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清美と俺の北海道旅行~ペット同伴フライトで思い付いたショートショート

清美の機嫌が良くて何よりだ。

俺からしたら何がそんなに嬉しいんだかわからないが、ペットと一緒に飛行機に乗れる事に大興奮している様子。

まあでもあいつが機嫌がいいだけでこっちもメリットを享受できる。飯の量は豪華になるし、寝室やトイレまでもがいつもより綺麗になるからな。

こっちは海外どころか国内であっても長い移動はしたくないってのに笑えるだろ?

移動が堪えるのは年齢もあるんだろうけど、それでもこういう関係になっちまった以上は、ニコニコしながら旅行に付き合うしかない。

別にエア代がいくらだろうが構いやしないが、清美がペット同伴だと割高だなんだとか言っていた。

高いと思うなら行かなきゃいいだけなのに、割高割安がどうこうをひとしきり語った後には最初から決まっている結論を言うんだ。

俺はいつものように貨物でいいと思うんだがな。
だってだぜ?同伴したところで外に出せるわけでも遊べる訳でもないんだから同じだろってこっちは思う訳よ。

それから一ヶ月、清美の機嫌が良くて飯が豪華になったのは三日間しかなかったな。その上機嫌の中で決まったのがこの北海道旅行。

まったく、寒い時期に寒いところに行くという清美の考えが理解出来ない。それでもこいつと付き合っていくには全てを飲み込んでニコニコして付き合うしかないんだよな。

いつからこんなに金玉握られちまったのかって話になると、やっぱりこんな親の顔も知らない俺を愛してるって言ってくれた日からになるか。

とにかく俺にはこいつしかいないし、やっぱり多少は自分を殺すのも仕方ない的なところがある。

「楽しみだねえ」

と、仕切りに話しかけてくる清美。

窓口で、ワクチン接種証明書を提示してくださいと言われる。
これを探すために昨日はリビングの棚をひっくり返してたもんな。
どうしよう、証明書がないと乗れないって清美は大慌てだった。

同じ手続きをしながら、ケージを持っている旅行客もそれなりに多く、吠え出して止まらないような犬も散見されてなかなかカオスだった。

CAにお静かにお願いしますなんて言われてたけどやつらは止まらない。
まあ気持ちはわかるよ。
いきなりケージに詰め込まれて知らない場所だもんな。
ゲートの雰囲気は非日常って感じだし、フライト経験もないあいつらが不安な気持ちになるのは俺でもわかる。

飛行機の中は、離陸してしばらくすると不安な声を出していたペットたちもいくらか静かになってきた。

しかし本当にあるんだよな。
こういう鳴り物入りで始まったサービスで、すぐに事故が起きるっていう漫画みたいな話が。

もうそろそろ札幌かってところで、右のエンジンから真っ黒な煙が出ているのを確認した。

CAは客席を落ち着かせるようにアナウンスを繰り返すが、その効果もむなしく客席は阿鼻叫喚、それに呼応するようにペットたちも騒ぎ出す。

どうにか胴体着陸を試みると、それ自体は轟音を立てて胴体を削られながらも成功したが今度は機体後部から火を噴いた。

機体後部ってのはこのスターフライヤーだとペットの席があるところで、そう、俺たちがいるあたりって事になる。

順番に緊急脱出をするというアナウンスに従う者たち、ペットと一緒じゃないと脱出したくないとCAに反抗する者たちで機内は二分された。

そして清美は当然後者。

どうしても自分だけ脱出したくないと泣きだす清美を俺はなぐさめていた。
『お前だけでも助かってほしい、ここには俺が残るから。』

何度もそう語りかけたが清美は動かない。
清美が脱出する順番になっても、それは変わらなかった。

後部座席には結局ペットと一緒に死を選んだ者、脱出時に清美らの降りない騒動に巻き込まれて避難が遅れて脱出に失敗した者たちが取り残された。

もうおしまいだな。
火は、機内まで燃え移ってきた。熱くて喉が渇くが、もうその苦しみも時間の問題だ。

燃え盛る火の中、清美はしくしくと泣きながら俺の名前を連呼する。

「ポチ!ねえポチ!起きて!ポチ!」

そんな事言われたってな。
だから行きたくなかったんだ、本当は家でドギーマンのひとくちダイスササミを食べてるはずだったのによ。

やれやれだぜ。
俺はこうして短い犬生を終えた。


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