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【こんな映画でした】455.[シテール島への船出]

2022年10月 4日 (火曜) [シテール島への船出](1983年 TAXIDI STA KITHIRA VOYAGE TO CYTHEREA ギリシャ/イタリア 134分)

 テオ・アンゲロプロス監督作品。ようやく中古を入手して観ることに。辻邦生も『私の映画手帖』(1988年)の中で一章を割いて紹介している。

 父・夫スピロ役はマノス・カトラキス(撮影当時75歳、映画の翌1984年に亡くなっている)、母・妻カテリーナ役ドーラ・バラナキ(生年などのデータなし)。全編の狂言回しとなるのは、彼らの息子で映画監督のアレクサンドロスで、ジュリオ・ブロージ(撮影当時52歳)が。すべて初めて観る俳優たちである。

 オープニングのテロップからして、まず分からない。そしてオープニングシーンも説明的ではなく、これは一体何なのだろうと思わせられる。「スピロ」と「アレクサンドロス」という二つの男の子の名前が出てくるのもややこしい。いずれ分かっていくのではあるが。

 そしてこの映画は、劇中劇のようなことになるのかなとも思わせられた。結局、それは違っていて要するにアレクサンドロスが「監督」で、その仕事を始めの方で紹介してあるようだ。その妻と息子(これがスピロ)、そしてアレクサンドロスの愛人も。

 あとで分かってきたのだが、オープニングシーンで子どものスピロがドイツ兵にイタズラをして逃げていく映像が映し出される。すぐには分からなかったが、これは父親の方のスピロの子ども時代のエピソードのようなのだ。それがいずれ大人になりレジスタンスになる、ということだ。

 これが言うなれば前座で、本題は長らくロシア(ウクライナという掲示物が乗船してきた船にあった)にいた父親スピロ(アレクサンドロスは自分の息子に父親の名前を付けていることがこれで分かる)が戻ってくる。といっても後で分かることだが、これは彼にすれば「滞在許可」であった。つまり父親スピロはロシア(当時はソ連か)に亡命したために、ギリシア国籍を有さないということが分かってくる。そのため最終的には、「治安」上の理由で国外退去ということになるわけだ。

 父親スピロがどうしてギリシアに戻ってきたのか。しかも後で出てくるが、ロシアには妻と三人の子どもがいる、と言っている。それでも元の妻と言うべきかカテリーナとは、音信もあり、そのせいで今回戻ってきた(やって来た)ということになるようだ。その目的は彼とその妻が住んでいた山の土地を村人全員の合意の上で、スキー場経営会社に売り渡そうということであった。全員の署名が必要だが、カテリーナは夫が帰るまで待って欲しいと主張していたようだ。

 そして彼・スピロは戻ってきたが、その日のうちにカテリーナと行き違いがあり(中味は紹介されないが、おそらく土地を売る売らないで意見が分かれたのだろう)、家には泊まらずにホテルへ行ってしまう。そしていよいよ村人たちによる売買契約の署名の日、スピロはそれをただ一人拒絶する。契約は成立しないことになり、村人たちが怒って彼の家へやって来る。ある村人は言う。おまえはもう死んでいるんだ、と。(国家によって)四回死刑宣告がなされている、と。

 つまり革命の際に活動家(レジスタンス)であった彼はついにギリシアにいられなくなり亡命したということが分かってくる。そしてその逃げた夫の代わりにカテリーナが入獄したと娘に言わせている。そのような艱難辛苦とともに夫を32年間待っていたということが分かる。

 しかし夫スピロにはロシアに残してきた妻子のことがあり、動揺することに。最終的にスピロとカテリーナは行動をともにすることにはなるのだが、つまりスピロが乗っていた艀船にカテリーナも乗せてもらうことに。翌朝、スピロはその艀船の錘のロープを外す。艀船はゆったりと画面向こうへと流れていき、映画は終わる。もちろんその先のことは誰にも分からない。

 なおこのDVDではエンドロールはなかった。もともとなかったのかもしれない。艀船の上の二人が最初は陸地の方を見ていたのが、やや遠ざかると向きを変え陸地とは反対の方に向き直って、二人の姿がどんどん小さくなって、サドンデスということに。

 やはりと言うべきか、重い内容であった。戦争による占領、レジスタンス、政治状況の変化、社会・経済状況の変化、村人達の私欲、自分の故郷の土地への固執、役人の無責任、等々。このような様々なアイテムが重なり合って、人の人生というものは流れ・流されていくものなのだろう。一つ象徴的な言葉はスピロの言葉「リンゴが腐った」というもの。リンゴとは人々のことであり、人々の精神のことであろう。

 なお原題の「シテール島」というのは、言うなれば一種の桃源郷なのだろう。そして究極的には、人は死んで初めてそこに到達できるものなのかもしれない。

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