪い、そして祝う、言語そのものが主役の小説。ゴシックからジェンダーまで内包したジャンル分け不能の幻想!引き返せない秘密を識る畏怖に酔うのだ〜
『幻詩狩り』が好きな方にはぜひ読んでみてほしいかも。ジャンルに嵌めると本質から逸れちゃうのだが、言語SFならぬ言語幻想文学というか……!
あ、冒頭にけっこう繊細なリスカ描写があるので苦手な方は心構えを!
519.ジョン・ハリス作品集 (ジョン・ハリス/グラフィック社)
クラークやアシモフの表紙でおなじみ『ジョン・ハリス作品集』が入荷してるのだ〜
ハードSFな宇宙空間からディストピア都市まで浮遊感あふれる素敵絵画の数々。キャンパス画&抽象の効いたクラシックな画風は、未来の奇景なのに懐かしくなる幻想的な矛盾
作品集で見ると想像の8倍くらい良くて驚くのだ〜!
520.神の聖なる天使たち (横山茂雄/研究社)
『神の聖なる天使たち』途轍もない書物だったのだ
ジョン・ディー博士の精霊会話記録から紐解かれる真実。エノク語、祈禱咒、地中の粉薬……水晶球の向こうに現れる存在は"何"だったのか──
錬金術/政治経済/学者の情念が複雑に絡まり合ってもつれる聖と俗。理解の網目をするりと擦り抜ける圧倒的な迷宮感。唯一無二の、冥界的読書体験!
横山茂雄(=稲生平太郎)は、伝説のUFO研究書『何かが空を飛んでいる』、ラノベ奇書『アクアリウムの夜』、魔術的暴力小説『アムネジア』と、著作すべて「迷宮」「冥界」「非言語化領域」みたいな言葉でしか形容できない怪作揃い!
他ではぜったい味わえない作家なので未読の方はぜひ〜
521.現代奇譚集 エニグマをひらいて (鈴木捧/※出版社表記なし/※電子書籍のみ)
最近のおすすめ実話怪談は『現代奇譚集 エニグマをひらいて』なのだ
知らない夫婦に連れ帰られた記憶、不明な文字列が貼られたラーメン屋、イバテルと呼ばれる子供たちの儀式の木、さるはくびつりじさつしますか—―
心霊現象というよりは世界のバグめいた、因果の壊れた奇妙な記憶集。透徹な知性と文学性を感じさせるテクニカルな文章も極上!
伊集院光さんのラジオでときどきやってる「空脳アワー」のコーナーとか好きな方はハマると思うのだ〜(^^)
522.復刻版 怪談人間時計 (徳南晴一郎/太田出版)
伝説の貸本マンガ奇書『怪談 人間時計』も押さえておきたいのだ
家の時計が一斉に壊れ惑乱の日々が始まる——突然のクリフォード・D・シマック!針が生えるお母さん!謎の時計マン(家庭教師)!知らん間にサイボーグ化してる主人公!
キュビズムが効きすぎたキャラと意味不明な物語が放つ謎の中毒性は、まさに読むドラッグ!。かつては古書価10万円超の激レアマンガだったのだ~。
523.神、人を喰う (六車由実/新曜社)
人身御供をテーマにした熾烈なる民俗学名著『神、人を喰う』が復刊してるのだ
生贄、憑座、人形御供、人柱……祭の変遷を軸に、なぜこの暴力的な伝統が生まれ、機能し、語り継がれてきたかを解き明かす論説。神を喰い、神に喰われる感覚とは—─
鮮やかな原日本の感性と社会システムの面白さ。これぞ民俗学!
524.ルパン三世 カリオストロの城 (山崎晴哉、モンキーパンチ(原作)/コバルト文庫)
コバルト文庫版の『ルパン三世 カリオストロの城』、なかなかの珍ノベライズだったのだww
小賢しく入るタイポグラフィ!突如しりとりで会話しだすルパンと次元!いちいち要らんことゆう地の文!佐藤春夫を引用してしっぽりメタに締めるラスト!
初期プロットが原案なので銭形警部の「あなたの心です」が無かったり、映画との違いを探すのも面白いのだ〜
525.僕の妹は漢字が読める (かじいたかし/HJ文庫)
『僕の妹は漢字が読める』は妹萌えラノベ×熾烈な文学論×ディストピアSFの3点を成立させてしまった怪作なのだ
地獄の萌え文体が純文学となった未来から平成へタイムスリップする兄妹たち
極端すぎる文化の衝突が表現の本質を問う、ディティールまで丁寧な言語SF。頭痛と感心が交互に襲ってくる奇書!
526.不思議で美しい石の図鑑 (山田英春/創元社)
アライさん最近鉱物ブームなのだが、『不思議で美しい石の図鑑』は強烈に脳が揺さぶられた一冊
瑪瑙とジャスパーを中心に、石が描く天然の奇跡を美麗写真で展開。石の中の目玉や風景石に纏わる奇譚も最高
宝石みたいなスタンダードな美は一切なし!AIのエラーにも通じるぞわぞわ感!ロジェ・カイヨワ『石が書く』と合わせて是非〜
527.消えちゃえばいいのに (和智正喜/富士見ファンタジア文庫)
『消えちゃえばいいのに』凄すぎたのだ
4人の少女に告白された日、死神が現れ100人が死ぬと告げる—―
のっぺり淡白な文章で積み上がる死体。章の頭には謎のカウント。齟齬を重ねる会話。針が飛びまくる記憶迷宮を彷徨う感覚は、気怠いドグラマグラのよう。霧が晴れきらぬままに強烈な余韻だけ残して終わるラストの素晴らしさたるや……!
奇書。一級の。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?