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O・ヘンリー「20年後」を読む ②読解編

読後感


(生涯学習センターの受講者)

この話、唐突に終わりますよね。高校生の時、英語の授業で読んだことがありましたけど、消化不良でした。


(生涯学習センターの講師)

う~ん、たしかに唐突な終わり方ですね。というのはただ、これも、余韻が残るように、一番いいシーンで終わらせたとみるのがいいのかもしれません。和歌の世界でいう「幽玄様」の世界ですね。

余韻が残る文章・・・?

読解のポイント(1)


さっそく読解のポイント(1)からみていきましょうか。
(1)ジミーの職業は何でしたでしょうか? 

警邏課っていうんでしょうか。パトロールをするお巡りさんですよね。ウェルズ巡査って呼ばれていました。 

その通りです。警察官になっていましたね。

読解のポイント(2)

それでは、読解のポイント(2)ボブは、ふだん何をして生計を立てていますか? ちなみに、「シルキー」というのは、「絹のような」ということで、「口が達者な」といった意味ですね。

犯罪者ですよね。詐欺とか、窃盗とかをして生活していたように思います。

そうですね! もうこの時点で、警察官と犯罪者がセットになっていますね。これが互いに信頼し合う幼馴染なわけですから、なにもない訳がない。そういう構図ですね。

読解のポイント(3)

読解のポイント(3)に行きましょう。
ボブは、どんな場所でジミーを待っていましたか?

雨風の中、暗い街角の、閉まった金物屋の入口の前でした。ボブ、着いたときは呆然としたでしょうね。

そうですね。よく待ち続けましたよね。

私なら帰ります(笑)でも、そこまでして会いたかったんでしょうね。男の友情って、そういうものなんでしょうか?

男の友情だけでは説明できないでしょうね(笑)。ボブは、この機会を逃すと、なにかができなくなってしまうと思うんですよね。

あぁ、ジミーと再会する最後のチャンスだったから、ということですか?犯罪に手を染めて以来、もう連絡も取れなくなってしまった大親友に、一生に一度、また確実に会うことができるチャンス。

そうです、そうです。それが、この日だったわけです。

そう考えると、ボブには待つ理由があったということなんですね。まともな世界にいて、心を開いて話すことができる相手って、いまのボブの周りにはいなさそうですねぇ・・・

そうです。ボブの側に、待つ理由があることがよく分かりますね。

読解のポイント(4)

それでは、読解のポイント(4)を考えてみましょうか? 
ジミーとボブは、約束を果たすことができたと言えるでしょうか?

たしかに、「できた」とも「できない」とも言えますね。面と向き合って話をすることはできていますし。でも、ここ20年間の思い出を話し合って団欒することはできていませんし。 

その通りですね。すこし残念な感じなっていますよね。ただ、ボブがジミーのことを本当に信頼しているということは、ジミーも深く理解できたので、そこはよかったですね。

読解のポイント(5)

では、20年前はどんな会話をしていたのでしょうか? 
読解のポイント(5)です。

20年前は、ボブがニューヨークを発つ前夜ですよね。ジミーがニューヨークから離れようとしないというのは、書いてありました。なので、「一緒に西部に行こうぜ」とボブがジミーを誘ったかも知れません。それと、20年後に再開する約束だと思います。ボブは、「どんな境遇であろうと、どんな遠くに住んでいようと、この日、この時間からぴったり二〇年後に、ここで再会しよう」って言っていましたね。

素晴らしい!2人だけの送別会・壮行会ですので、ボブは西部での活躍、財産づくりといった夢を、ジミーはニューヨークを出たくない理由などを話したんでしょう。そして、二〇年後に、互いの成長ぶりを見せあおう、それを励みに日々頑張っていこうと激励しあったんでしょうね。

あと、細かいことですが、連絡を取り合う約束はしたと思いますか?

あー、そうですね。ジミーがボブに友達からの連絡について確認していましたので・・・約束はしていた、と思います。 

そうですね。そうすると、一、二年で連絡がとれなくなったのは、何故でしょうね?

ジミーの方が気にかけていますから、ボブの方に問題が生じたのでしょうね。ボブはどこかで犯罪にはじめて手を染めたのでしょうから、ちょうど、このタイミングだったのでしょうか・・・

私もそう思います。いい悪いではなくて、なんらかの事情で、ボブが犯罪に手を染めてしまったタイミングで、いままでの連絡先が使えなくなったということでしょうね。

読解のポイント(6)

では、読解のポイント(6)です。ジミーは、どのような服装で約束の場所に向かいましたか? それは何故でしょうか?

服装は、もう、警察官の制服ですよね。その理由ですか・・・?

20年前の約束に照らすとどうでしょう?

ボブに、自分の成長ぶりを見せるため、ですか・・・

ある意味で、それはあるでしょう。義理堅い方(かた)ですし。

いや。でも、友達と会うのに、仕事をちょっと抜け出してくるって、失礼じゃないですか? 

失礼ですよ。もちろんです。「自分の成長ぶりを親友に見せる」「その親友は、シカゴ警察から指名手配されている」という情報はすでに分かっていますよね。そうすると?

自分の手で逮捕するため、ですね。

その通りです。逆に考えてみましょう。指名手配中の犯罪者と警察官が、私服でプライベートで話をしている姿を第三者に見られたら、どう思われるでしょうか?

ジミー自身が、犯罪者とこっそりつながっている警察官だと誤解されると思います。・・・あぁ、それで、制服以外の服装では現地に行けなかったんですね。 

そうです、そうです。それに、正に小説の中で起きたように、制服を着ている警察官をボブはジミーとは思いませんでしたよね。ボブがジミーをジミーだと見抜くまでの間に、ボブの本音を聞き出せましたね。

本音っていうのは、自分たちが親友だってことですか?

それもあります。他にも考えられますね。ボブがジミーに心から会いたがっていること、ボブの本性が昔とまったく変わっていないこと、ボブは警察官をみても逃げ出したりせず紳士的に対応する人物であること。こういったことも確認できたのではないでしょうか?

それはそうですね。それがどうしたんですか?

読解のポイント(7)

その前に、読解のポイント(7)に行きましょう。ボブが逮捕されることをジミーは望んでいましたか? それは何故ですか?

望んでいた、と思います。自分で逮捕しようとしているくらいですから。その理由・・・ですよね。う~ん、逮捕すればいいことがある、ということですよね? 

はい。逮捕は、ジミーの贖罪と更生のチャンスだから、と言えませんか?ジミーとしては、逮捕され、裁判を受け、服役することで、そのあとはもう、無理をせずとも、昼間から堂々と街を歩くことができるはず、と考えたのではないでしょうか?
ボブはいま、お金だけはたくさん持っているかも知れませんが、「青白く、ほほのこけた顔、鋭い目付き」という顔つきなんですよね?若いころの屈託のない笑顔とはほど遠い顔つきということではないでしょうか?

右眉の近くに、小さな白い傷跡があるって書いてありました。それって、切り付けられた傷ってことですよね? 白い傷跡って、深い傷とかで炎症が長引いた時につくものですね。 

そうです、そうです。ジミーにしてみると、警察官の姿をみてボブが逃げ出すようなら自分でも逮捕できると思ったんでしょう。しかし、現場に行ってみると、心は昔のボブがいて、警察官を怖がっていない。それだけじゃなくて、ボブが本当にいい奴に戻っていたので、逮捕できなかったのでしょう。

でも、いま逮捕しないと、ボブは去ってしまいますよね。性格のいい親友が、すさんだ生活をしなければならない状況に戻っていくのは、本当に嫌ですよね。

嫌ですよねぇ。

読解のポイント(8)

そこで最後の読解のポイント(8)です。ボブが逮捕された後、ジミーはどういった行動に出ると思いますか?

先生の言いたいこと、分かりました。ジミーはボブの後見人となり、ボブの更生を見守る、と私も信じたいです。
ボブにも、このジミーの決意は最後の手紙で伝わっていてほしいです。ボブの手が最後震えていたのも、心の底では、「ジミーに会えて、もうこの生活から抜け出せる」と、ホッとしたから、という解釈もできるのじゃないでしょうか?

いいですね!私も大賛成です。

いま、三八歳と四〇歳ですよね。まだまだ人生を充分やり直せそうですね。
 

そうですね。裁判や服役が終わって、模範囚として出獄して・・・ それでも数年はかかるでしょう。ジミーがボブの後見人になるのであれば、早く逮捕して、裁判にかけた方がいいのでしょうね。

読み終えて

ジミーが制服を着て警察官として動いていたので、すっかり騙されていました。高校生の時は、ジミーの担う「建前」の世界が大きすぎて、「本音」の世界まで行きつかなかったんだなぁ。 

分かります。建前が大きければ大きいほど、本音は見えづらくなりますね。それでも、建前の隙間から本音は漏れ伝わってくるんですよね。ただ、それを受け手がキャッチできないことが多い。ここに人間模様が現れ出るんですよねぇ・・・

この「20年後」のように、建前の隙間から本音が見えてくるような話って、泣けますよね。いろいろ読みたくなってきました。

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