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父さんな、ナイジェリア映画について知ったかぶろうと思ったんだ。

ネットフリックスでインド映画を続けて見ていたら、おすすめ欄に南アフリカ映画が表示されたんですね。でもアフリカで映画大国といえばナイジェリアじゃん? って探したら、2020年8月現在、日本で比較的気軽に見ることができるナイジェリア映画はネトフリだけでも20本前後、あるらしい。
おお、どんな感じ? ってなるでしょ? でも何から見たらイイのか……ともなるでしょ? よしわかった、俺が人柱になろうじゃないかエントリがこちらです。
ただ、10本見ただけでは知ったかぶれないことを10本目にして悟ったので(遅い)ただただ俺が見た映画の感想。みたいなことになっております。

『LIONHEART/ライオンハート(2018)

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最初の1本に選んだのは比較的新しい作品で、かつ事業承継の物語なら、そんなに大きくは外さないのでは? という勘だけのチョイス。
そもそも(もう8年会ってないけど)ラゴスにヨルバ族の友人一家が居るので、なんとなくナイジェリアのイメージは持っていたんです。いわく、産油景気で都会化が加速している、とか。歴史知識としてのビアフラ戦争とか。フェラ・クティとか。今年に入ってからだと、広州におけるCOVID-19禍の差別を契機とした中国との緊張云々。
だから、映画冒頭から何何何の話で揉めてるんです? って「ちょっとぐらいは知ってるつもりだった」のにぜんぜん分からないところに、まずはワクワクしました。
物語が進むにつれ、映画の舞台になっているエヌグ(イボ族)とカノ(ハウサ族)の土地柄の違いなどはあくまでも調味料であり、作品としての全体像はむしろ半沢直樹枠で毎週日曜夜21時から放送されていても驚かない、って思ったので、つまり裏返せば日本のコンテンツが遠くアフリカで受け入れられる可能性もあるのかもな。って感想に落ち着きましたけどね。

『ウェディング・パーティー(2016)

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ナイジェリア映画の歴代興行記録を光速で塗り替えた理由が最後までよくわからなかったんですけど(このあと見続けていく作品に本作キャストがだいたい居ることから、なるほどオールスター感なのか。と後日判明しました)部族間で揉める火種はそう簡単になくなりそうにないねえ。とか、ティモンディ高岸みたいなたたずまいの奴が出てきたと思ったら芸風もまあまあ似てる。とか、どういう背景で新婦友人役のひとりがアングロサクソンなの、香港出身UK学歴? たまたま出たナイジェリア映画がヒットしたぐらいの縁? へー香港では日本アニメの吹替声優だったって? みたいなマメ知識は手に入れました。
あとは本筋ではないエピソードながら、大学卒業したもののコネ無いから就活で連敗続きの俺のキモチがおまえらみたいな恵まれた奴等に分かるか。というキャラが出てきて、そういう細部を含め、作品としてはグローバルスタンダード対応なところ、ありましたね。

『キング・オブ・ボーイズ(2018)

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なるほど『ウェディング・パーティー』(2016)見てからでないとこのキャスティングの妙は認知できなかったので、偶然とはいえ先に見ていた俺GJ。
プロットはよくある「マフィアの権力闘争もの」ではあるんですけど、どうでもいいシーンで出てくるフジ・ミュージックってナイジェリアの音楽シーンにおけるジャンル名が実は富士山から来ているとか、主人公の名前エニオラってユニセックスに適用可能なんだなとか、3時間は長いよってナイジェリアの映画レビューサイトでも言われていて「せやろ?」って思ったこととか、学びは相変わらず多い。
カットバックが下手か。みたいな映画技法のこなれなさはたしかにあって、本当はもっとスタイリッシュに仕上げたかったんだろうな、と思いはしましたが、コメディやメロドラマしか大衆には受け入れられない、とされていた(んだってさ)ナイジェリア映画市場において、こういう「政治ネタかつシリアスもの」を投下し、それなりの成功を納めたという話は良い。

50』(2015)

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ドラマ・コメディ・サスペンスと見たので今度は「恋愛」カテゴリを選んだんですけど、だいたい日曜夜の半沢直樹枠でOAしてもそんなに違和感ないんじゃ、みたいな感想だったここまでから一転、これは東海テレビ製作の昼ドラ
ナイジェリアピジンと正調英語と(たとえば)ヨルバ語の間を話者が自由に移動する頃合いは、なんとなく分かる気がするんですけど、いまだまったく分からないのが音楽の使い方です。なにしろ英語でない曲の歌詞にはテロップが出ないので、物語に連動しているのか、いや、してるにせよしてないにせよ、もうちょっとテンポよく使えや。みたいな感想。
50歳という年齢のヒロイン4人を描いた作品ですが、もっと高齢扱いなのかと思いきや、だいたい日本における50歳と同じ印象で(女性の社会進出については日本のほうがあきらかに後進国なことも分かる)興味は尽きない。

『モカリック 修理工とボクの1日(2019)

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全編ヨルバ語、かつ多幸感にあふれた作品で、俺たちがイメージする「理想のナイジェリア映画」みが凄い。アート系・ミニシアター系は本分ではなく、ハリウッド大作・頭悪い系にシンパシー覚えがちなタイプなので、お尻がもぞもぞするんですけどね、こりゃ好かれるタイプの映画だわい(語尾)。たとえば『50』(2015)に出てくる、不動産業でバリキャリな50歳女性が働いている会社で唯一頭が上がらないのは亡父の弟ですし、『LIONHEART/ライオンハート』(2018)も、父の会社を受け継ぐ気まんまんのヒロインは父の弟に付いて学べ、って言われたりする。つまり、日本よりよほど女性の社会進出が実現している「近代的な」アフリカにおいて、「前近代的とも思える」血脈主義は変わらず根強く、そうした状況を見て「へえ」って言う。
このプロセスこそがノリウッド映画の見方なのかな、ってなんとなく思いかけていたんですね、この映画を見るまで。
ところが。日本の民放テレビ局のディレクターがそれっぽい作品をって注文したのか、というぐらいそれっぽいアフリカ映画だったんですよ。
映画の舞台のクルマ整備工場集落の、埃っぽさ。朝まだきから黙々と活動しはじめるアフリカ時間。暑くならない朝っぱらからみんな働……くのかと思ったらまずメシ。そしてみんな豆を食ってる。
トランプ政権になって強制帰国させられたから、という謎理由でオバマと呼ばれている登場人物がそうしたメシを食いながら熱弁する、2018FIFAワールドカップ優勝国がフランスだってバカかおまえら、真の優勝国はア・フ・リ・カ。
等々、われわれが期待するシーンやセリフの連続で、それでいて過剰に観光客向けに堕することなく、ああこういうこと、実際にあるんだろうな、って感想をもたらすぐらいには地に足がついていて。ヒロイン役にそこそこの知名度あるシンガーを起用、とか(日本でいうとあいみょん? と調べたら木村カエラのほうが立ち位置的には近そうでした)これ、監督の腕よ。

『北へ(2018)

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ナイジェリアの南北格差が前提にある作品で、なるほど宗教差でもあるのな。あとは……National Youth Service Corpsって主人公が「奉仕活動に従事する」って日本語版ネトフリ解説なんかには書かれているけど、これは徴兵制の無い国における「奉仕」であって(カネとコネさえあれば免除可能、って作中でもほのめかされています)そのあたり、日本人の感覚こそが世界標準では浮世離れしてることに、もうちょっと自覚的になったほうがいいと思いました。

『アービトレーション:交錯する視点』(2016)

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7本目にして主演アデスワ・エトミを見ること実に4度目。それは業界の狭さを示しているのでは。とか、ネトフリが配信権を買えた制作会社が偏ってるのでは。とか、つい語り出したくなる俺よ俺よ落ち着けよ、おまえはまだ7本しか見ていないのだ。
映画冒頭から、この物語には3つの視点がある「あなたの視点」「私の視点」そして「真実」……って提示されて、おい。ってなるんですけど、つまり『羅生門』(1950)的な世界観を根本では理解していないってことでは。と思いかけ、いや待てナイジェリアで映画を見る層は、いまのところこういう表現でないと伝わらないってことかも? など、即断しかける俺vsたしなめる俺の戦いで忙しい思いをさせられました。
電子マネーがべらぼうに普及するアフリカ社会ならではの設定とか、相変わらず個人的に楽しめる要素はあったのでよかったです(アフレコで載せた音があきらかにズレてるよ、とかはさすがに苦笑したんですが)。

『ラゴスの富豪たち』(2019)

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邦題がもたらす富豪たちのパーリーピーポー側面を紹介するんでしょ、って印象はさすがにちょっと気の毒で、ちゃんと「名家の栄光と衰退」モノとしての体裁は整っていました。
作中にノリウッドというセリフが出てきたのはたぶんナイジェリア映画鑑賞通算8本目にして初だったのですが、そもそもこの作品現地の映画業界内側見せます要素がけっこうあって、街頭で食い入るようにブラウン管(!)を見るひとたちを指して「彼らに見てもらえるような映画を作りたいんだ」シーンとか、ほかの作品には無いカラー。たしかにナイジェリア映画を何本か見たあとに見てちょうどいい感じなんですけど、アフリカ映画偏差値の低い俺たちをソソる要素はいっぱいありました。

『ウェディング・パーティー2』(2017)

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パート1初見時に気付かなかった、このシリーズの持つオールスター・キャスト感を理解できたので「とりあえず10本見てから知ったかぶりしよう」企画、我ながら悪くない。
とにかくパート1最大の謎だった、なぜアングロサクソンが新婦友人に混ざっているのか、人口比で1%も居住してないのに? というのは、たまたま当該キャラを演じた女優を出演させたかったから。みたいな無理やりな納得の仕方をしていたのですが(ナイジェリア系英国人監督作品に主演したことがきっかけだった模様)、続編制作にあたってその無理すじを放置せず主題に据えたところが出色。
異民族間の確執はパート1でもイボvsヨルバ構図があったわけですが、今回はナイジェリアvs英国。なあなあで済ます気が最初からない脚本スタンスの良さよ。そして、そのことが作品トータルの質を保証するものではまったくないあたり以下略。
異見をカゲで言うのではなく面と向かって叩きつける、悪感情が発生したら声に出して謝る、みたいなシーンが何度となく繰り返されて、おお、こういうのが苦手な日本人(と、あえてひとくくりにしますけど)の私にはとても楽しめる作品でした。

『イソケンと2人の王子様』(2017)

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待ってくれナイジェリア映画とりあえず10本見てからなんか言おう企画のまさに10本目ですけど、チャドウィック・ボーズマンの訃報を知った以上こんなことしてる場合かよ感があった俺の躊躇を吹き飛ばす快作な気がするのはもしかして: 9本見た結果、ナイジェリア映画の平均値を低めに見積もったせい。
オインボすなわちナイジェリア社会における白人への複雑な感情に正面からぶつかっていること、われわれの社会にも無縁ではない「34歳独身女性の立場」を全編通じて描いていること、エスタブリッシュメントの結婚を描いた従来ヒット作へのアンチテーゼになっていること、など、個人的にはたった10本見ただけで知ったかぶろうとするんじゃないよアラートとして確かに承りました。監督脚本をひとりで手掛けているジャデソラ・オシベルって固有名詞は覚えておいて損はないな。

まとめ/おまけ

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ナイジェリア国内での興行成績をリストにしたページがwikipediaにあるので今回見た10本を抽出して、日本円に換算したのが上の表です。製作会社あるいは監督の固有名詞が重複しがちな雰囲気、なんとなく伝わりますかね?
いわゆる大手製作スタジオじゃない作品が『イソケン』『モカリック』『ライオンハート』の3本で、見た人だけには伝わる「あーたしかに」(=ほかの作品群が持つメジャー感が薄い)。
なので、強いて言えばノリウッド王道を知りたければEbony FilmsあるいはFilmOne製を選べばいいし、そうでなく、「普通の映画」として試しに、ぐらいなら『イソケン』(恋愛)『モカリック』(日常)『ライオンハート』(ビジネス)あたりからのピックアップがおすすめ、ですかね。

※記事ヘッダ画像はネットフリックスナイジェリアの公式ツイートから。ネトフリがノリウッド作品の本格配信を始めたのって2020年になってからなんですね。


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