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【こんな映画でした】714.[カフェ・ブダペスト]

2020年11月17日 (火曜) [カフェ・ブダペスト](1995年 BOLSHE VITA ハンガリー 102分)

 まず監督のフェケテ・イボヤは女性であった。相当シリアスな内容だけに、てっきり男性監督かと思い込んでいた。そのような目で見れば、女性監督らしい演出があったのかな、とも思う。

 主役は歌手のユーリー・フォミチェフ、本名でほぼ自分自身を演じているようだ。その妻となる英国人(マギー)は女優ヘレン・バクセンデイル、撮影当時24歳くらいか。舞台はまさにハンガリーの首都ブダペストであり、時代は1989年から5年間くらい。

 当時はまだソ連崩壊寸前で、そこから脱出(放浪?)してきた二人の若者を中心に描かれる。ドキュメンタリータッチとも言えようか。西側諸国へ行きたいということで、まずはユーゴスラビアを目指すが、その入国には一人200ドルを要求され、断念する二人だった。

 そこからブダペストでの彼らの自由な(?)生活が始まる。場末の下宿屋に寝泊まりし、そこで知り合ったマギーたちの部屋へ転がり込む。酒場や路上で唄とサックス演奏で小銭を稼ぎ、その日暮らしをしていく。

 道路の高架下のようなところで、人々が持ち寄った商品を売るバザールのような場所が活況を呈している。しかしいずれそこにも暴力で縄張りとする連中があらわれ、その活況も危うくなっていく。酒場の方はついに乗っ取られている。

 そんな中での5.6人ほどの登場人物が、その混沌としたブダペストで生きていく。下宿屋を経営する女性エルジは、このような混沌が好きだと言う。(私など混沌とした時代には、つくづく生きていけないと思い知らされる。所詮は暴力支配であり、金とコネと要領が良くなくては生きていけない。)*
 最終的にロシアへ帰る人・殺されてしまう人・イギリスへ行く人、そしてブダペストに残る人とそれぞれの人生模様が最後に触れられて映画は終わる。なお当時の記録映像がいくつも挟み込まれているのだが、私にはそれがいつの何かが分からない。一つは1956年のソ連の介入とのことであったが。

 それにしてもショッキングな映画であった。私が40歳前後をこの日本社会で平和裡に生きていた頃、東欧では人びとがこのように苦悩していたとは。特に作中、ユーゴスラビアは自由もなく、酷い状況だと言わせている。

 近現代の歴史は、もろに残酷なものだ。その象徴としてか、デモをしていた人であろう、頭を吹き飛ばされた遺体をトラックに運び入れる様子の映像が一瞬映し出された。

 二人の若者の音楽の演奏が、作中何回も挿入され、それでちょっとホッとさせる効果もあるようだ。全体的には緊張感の漲るハードな映画であった。二度目を観ることはなかなかないだろう。DVDで所有は続けても。

 なおこの映画は『続 ヨーロッパを知る50の映画』(狩野良規 国書刊行会 2014年)で紹介されていたもの。

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