そうだろ?みんな、これが見たかったんだろ?

朗読劇「二階堂優の事件簿」~プロクルステスの寝台~を見てきました!!!

始まる前までは、二階堂優がホームズで、森雄吾がワトソンで、澤山要が被害者もしくは依頼者なんだろうなと思ってた。

『この舞台に脇役も観客もいないわけ。全員主要人物で、被害者で、共犯者で、目撃者。』

そういえばそういう脚本を書かれる方でした……忘れておりました……。
流久里さんの脚本は、けっこうチェーホフの銃のセオリーを意識して書かれているような気がする。必要ない登場人物はいない。登場人物にはみんな過去への後悔だったり、強い信念があったりする。そして彼らの優しさや思いやりが物語を動かしていく。
私はデスナインのオタクなのですが、デスナインシリーズだってそう。ガラテア、ガラテアを動かす少年9人。登場人物はその時点で最低20人。少年全員にバックボーンがあり、プロジェクトFからの誘いを断らなかった理由、頑張る理由、ここにいる理由がある。

意味のない登場人物なんていないし、全員何か役割がある。
表題のセリフを言ったのは二階堂優だが、本来はこのセリフ時点でわけがわかっていないだろう真犯人に向けて言っているのだと思う。けれど私は、ただ座って見ている観客に対しても言っていると思った。

この脚本は、デスナインシリーズで二階堂優というキャラクターを知っている人のほうがきっと裏切られる。
三度の飯より君が好き、から始まる二階堂優の口上は、優という名前をすぐると初見で読めた登場人物に対する暗示だった。
詐欺師としてネット上で顔写真が流布されていた二階堂優なら殺人もやりかねない、と私は最初思った。

二階堂優は、本編でも飄々として真意の読めないところのあるキャラクターだが、けっこう重要な問いかけをしてみんなを先に進ませたりもする。守野先生が死んでしまったあと、Eクラスが立ち上がるきっかけになったのは二階堂優だ。
周りが見えていて状況判断も的確だが、変態で周りから避けられている。二階堂優が欲しているのは、人間の心の奥底にある欲を晒けだす瞬間や、人から強い思いをぶつけられることだと思っている。
二階堂優はキュートアグレッションを持っている。キュートアグレッションとは可愛いものを見たときにそれを押しつぶしたり攻撃してしまいたくなる衝動のことだ。(これを作中では、きゅっとしたくなる、と言っている)
人は可愛いものを見たときにドーパミンという脳内物質が出るようなのだが、ドーパミンには興奮させ攻撃的にさせる面も持っているようで、これがキュートアグレッションに繋がるということらしい。
なんとなく、可愛いものを見たときに出るドーパミンの量が二階堂優の場合人より多いのではないかと私は疑っている。もっとも、快楽主義者でドーパミンに弱いという説も(オタクの中で)ある。
今回の事件で、なぜ二階堂優は犯人や目的に気づいたのにあえて止めずに最後まで走り切ってしまったのかという意見をツイッターで見かけた。デスナインシリーズで二階堂優について多少理解があるオタクならなんとなく真意が読める。オタク的にいうと、今回の事件で二階堂優はドーパミンジャブジャブしたかったんだね~ということだ。
(余談だが、そういえばホームズも快楽主義者みたいなとこあったな……薬物中毒者でドーパミンジャブジャブしてたな……と思うなどしました)

森雄吾はハイパーサイメシアだが、人との付き合いが不器用なところ以外は本当に普通のいい子だ。
むしろ、ハイパーサイメシアの力に振り回されて人から天才だと期待されたり妬まれたり、すごく辛い人生を歩んできたのだと思う。
だからこそ、この力があってよかった、と嚙み締めるようにはっきりと言った推理披露前のシーンで私は泣いた。
この物語で一番救われたのは森雄吾なのかなと思った。

澤山要も、我が強く周囲と衝突しがちなのかもしれないけれど友達想いの本当にいい子だと思う。
おそらく、このシナリオを描いたのは本当に澤山要。
要以外の3人は本当に社長を殺したかった。けれど要は、誰にも犯人になってほしくなかったのだと思う。だから最後、全員のコーヒーに睡眠薬を入れた。そのコーヒーを飲んで全員が眠り、殺害は行われない。それが要の描いた真のシナリオだった。
二階堂優がどこまで要のシナリオを読めていたのかは定かではないが、今考えるとそこは100%読めたわけではなかったと思う。
①殺害の実行犯以外の全員が寝たところで、実行犯が殺害を実行する。
②全員が寝て、殺害が実行されない。
このどちらもあり得たのだ。最初からコーヒーを警戒していた二階堂優はコーヒーに手を付けなかったが、いま考えるとここで寝たらもったいないと思っていたのだと思う。犯人が殺意を剝き出しに殺害を実行してくれるなら、二階堂優の望んでいた人の本質を見ることができるから。誰も殺そうとしないなら、二階堂優の手で殺害が起こったように偽装し、4人の真意を見たいから。
森雄吾が薄れゆく意識の中で、やっぱりという声を聞いている。
要の優しさに賭けて、それが当たってくれたからだ。

『あ、そっか、これか世界の美しさって』

きっと今回の事件で二階堂優と出会ったあの4人にとって、世界は変わった。
そして、この物語と出会った私も、世界が変わった。
これからも二階堂優が世界を変えることを祈っているし、二階堂優にはもっと人の本質に触れて暴いていってほしい。
願わくば、この「二階堂優の事件簿」がシリーズ化されますように。


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