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【こんな映画でした】786.[アンナと王様]

2022年 5月10日 (火曜) [アンナと王様](1999年 ANNA AND THE KING アメリカ 147分)

 アンディ・テナント監督作品。初めて。ジョディ・フォスター(撮影当時36歳)とチョウ・ユンファ(撮影当時44歳、[チルドレン・オブ・ホァンシー 遥かなる希望の道](2008)を最近観たばかり)。

 長いし、内容も内容だけに、観るのに苦労することとなった。もちろんジョディ・フォスターは見事で申し分ない。要するに政治というか、もっとはっきり言うとイギリスによる侵略の魔手がひたひたと迫ってきている状況を描く内容だからしんどい。テロップで「1862年バンコク」と出てくる。

 お隣ビルマはすでにイギリスの支配下にあり、イギリスの教唆でタイへ侵入してくるわけだ。アンナがイギリス人ブラッドリー卿とやり合うところは凄いものがある。大英帝国の利益のためには、その地域の人々のことなど何とも思わないという侵略思想が露骨である。嫌な映画だ。いや、そうではなくイギリスのやり方が嫌なのだ。

 この映画を観てもイギリスという国は歴史始まって以来、一貫して侵略することでその栄華を誇ってきたことがわかる。唾棄すべき国家であり、人種である。と、言いかけたがそうではなく、イギリスの支配層がそうなのであって、一般民衆はそこまでひどくはないだろう。まして民主主義の時代でなければ、一般大衆に責任を問うことはできないだろう。

 さて史実としては、まず「王様」は「モンクット王」で「チャクリー朝第4代の王(在位1851~68)、ラーマ4世」という人物のようだ。マラリアで亡くなっている。イギリスなどと不平等条約(1855年)を結んでいるが、それによって国を繁栄させることを意図したようだ。またキリスト教布教を承認し、外国人顧問を招聘し、王族の子どもたちに教育をさせているとのこと。少なくともこの一人がアンナということだろう(実際に何人いたのかは分からないが)。ラーマ5世は、その後を継いで1910年まで在位している。映画でも出て来た皇太子であろう。

 メイキングによると、国王とアンナが踊るシーンで、「当時の人々にとってはダンスはセックスと同じ」と監督が言っていた。ベルトリッチの[暗殺の森]の踊るシーンの時に、踊りというのはセックスの代替物というか、セックスのようなものなのだと読んだ記憶がある。確かに美しいダンスシーンはセクシャルである。

 さらにこの監督はイギリスについて、「イギリスという国は、相手を刺激しておいて、自分は手を汚さず、事の起きるのを待つ。それが彼らが東南アジアにした事だ。自分では何もしない。日和見主義だ」と強く指弾している。

 このあたりを本編から引用すると。
(アンナ)国王の弟君とアラク将軍が犠牲に....これは売られた戦いです。
(ブラッドリー卿)それで私にどうしろと?
(アンナ)英国が背後で糸を?
(商人)女教師が政治に口をはさむことはなかろう(It's obvious you know nothing about politics.)
(アンナ)後ろ盾なしにビルマは動きません(Burma would not make a move without England's blessing. That I know.)
(ブラッドリー卿)いかにも、だが我々が庇護する国が危機に見舞われてたら、我々は自国の利益を守る(Precisely. But if this crisis isn't resolved soon and a country under our protection is threatened ,we will have no choice but to defend our interests.)
(アンナ)庇護する? 自国の利益?(Our protection? Our interests?)
(ブラッドリー夫人)英国のやり方が世界に通用するのよ(The ways of England are the ways of the world, my dear.)
(アンナ)自分勝手なやり方ですわ。私は恥に思います!(They are the ways of one world, Lady Bradly. One I am ashamed to call my own.)
(ブラッドリー卿)言葉を慎め。失礼するよ(You forget yourself, madam. Now if you'll excuse us.)
(アンナ)まだです。あなたは盃を上げた。夜会で国王を賛(たた)えながら、国を盗もうとしていたのね?(No, I will not. You raised your glass to him! You commended him for his vision. And all the while you were waiting to take his country from him.)
(ブラッドリー卿)大英帝国の政策はあなたには無関係だ
(アンナ)私は確か英国国民のはずですけど
(ブラッドリー卿)王と頬を寄せ合う時に、それを忘れるな
【最後は極めて侮辱的な言辞を弄している。彼らの本質であろう。】

 また監督は、タイの歴史について「タイの歴史は暴力に満ち、支配権の奪い合いの連続だった。1年おきに内戦が起きてる。100年間に実に55回もの内戦だ。その原因は大抵、ビルマかカンボジアだ。どっちの国もタイを欲しがっている。東南アジアの穀倉地帯なんだ。ビルマには農地が必要なんだ。だから、タイを侵略しては、人民を拉致して国に連れ帰り、王宮建設のための奴隷にした。家族と一緒に農作業をしていたタイ人たちが、翌日にはカンボジアのために強制労働させられてたんだ」とも述べている。

 映画そのものについては、監督は「 "愛に生きるための苦しみ" 、この一言のセリフのために、この映画を撮ったんだ」と。


2022年 5月13日 (金曜) [アンナと王様](1999年 ANNA AND THE KING アメリカ 147分)音声解説版

 アンディ・テナント監督による音声解説版を観る。撮影の裏話・苦労話、等々。俳優のこととかも。例えばジョディ・フォスターが転んで撮り直したシーンとか、肋骨を折ってしまったこととか。

 タイでは前作ユル・ブリンナーの[王様と私]も、今作もいずれも上映禁止なのだそうだ。もっとも今作はタイの王族には観せて好評だったとか。そしてタイ国内でもブラックマーケットでは流通している、と。

 製作には一年半掛かったとのことだが、何と撮影は本国タイでは許されず、マレーシアで行ったとのこと。宗教的に違うし大変だったようだ。イスラム教では女性の裸のシーンを撮ろうとしたら、関係者全員が逮捕されるのだ、とも。だから着衣で水浴のシーンを撮影したようだ。

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