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【アニメ産業調べ物3】人材不足 -二十年~三十年後に、日本のアニメ業界は崩壊する-

どうも、キシバです。
アニメ産業調べ物シリーズ、今回は人材不足の現状と要因について。

1.不足している人材



・(アニメ制作を行う)クリエイター人材
・(アニメ製作を行う)経営的人材


の、二種類です。

アニメ産業における「制作」と「製作」の違いはこのようなもので、実際にクリエイターとしてアニメを作るのが「制作」、企画や販売などアニメを作るための舞台を整えるのが「製作」の仕事になります。

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そして現状足りない人材は、この双方。
言うまでもなくどちらが欠けてもダメなのですが、「経営的人材の不足によって、クリエイター人材も枯渇しつつある」というのがアニメ業界の現状と言えます。

一言で言ってしまえば、『経営が困難で、労働環境も収益も上がらず、アニメーターがめっちゃ減ってヤバい』というところ。
もう少し詳しく見ていきましょう。

2.これまでの取り組みと失敗

https://t.co/8C0ws1Rx7m
例えばこちら。前回集めた経産省の『コンテンツ産業の成長戦略に関する研究会報告書』ですが、ここにはまさにクリエイター人材とプロデューサー人材について、本題レベルで記されています。

>>経済産業省では、03年度にコンテンツ・プロデュース機能の基盤強化を図るため「プロデューサーカリキュラム」を取りまとめたところ。


>>「コンテンツ専門業務」について1級試験が開始 される予定である。これは、日本のコンテンツを国際展開できるビジネスプロデューサーの育成を目的として、リスクマネジメント、契約、エンフォースメント、資金調達等の専門スキルの習得度を試験するものとなるとされている。


>>こうした試験は、コンテンツ専門人材の育成や就転職に有用であるのみならず、職種の位置づけを明確化することにもつながる。また、上記カリキュラムは、この試験の有用な基本テキストとしても活用されることが見込まれる。

とのこと。格好良いことが書いてあるというか、色々頑張っているようです。 とはいえしかし、大方の予想通りというか、結果は。

http://cc-ra.jp/wp/wp-content/uploads/2729cfb1bb0f0e9947f9300239a3ff65.pdf

こちらの福原Pのレポートにある通り、

>>2001 年経済産業省のメディアコンテンツ課がブロードバンド時代を担う事業プロデューサーの人材不足と,プロデューサーの育成に焦点を当てた人材教育が行われていないという報告(注 1)をしてから早 15 年.

>>自らアニメ,音楽,テレビの世界でインディペンデントプロデューサーを 務める筆者の体感では先に述べた経済産業省の発案による プロデューサー教育がコンテンツ業界に浸透しているとい う認識は無い.
だそうです。

これはやはり、失敗と言っていい現状でしょう。
では何故、どんな理由で失敗したのか?

そのヒントは同資料の中にありました。

>>しかし、国内のアニメ制作会社では、制作工程の一部の海外への外注等の理由から、OJT による技能習得の機会が減少しており、日本国内でアニメ産業に係る人材が育ちにくくなっているとの懸念がある。

こちらはプロデューサーではなくクリエイターに対する言及ですが。 つまりこれ、「アニメーターが減ってる(技術が低下してる)のは海外への外注で若手へのOJTの機会が減ってるから」と言ってるわけです。

……いやいやっ!?

http://janica.jp/survey/survey2019Report.pdf
詳しくは次の「労働環境・待遇」で触れますが、『アニメーション制作者実態調査2019』にはこんな赤裸々な声があります。

<働き続ける理由>
・何度も生活に困り転職しようとしたが年でひっかかってパートしかできず(後略)
・断り切れなくてズルズルと続けています

<仕事上の問題>
・制作環境の悪化
・(前略)生活する収入が得られない。仕事に追われて学習できていない
・シナリオの内容が良いか悪いか判断できる人間がいない
・動いている作品のカロリー計算と、それを受けるスタッフの数や教育が足りていない
・過労死か餓死の未来しか見えて来ない(後略)

流石に続ける理由の方にはアニメが好きだから系のポジティブな理由も少なからずありましたが、それはそれで悲惨。詳しくはp49,p53をご確認を。
まぁひとえに地獄絵図ですが、要するに環境が酷いわけです。

>>仕事に追われて学習できていない
辺りは重要な示唆ですね。 IT業界でもよくある話ですが、仕事が多すぎる現場に放り込まれると成長はむしろ停滞する。生き抜くのに必死で、雑な仕事を、一番楽な方法で、速くこなすようになるからです。 教育上は最悪に近いわけです。恐ろしいことに。

この現状に対して、「人を増やして技術を身に着けさせるためには、教育制度を作ろう!」っていやおかしいだろう!? とツッコまざるを得ません。 金がねぇのです。 すべての問題はそこに起因しています。

プロデューサー人材についても、これはまったく同じ事が言えます。アニメーターに出す金がないのに、プロデューサーや経営者には多額の報酬が出るのでしょうか? んなわきゃありません。強いて言えばまぁアニメ業界内で比べれば違いはあるにせよ、他業界から見れば安い報酬なのは変わりません。

プロデューサー人材=経営人材は、言わば「稼ぐプロ」です。彼らこそが、クリエイターの能力を収益に変換し、クリエイターが働く環境を整え、給料を払うための売り上げを運んできます。 そんな優秀な人材が、儲からないとわかっている場所に来る理由はありません。

アニメーターは基本的に『アニメ愛』の一本柱モチベで立っている業界ですが、アニメが人生捧げるレベルで好きな人は基本的に絵を描いてみてるでしょう。 なので、アニメ愛だけで業界に飛び込むほどアニメが好きなのに、アニメーターではなく経営人材、というのはクリエイター以上にレアなわけです。

とはいえ。福原Pの『アニメ産業における実践的プロデューサー育成の考察―アニメ専門職業大学構想― 』においても、タイトルの通り「教育」に主眼が置かれています。

>>「クリエイターの特質を生かした作品の創作に関与しつつ,市場の動向を把握し,適切な手段で資金調達を行い,制作後の様々な販路の開拓を行っていく,独立したプロデューサーの役割が期待されるところであるが,

>>実際にはこのような役割を果たすプロデューサーは極めて不足しており,このことは業界全体の大きな課題となっている.アメリカのハリウッドの映画産業においては,映画のプロデューサーが大きな役割を担っており,彼らの活躍により米国にとって映画産業が強力な輸出産業となっている

>>日本においてもブロードバンド時代においては独立したプロデューサーの登場が不可欠である.企画開発,資金調達,マーケティングなどのビジネスモデル構築及び制作プロデュース,プロジェクトマネジメント,流通ルートの開拓,販売・回収ができるビジネスプロデューサーが必要とされている.

というのが「15年前の提言」なわけで、結果的にはそれ以上先に進めたとは言い難い点があると思います。 現状の課題として挙げている中に、「収益の不足」の項目は存在しないからです。 「教育上の課題」として捉える限り、この問題の解決は困難でしょう。

逆に儲かる場所になれば優秀な人材が集まるのか? というと。 当たり前です。古来より「優秀な人材を集めよう!」となったなら「では学校を作ろう!」という風が吹けば桶屋が儲かるな遠回りではなく「高い報酬を出そう!」以外にありません。楽市楽座的に、儲けられる仕組みを作ろう! もアリです。

どちらにせよ「学校を作る」というのは儲かる市場を作った後の話です。儲かる職業がある、じゃあその職業を目指してその学校に行こう、というのが正しい順序。 ロシアの医者は低賃金の被差別職ですが、学校を作って医者のレベルを上げたら勝手に医者の給料は上がるでしょうか? まぁ、ないでしょう。

3.人材不足が引き起こす未来

さて、ここまで「人材不足の理由」について語ってきましたが、もう一つ。「人材不足で何が起きるか?」について。 プロデューサー(経営)人材の不足で起きる結果は、先程まで述べた通り。
労働環境の悪化と、収益の低下です。

では、アニメーター人材の不足という現状は?  何が起きるのでしょう。

https://ddnavi.com/serial/612295/a/
>>アニメーターの人数が減っているというより、作品の数が増えすぎているのが原因の1つかな 。しかも作品数が増えるのと同時に、作品自体に求められるクオリティも格段に上がっている。

>>そのせいで1枚あたりに必要な手間と時間が半端なく増えちゃっている。なのに単価も納期も人員もそんなに変化していないというのが現状なんだ。

など、「要求労働コストの増大」という側面からの指摘。

>>しかも、その人手不足がさらに業界を消耗させる原因を作っているんですよー! 何がやばいかっていうと、「人がいなすぎて人を選べない」!
>>「仕事があり余っているせいで、技術がないアニメーターでも仕事が続いてしまう」

そして、問題なのがここです。 「技術がないアニメーター」。

https://www.afpbb.com/articles/-/3230374

>>原恵一(Keiichi Hara)監督は、日本のアニメ業界最大の問題は若いアニメーターがいないことだと指摘している。

>>渡辺歩(Ayumu Watanabe)監督は、手描きできちんと描けるアニメーターがどんどんいなくなって映像が標準化してしまい、オリジナリティーがなくなってきていると懸念している。

こちらも「若手の不在」「技術のないアニメーター」

『アニメーション制作者実態調査2019』にも、
>>作業者の大半がプロのレベルに達していない
>>各セクションの技術、知識不足
などの報告があります。

さらに、

itmedia.co.jp/business/artic…
>>作品の本数が多すぎて、個々の作品にそこまで感情移入できなくなっているんです。少なくとも私に関してはそうなりつつある。
>>映されるタイトルが多すぎるというよりは、1クールで終わる作品が多すぎるんですね。

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『アニメ愛』一本で持っていた現場の、モチベーションすらも削られつつある。 三十代以下の世代がいない。つまりは、これから二十年~三十年後。「最後の世代」が引退した後に、日本のアニメ産業は崩壊するでしょう。

厳密には、中国や韓国のアニメ作品の下請けが業務の中心になるかもしれません。 Yosterが配給する『アークナイツ』のアニメ映像は、国内スタジオでも作られました。近年では中国、韓国のソーシャルゲームタイトルが、ソシャゲの産みの親である日本のシェアを多く占めつつあるように。
彼らは「稼ぐ方程式」をきちんと持っています。

日本のアニメ産業は、人材レベルで既に衰退しつつある。
それはひとえに、「稼ぐ市場」が確立されていなかったためです。

日本では収益を上げるという行為が忌避されます。原因を追究しても、「教育」や「製作期間」などが上がるばかりで、「儲けないから」とは誰も発想すら浮かびません。 謙虚や清貧は美徳かもしれませんが、それによって多大な価値や技術、文化が殺されるというのならば最悪の悪徳です。

クリエイターとは、そう在るべきです。 何よりも、クリエイターを守り支える人々こそが、そう在らなければなりません。 でなければ、彼らは死にます。 彼らの技術や文化、全ての素晴らしいものと共に。

そうしないために。我々はこの問題を考え、挑み続ける必要があります。

……少々熱が入り過ぎてしまいました。 「労働環境・待遇」の具体的な話については、また明日。

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