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【ハードボイルド】カレン The Ice Black Queen 第七話

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ストーカー男の証言

 病院へ着くなり、疲れ切った顔の警官に誘導され、エントランスの前で睨みをきかせている警部補の元へ連れて行かれた。俺の顔を見た警部補は「来てくれ」と一言。先に立って病院の中へ入って行く。

「カレンに何かあったのか」
「女は無事さ。あんたに電話する少し前だ。病院の裏手で倒れている男を発見した」
「ん?男だと?」
「ああそうだ」

 彼女が無事と聞いてほっとした。制服の背中に質問をぶつける。

「死んだのか」
「腕と足の骨を折られて重傷だが生きている。今、治療を受けている」
「誰なんだ」
「所持していた身分証にはミック・エドワードとあった。知っているか?」
「いや」

 知らないと言いかけてから、どこかで聞いた名前だと思った。確かそいつは…。。

「職業はチェス・プレイヤー。プロの棋士だ。あの女の同業者だな」
「思い出したよ。ミック・エドワードは半年前のタイトル戦でカレンに大敗している。みっともない負け方だったから、ちょっとした話題になった」
「不名誉な理由で話題になったものだな」
「ああ、そうだな」

 女に負けたのがよほど腹に据えかねたのだろう。試合終了直後にカレンを口汚なく罵るミックの姿が、マスコミのカメラによって世間へ流れた。ミックはチェス連盟より警告を受け、三ヶ月間の公式トーナメントへの出場停止処分を食らった。上昇中のエレベーターの中でそれらのいきさつを警部補へ伝える。太った警官は考える顔になった。

「徹夜か。警部」
「仮眠を取ったよ。なんだ、俺の心配をしてくれるのか」
「まさか」
「ふん」

 エレベーターを降り、廊下を歩く。横に背の高い警官が立っているドアを開ける。二人用の病室だ。中に入ると包帯だらけの男がベッドに横たわっていた。もう一つのベッドは空だった。

「どうだ。昨日、あんたを襲った二人組にこの男はいたか」
「あ、ああ。それで俺をわざわざ呼んだのか」
「そうだ。で、どうなんだ」

 包帯男は怯えた目でこちらを見ている。顔は殴られなかったらしい。

 ミック・エドワードの顔は、会ったことはないが知っている。カレンと対戦するほどのトップ・プレイヤーなのだ。知っているが好かない顔だった。

「違うよ警部。彼じゃない」
「うん」

 俺の返事は予想していたのだろう。警部補は頷いただけだった。包帯男に向き直る。

「エドワードさん。話してくれる気になりましたか」
「弁護士を呼んでくれ」
「誰にやられたんです」
「…」
「質問を変えましょう。なぜあの場所にいたのですか」
「弁護士を」
「あなたはカレン・S・バラックを殺そうと思ってここへやって来た。違いますか」

 それまで「弁護士を」しか言わなかった男が殴られたような顔になった。「違う」と叫ぶ。ここぞとばかりに警部補が容赦なく畳み掛ける。

「あなたは前々からバラックさんを恨んでいた。彼女のせいでチェスの試合にも出場できなくなった。だから…」
「僕が守ってあげようと思った」
「…は?」
「彼女の命が危ない。僕が守ってあげないと」
「エドワードさん。何をおっしゃっているのです」
「彼女を愛している」

 さすがのベテラン警官もそこで絶句した。俺も同じだ。本気で言っているのか?しかし、ネズミに似たミックの顔は嘘をついているようには見えない。

 ふと、思いついたことがあった。苦虫を噛み潰したような顔で包帯男を睨んでいる警部補へ許可を得てから、俺は口を開いた。

「エドワードさん。あなたは"彼女の命が危ない"と言った。誰がカレンを狙っているのかご存知なのですか」
「若い女です。ティーンエイジャーの女の子。しばらく前から彼女に付き纏っているのです。そいつに違いない」
「若い女?」
「ええそうです。僕をこんな風にしたのもその女です。髪型は…」

 ミックはペラペラと喋り出した。彼が説明した犯人の特徴は、昨日、暴漢に襲われた俺を助けてくれて、親切にも救急車を呼んでくれた女の子にそっくりだった。


(続く)

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