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ShoeShineBOYZ1945-①

「シューシャインボーイ?なんだよそれ?」

モク拾い仲間のテッチャンが新しい仕事があると言って俺を誘ったのがあの事件の始まりだった。

俺達浮浪児が暮らしていた上野駅の地下道ではたくさんの派閥があった。

それこそ最初の頃は奪い合うものがないというか何もかもがない状態だったけれど、時間が経つに連れてやれバタ屋のシマがどう、この道でモク拾いはするな、色んなルールが作られていった。

毎日何人も死んでいく仲間の死体を一緒に片づけたり、すばしっこい犬を捕まえるために一緒に格闘していた仲間達だったのにどうして仲が悪くなっちゃったんだろうなあ。

それに死んじゃった子たちもみんな今日まで生きていればなあ。

もう犬猫にねずみなんか捕まえなくたって、闇市に行けば二日に一度は5円のうどんくらい食べられる。

モクに鉄クズ、新聞集めにおもらいの手伝い。

やることはたくさんあって毎日忙しいけれど、それでもあの頃よりも全然いい。なにより食べるものがあることが一番だった。

集団疎開から戻ったあの日、駅にお迎えがなかった俺達はみんな仲間だ。

そんなことを言ってみんなを引っ張ってくれていたジロウちゃんも倉庫荒らしがめくれて殺された。テッチャンは最後にジロウちゃんが進駐軍に撃たれた時に一緒にいたんだよな。

パーンと音がなって、すぐ横を見たらジロウちゃんが倒れていたそうだ。

国の刈り込みでトラックに乗せられてどこかに連れてかれてしまった仲間もいた。

「あれどこへ行くか知ってるか?山に捨てられちゃうんだぜ?」

そんなことを言っていたひょうきんもののキンちゃんも腐ったものを食べてコロっと死んだ。

キンちゃんは野良犬が腐った食べ物の外側だけを食べて、内側は食べないで捨てているのを見てからどんなに腐敗が進んでいても外側だけなら平気という理論を編み出したがそんなの嘘っぱちだった。

まあそれでも戦争が終わってもうそれなりに時間も経って、今日も闇市では仕事がある。テキ屋のおじさんがご馳走をくれる日もある。

それでいいと思っていた。

俺達のことをバイキン、汚い臭い、乞食というやつだってたくさんいたけど、そんなの仕方ない。拾うか盗むしかないんだから当たり前だろう。

だけどシューシャインボーイをするには身なりをもう少しきれいにしないと駄目なんだそうだ。

「汚れた格好のやつが靴磨いたってきれいになった気がしないだろ?」

テッチャンはそう言ったが顔はすすけて真っ黒だった。

とにかく駅から山谷方面に少し歩いたところで靴磨きをしていい権利をもらったらしい。

「でもさあ、そこらへんのシマは傷痍軍人のおじさんたちが物乞いをしているところだろう。俺達は靴磨きをしてはいけないはずなのにどうやって許可をもらったんだい?」

俺はそう聞いた。

テッチャンは元々は楽器屋の子供だった。当然家はもう燃えてさっぱりなくなってるし家族もきれいさっぱりいなくなったけれど楽器の知識はあった。

片足の軍人のおじさんはいつもアコーディオンを演奏して物乞いをしてたけど、ある日そのアコーディオンが壊れて困っていたところをテッチャンが直してあげたんだそうだ。

そういうことらしい。

軍人のおじさんも自分で直せないものかと思ったが、よく考えたらあのおじさんは片足だけじゃなくて両眼もないんだった。納得だ。

まずは衣服をキレイにって言ってもさあどうしよう。

「それはもう考えてあるぜ」

テッチャンは自信満々にそう言った。

電車の座席のシートをナイフで切り取ってきて、それで服を作る作戦を閃いたんだそうだ。最近シートが新しくなった車両があるとのこと。

作戦はその日のうちに成功した。最後は追いかけられたけれど上野で俺達よりも足の速い奴なんていないし余裕しゃくしゃくだったけど、服はそんなことをしなくても結果的に手に入った。

最近この街に来たパンパンのお姉さんがくれたんだ。

俺が弟に似ているからとのこと。これはラッキーストライクだった。

「これはついてるなテッチャン、ラッキーラッキーのラッキーストライクだね」

そう言った俺にテッチャンはふてくされてこう言った。

「慰問たばこみたいな顔して何言ってんだ」

テッチャンの座席のシートで衣服を作る計画がおじゃんになったからか、それからしばらくテッチャンはむすっとしていたのをよく覚えている。

後は靴墨だなあ。闇だと高いしなあ。どうしようかなあ。

進駐軍専用の売店、PXで売られている何倍もの値段がする闇で靴墨なんか買える訳もない。

仮に買えたとしても仕入れがそれじゃあどんなに場所がよくても儲かりはしない。

「うーん、じゃあ盗みやるしかないか」

でもPXで盗むのはさすがに難しい。俺とテッチャンだけじゃあ無理だ。

「だからお金のほうを盗るんだよ、靴墨じゃなくってさ」

またあれをやるつもりだ。

テッチャンはてっぽうが上野の同い年くらいの子の中で一番上手かった。

てっぽうって言うのは歩いている人の右胸にぶつかってその隙に左胸から財布を抜き取る技。上野ではそう呼ばれていたんだ。

「でもなあトミちゃんがそれで殴り殺されただろ?やめようよ」

俺はそう言ったがテッチャンは聞く耳を持たない。

もう俺には仲間と呼べる友達はテッチャンしかいないし心配だった。

それにテッチャンは深川のスリの学校へ行ったはいいけど三日で抜け出してきた独学の叩き上げ。だったら俺のナタ切りの方が上手い気もしてきた。

ナタ切りはバッグをカミソリで切ってそこから金目のものを抜き取る技。

まだキンちゃんが生きてる頃に一緒にやってたんだ。

とにかく今日はひとつめの作戦は成功したんだ。

お腹はすくが焦ったら駄目。

そう言い聞かせながら俺達は隅田川沿いの寝床に帰った。

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