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【こんな映画でした】832.[居酒屋]

2023年 1月24日 (火曜) [居酒屋](1956年 GERVAISE フランス 117分)

 ルネ・クレマン監督作品。原題は女性主人公の名前「ジェルヴェーゼ」、ドイツ人女優マリア・シェル(撮影当時29歳)が演じる。見事なものだ。彼女を最初に観たのは1957年のルキノ・ヴィスコンティ監督作品[白夜]で。

 薄幸の女性を、とことん追い詰めるような映画であった。もちろん原作はエミール・ゾラの小説『居酒屋』。そしてラテン系の男というのは、本当に怠け者というか、働かないとつくづく思わせられる。人生を楽しんでいるというべきかもしれないが、それは妻子や家族の犠牲の上に成り立っているようだ。

 プレイボーイのランチエ(アルマン・メストラル、撮影当時38歳)のような不実な男に惚れてしまうジェルヴェーゼという女性も、どうしようもないのであるが。そしてその後に現れた誠実そうな屋根葺き職人のクポー(フランソワ・ペリエ、撮影当時36歳、[北ホテル]・[オルフェ]・[カビリアの夜]・[Z]などを観ている)は、怪我をして働けなくなった途端、豹変する。つまりやはり不実な飲んだくれになり果て、ジェルヴェーゼの苦労を台無しにしていく。

 本人の責任なのかどうなのか。いや、人間というものは、そういうものなのだろう。そう思うしかない。分かっていても理屈通りにはいかないということだ。なおラストシーンは、居酒屋で飲んだくれているジェルヴェーゼを娘ナナがじっと見つめ、諦めたようにそこから出ていく。その胸には先ほどもらったばかりのリボンを付けて、男友達の中に混じっていく。

 ジェルヴェーゼはその後どうなるか。何の救いもないようにも思えるが、敢えて考えれば娘ナナの姿に象徴される何かがあるのかもしれない。また出稼ぎに出かけている息子エチエンヌと友人クジェ(ジャック・アルダン、撮影当時30歳、観たことのある気がしたが、たしかに[ローラ]・[かくも長き不在]で観ていた)が、ジェルヴェーゼの住む町に戻ってきて何とかなるのかもしれない。私はそう思いたい。

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