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『リスクを生きる』を手がかりに。人も木も一緒、と感じた編

人間の医学・医療の本を読んだりしていると、ああ、これは人も木もおんなじだ、と思う、共感することは少なからずあります。

同じ生き物だから、当然といえばそうかもしれませんが。

本書のあとがきで、内田先生はこう述べられています。

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コロナ・パンデミックの意味するところは、できるだけ多くの立場の人が、できるだけ多様な視点から行った方がいい、と考えている。

その方が起きていることを「立体視」できるから。
本書もそのような「多様な視点」を示すための一つの試み。決して、単一の「正解」を示そうとするものではない、と。

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その後に、こうもあります。

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カミュの『ペスト』で、診断がなかなか確定せず、重大な決断(ロックダウン)を逡巡してペストの宣告を先延ばしにしているとき、リウーは「これは名前の問題でなく、時間の問題なのだ」といいます。
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これが医療の本質をついた言葉と、コロナ・パンデミックを経験するまで気づかなかった。

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また、リウーはこうも言います。

病名が確定していなくても、感染症である限り、罹患するもの、死ぬものを減らすために、経験的に有効な方法はある。
だとしたら、病名の確定よりも「先」に、防疫対策をとるべき。

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ウイルスについては、正体も挙動もわからない。それでも、経験的にわかること、実践的にできることはある。

限定的な知識、限定的な能力であっても、できることはある。あれば、それをやる。

岩田先生亜は、「医者は往生際が悪い」と言っていたけど、最後の最後まで、ある限りの医療資源を投じ続ける。その「往生際の悪さ」が累積して、医学の進歩を推し進めてきたと思う。

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私たちのような樹木医が、調子の悪くなった木を診て、何が原因かな?と考えるとき、不調になった原因が一つであることは、まれです。

多くの場合は、最初に何か、いやなこと、困ることがあり、そうこうしているうちに、弱り目に祟り目で、次々と別の問題に見舞われる…

別のパターンでは、何が原因で不調なのか、よくわからない(さっぱりわからない!)ということもあります。

でも、そこで終わらないのです。

生き物は、自分である程度のトラブルには対処できる力を持っているので、それを発揮するのを妨げている要因を取り除く、軽減する。

それを確実にしてあげられれば、「おおっ!そこまで!」という回復を見せてくれることは、少なくなかったです。

要は、生き物が健全でいる、病気に苦しまない、死なないですむ、ことを考えるとき、基本的に守るべきルールがあります。

そこからずれているから不調に苦しんでいるのだから、原因究明はさておき、相手をラクにするために、できることはある。


それが、本書の言う、限定的な知識や理解でも、やれることがあるなら、それをやっていく、ということなのでは、と思いました。

たとえば、木の場合の基本ルールにあたるのは、多くの枝葉量を保ち、十分に光合成する。そのためにも、土壌中に必要なだけの養水分が含まれていて、しかも、木が吸収できる状態にあること。


だから、不調の原因を探ると、やはりというのか、剪定や土壌条件に関する問題が多く、まずそこを改善するのが効果的なことが多いです。

健全さを保つこと、病気を避けること。これは、時代が変わっても、生物の種類が変わっても、共通することが多い、と本書は改めて思わせてくれました。




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