新人研修で伝えたいこと【2023年度版】

今年も新人研修の時期が近づいてきました。
4月からはIT企業向けの新人研修を実施します。
今年の新人研修で研修生に伝えたいことをここにまとめます。

今年の新人研修で1つのキーワードとなるのはなんといってもChatGPT。
昨年度の年末から今年にかけてChatGPTが登場したことによってIT業界を取り巻く環境は大きく変わることが想定されます(むしろもう変わっているかも)。新人研修をする上でもChatGPTやその他のAI技術を考慮した上で働き方に対する考え方や技術に対する考え方を伝えていく必要があると考えています。

私たちが実施する研修は、ヒューマンスキル(社会人として必要となるスキル)と、テクニカルスキル(IT業界で働く上で必要となるスキル)の2つの観点から教育を実施しています。

ヒューマンスキル

ChatGPTを踏まえた上で、これからの時代に必要とされる人材は以下のような人だと考えます。

  • 他人の目線で考える、能動的に行動できる人

  • 自律した人

他人の目線で考える、能動的に行動できる人

仕事の本質は、自分以外の誰かに価値を提供することです。
学生は基本的に自分の成績を上げることを目的に学生生活を送っています。
そのため、自分を中心に物事を考えている人が多いことでしょう。
しかし、社会人になって仕事を始めると、自分以外の誰かに価値を提供するために行動する必要があります。そのためには、自分中心で考えることをやめ、他人中心に考えて行動する必要があります。
他人に対して価値を提供するためには自分がどうすべきかを考えて行動すること。これが社会人として働く上で求められる姿勢です。

ここでChatGPTについて触れていきます。
ChatGPTが登場したことで、プログラミングや資料作成を始めとする多くの作業がAIで代替できる環境になりました。
ChatGPTは現在、基本的には無料で使うことができます。
快適に使うには有料会員になる方が良いですが、有料会員になっても日本円で月額2000〜3000円程度です。
一方で人間を従業員として雇う場合はどうでしょう。
企業が従業員を雇うには1人だけでもそれなりのコストがかかります。
従業員に対しては毎月給料を支払う必要があり、給料以外にも諸々の経費がかかります。
つまりコストだけを比較するとAIと人間では数十万円単位でAIの方がお得です。

人間に仕事を頼む場合と、AIに仕事を頼む場合で、結果に大きく差がないのだとしたら、AIに仕事を頼む方がコストが低くて済むのでメリットが大きいのは明らかです。むしろ、的確な指示を与えればAIの方がスピードも精度も人間を超えてくるでしょう。また、面倒な作業だとしても不満を言うこともなく作業してくれます。

つまり、誰かの指示を待ち、指示された仕事しかできない人はAIに代替されるため、今後組織には不要な人間になるということです。これはプログラマーやエンジニアなどのIT業界に限らず、PCを使ってデスクワークをしている人は例外なくそうなることが予想されます。
もちろん新人のうちは誰かに指示されて初めて仕事に取り組める場面も多いでしょう。与えられた仕事をきちんとこなしていくこと自体はとても大事です。与えられた仕事すらまともにできない人はAIがなかったとしても組織から必要とされません。しかし、AIが進化した時代においては、与えられた仕事を指示された通りにしかできない人でさえも必要とされなくなります。

では、現状AIにできないことはなんでしょうか。
AIの仕事は与えられたインプットをもとにアウトプットを生成することです。精度の高いインプットを与えることができれば、その分精度の高いアウトプットが得られます。
逆にいうと、インプットを与えなければアウトプットは得られないし、与えるインプットが雑であれば得られるアウトプットもその程度の質になります。何もインプットを与えていないのに、勝手に意見やアイデアを提案し始めることは現状のAIではできません。
つまり、インプットがない場合やインプットの精度が低い場合(曖昧な指示しか与えられていない場合)でも、他人(お客さんやチームメンバー、自分の組織など)のため何ができるかを自分の頭で考えて能動的に行動できる人は、AIには代替されません。

自律した人

自律した人とは、自分律する(コントロールする)ことができる人のことです。

先にも述べたように、人から与えられた仕事しかできない人はAIに代替されるので不要になります。
人に指示された仕事しかできない人や、与えられた仕事で失敗した時に責任を指示者のせいする人は、自律していない人と言えます。
一方で、人から与えられた仕事でも、自分で勝手に進めた仕事でも、自分の行動の結果にはに対しては自分で責任を取る人は自律している人と言えます。
また、他人から管理されたり監視されていないと仕事ができない人も自律していない人だと言えるでしょう。
誰かから指示されなくても自分から仕事を見つけたり、スケジュールを自己管理して勝手に仕事を進められる人は自律した人の特徴です。
悪い言い方をすると、何もしなくても勝手に働いてくれる、組織にとっての都合の良い人(良い意味で)が自律した人です。

新型コロナウイルスが流行した後、リモートワークを推奨する企業が一気に増えました。そして、世の中全体でリモートワークという働き方は一般的なものになりました。
しかし、流行のピークが過ぎてコロナウィルスに対する危機感が薄れている現在、リモートワークから原則出社に切り替える企業が増えているようです。自宅でもできる仕事であれば、自宅の環境を整えて出社にかかる時間やストレスをなくした方が快適に働けると感じる人は多いはずですが、コミュニケーション不足や何をしているかが把握できないことを理由に出社を推奨している企業が増えているようです。
企業側はなんやかんや理由をつけて出社を推奨するようにしていますが、根本的には自律していない社員が多いことが要因になっているように思います。
自律している人は他人からいちいち管理や監視をされなくても、期限までに与えられた以上の仕事をします。しかし、自律していない人は他人からの管理や監視がないとまともな働きを期待できないため、リモートワークを許可するのが躊躇われます。
企業にもよりますが、自律した人であることが認められれば、出社を推奨している企業でもリモートワークを許可してもらえる確率も高まるのではないかと思います。

AIに代替されない人になるためにも自律した人になることは重要ですが、リモートワークで働きたいと考えている人や、場所にとらわれずに自由な働き方をしたいと考えている人は、より一層「自律」というキーワードを意識して仕事をする必要があります。

考える人、自律した人を育てるには

自分で考えて能動的に動ける人、自律した人が今後の時代には求められると思います。しかし、そういった人を育てる教育はそれほど簡単ではありません。というか、根本的には教育によって自律した人や自分で考える人を育てるのは無理なのかもしれません。

自分で考えて能動的に動く人は、他人から何かを言われる前にすでに自分で考えて動いています。自律している人は他人から何か言われる前に自分で自分をコントロールしています。
他人から「自分の頭で考えて行動しろ」「自律した人になれ」と言われてから行動を変える人は、その時点で自分の頭で考えていないし、自律していません。
自分発信で考え方や行動を変えなければ能動的に考えて動ける人や自律した人にはなれません。なので、根本的に他人からの教育でそのような人を育てるのは難しいです。

しかし、他人の目線で考えて動いている人や自律している人の行動習慣を集めて模範することで次第にそのような人に近づいていくことはあると思っています。そこで、私の思う他人の目線で考えて行動している人や、自律している人の一般的な行動習慣をまとめるので、参考にしてみてください。

  • 自分から挨拶する

  • 自分からコミュニケーションを取る

  • 自分だけが話すのではなく、聞き手に回って話を聞く(キャッチボールになるように会話をする)

  • 時間に余裕を持って行動する

  • 些細なことも細かく確認・報告をする

  • 相手が何を求めているかを想像し、簡潔に伝えるべきことを伝える

  • わからないことは積極的に質問する。質問する際は自分である程度調べた上で要点をまとめて答えやすい質問をする

  • ネガティブ発言を控え、どうやったら実現できるかを考えて仕事に取り組む

  • 失敗した場合は自分にも責任があると捉えて改善点を考える

  • 何事も準備した上で取り組む

  • 仕事の目的を理解し、目的達成のための最善策を考えて行動する

日々上記のようなことを意識して仕事をしていれば、徐々に他人の目線で考えることができて能動的で自律した人になっていくだろうと思います。

ビジネスマナー

新社会人になって必須になるスキルの一つがビジネスマナーでしょう。
ビジネスマナーについては、リモートワークが流行った世の中でもChatGPTが登場した世の中でも本質は変わりません。
ビジネスマナーとは相手から良い印象を持たれるためのスキルです。

仕事の本質は他人に対して価値を提供することであることは前述した通りです。
その上で、悪い印象を持った人と良い印象を持った人では、どちらが価値を提供できる可能性が高いでしょうか。
もちろん第一印象だけで全てが決まるわけではありませんが、人は一度悪い印象を持ってしまうと、それだけで信頼感や話を聞こうとする興味が失われてしまいます。そうなってしまうと価値を提供をすることに対するハードルは高くなってしまいます。
良い印象を持たれれば、その人の話は聞いてみようと思いますし、それだけでも価値を提供できるチャンスは広がります。

つまり、ビジネスマーは仕事で価値を提供するためのチャンスを広げるためのスキルと言えます。

良い印象を持たれるためにやるべきことは実にシンプルです。
・相手が嫌がることをしない。
・相手が喜ぶことをする。

以上の2点だけです。

「この人は何をされたら嫌がるのだろうか?」を考え、嫌がることをしない。そして、「この人は何をされたら喜ぶだろうか?」を考え、喜ぶことをする。これがビジネスマナーの本質です。
結局のところ、ビジネスマナーは「他人の目線で考えて行動する」習慣が身についていれば、自然とできるものだと考えることができます。

ここで大事なことは、人間の価値観は1人1人バラバラであることを理解して受け入れることです。いわゆる多様性というやつ。
何をされて嫌がるのか、何をされたら嬉しいのかは人によって千差万別です。
まず、自分がされて嫌なことは他人に対してもしない。
人間として当たり前のことです。
その上で、人はみな価値観が違うことを理解し、相手のことを想像した上で行動を変えていく。これがビジネスマーで大事なポイントです。

ビジネスマナーと聞くと敬語の使い方や身だしなみ、おじきの仕方、電話対応、名刺交換などを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
それらは確かにビジネスマナーに分類されるものですが、それらの知識を身につけたことによってビジネスマナーのスキルを身につけたことにはなりません。
それらの知識が不要とまでは言いませんが、その知識があることで無条件に他人から良い印象を持たれることはありません。
確かに、知識があることで悪い印象を持たれるリスクを多少低くすることはできます。敬語が使えていない人はそれだけで常識がないと思われて悪い印象を持つ人も一定数いることでしょう。でも、一般的なビジネスマナーと呼ばれるスキルの効力はあくまでその程度のものです。

自分がサービスを受ける立場のとき、を想像してみてください。

  • 完璧な敬語を使っているが、愛想がなく、マニュアルに従って淡々と作業しているだけの従業員

  • 敬語の使い方は間違っているが、自分のために一生懸命できることをやろうとしていることが伝わる従業員

多くの人は後者の方が印象が良いと思うことでしょう。結局、マナーとはそういうものです。

相手の立場で考えて行動し、相手から良い印象を持たれるようにすること。
その上で、ビジネスとして本当に価値のあるものを提供するためにどうすれば良いかを真剣に考えて取り組むこと。これができる人は社会人として周りから必要とされる人になれるでしょう。

テクニカルスキル

IT業界におけるテクニカルスキルは、プログラミングを始めとするシステム開発・運用に必要となるスキルであったり、ツールを使いこなしてやりたいことを実現するスキル、などでしょうか。
テクニカルスキルのあり方もChatGPTの登場によって今後大きく変わっていくことが予想されます。

個人的に思う、今後IT業界で働く上で必要となるスキルは以下です。

  • 多くの技術の存在を認知している

  • それらの技術の概要とメリット・デメリットを理解している

  • 目的を達成するために最適な技術を組み合わせを考えて設計できる

  • ChatGPTなどのAIを使いこなしてスピードや品質を上げることができる

プログラミングスキル(コーディングスキル)は経験のない人からすれば高度な知識やスキルを要すると認識している人も多いことでしょう。
しかし、ChatGPTが登場した今、プログラミング(コーディング)は最早誰にでも簡単にできるものになりました。プログラミングは今や特別なスキルでもなんでもないです。単にプログラミング言語のコードが書けるだけの人はもはや不要です。特に、設計書をもとにそれをコードに落とし込むことしかできないプログラマーはすでにAIに代替できるし、AIの方がスピード早く実現できるので既に不要です。
もちろん、プログラミングスキルが全く不要になるわけではありません。
AIもまだまだ完璧ではなく、間違ったコードを作成することも多いので、その間違いを見つけたり、AIには仕様を伝えるのが難しいプログラムを実装するためのスキルは必要です。
自分にできないことをAIに依頼するのではなく、時間をかければ自分でも実現できることを、時短のためにAIを活用するなど、あくまでの自分のサポート役として使いこなせる人が賢い使い方だと考えます。
そのような賢い使い方ができる人が今後は求められる人材になると思います。

そして、ITエンジニアがAIをうまく使いこなすためには、色んな技術の概要を知っておくことが大事です。

実現したいことがある時(作りたいものがある時)、具体的にどんな技術を使ってどんな仕様かを伝えるかを明確にChatGPT伝えれば、ChatGPTによって実現スピードを早めることができます。ここで大事なのは、どんな技術を使っての部分です。
例えば、Aという技術しか知らない人は、Aという技術を使ってやりたいことを実現しようとします。その際に、ChatGPTを活用できれば実現するまでのスピードを早めることができます。
しかし、世の中にはBやCやDという技術もあり、実際にはA,B,C,Dの技術を組み合わせた方がより効率よく、かつ高品質でやりたいことが実現できるかもしれません。

つまり、AIを使いこなすにしても、AIにインプットを与える人間の前提知識や理解度によってアウトプットの質が大きく変わってくるのです。
IT業界で働く人は、AIが質の高いアウトプットをするようなインプットを与えられることが大事です。そのためには、多くの技術の存在を認知し、それらのメリットやデメリットを知っていることが重要です。

新人研修で身につけるべきもの

では、IT企業の新人研修ではどんな技術を身につけるべきでしょうか。
私の個人的な考えとしては、IT企業の新人研修では以下のことを身につけてほしいと思っています。

  • 新しい技術を学ぶための土台となる基礎知識

  • 論理的思考力

  • ドキュメントを読む読解力

  • 学習することに対する抵抗を無くすこと

  • 技術を学ぶことを楽しめるようになること

最終的には、技術を学ぶことが楽しいと感じ、自分から学び続けることができる人はIT業界で働き続けることができるし、エンジニアとして必要とされる人になっていると思います。エンジニアとして生き続けるには結局のところ技術に対して興味を持って学び続けられるかどうかが一番大事です。
そのためには、学ぶことに対する抵抗をなすくことが大事です。
日本は学生時代で勉強すること自体に抵抗を感じる人はかなり多いです。
なので、まずは学ぶことは嫌なことではないと感じること。
その上でさらに、技術を学ぶことを楽しいと感じれるようになればエンジニアとして心配することはないと言っても過言ではありません。
ただ、何をきっかけに学ぶことを楽しいと感じるようになるかは人それぞれであり、他人が強制的に興味を持たせることはできません。
研修は技術に対して興味を持つためのきっかけ探しの場として活用することが大事かもしれません。

IT業界は常に新しいことを学び続けなければいけません。
そのためには興味を持つことが最も大事ですが、興味だけではどうしようもないこともあります。難しいことを学ぶには、学ぶための土台となる基礎知識や、論理的思考力、読解力などの能力が必要になります。
研修では基礎知識を身につけながら、必要な論理的思考力や読解力を鍛えるための場としてうまく活用することが大事です。

新人研修の中ではいくつかのプログラミング言語やデータベースなどを実際に触りながら学習することになります。それらの知識やコーディングスキルは身につけるに越したことはありませんが、そのスキルを身につけることが最終目標ではなく、あくまでも今後学び続けていくための土台を作るきっかけでしかないことを認識して学習をしてほしいと思います。

まとめ

AIの進化、そしてChatGPTの登場によって仕事のあり方は大きく変わっていくことでしょう。このことを不運と捉えるのか、チャンスと捉えるのかは本人次第です。
AIによって多くの人が不要になると言われると大変な世の中になったと思う人もいるかもしれませんが、個人的にはとても面白い時代になってきたとお思っています。
この時代に新社会人になるのは私個人としてはとても羨ましいです。
今の世の中の状況をチャンスと捉え、時代に合わせた最適なスキルを身につけてこれからの時代を活躍してほしいと思います。

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