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【アニメ産業調べ物4】「労働環境・待遇」

キシバです。
アニメ産業調べ物シリーズ第4回、「労働環境・待遇」について。
(これまでの関連記事は以下)

今回のテーマについては「労働環境に由来する人手不足」という流れで既にそれなりに触れているので、今回はより詳細な数字を出してみたいと思います。

まずはこちら。信頼と安心の『アニメーション制作者実態調査報告書2019』から。

ただし、このアンケートの回答者総数は382名とそれほど多くはない点や(このアンケート、webではやってないそうです。いやいや、やりましょうよ。)年ごとに大きな変化のある数字があるかもしれない点などには留意します。

http://janica.jp/survey/survey2019Report.pdf
アニメーション制作者実態調査報告書2019

p23は『仕事機会の変化』について。3年前と比べてどうか、ということで、これは現状人手不足が深刻と言われているだけあって、おおむね「変化なし」か「やや増えた」の比率が高いです。ただ、9%前後「大幅に減った」が存在する理由についても検討が必要でしょう。

アニメーション制作者実態調査2019_page-0023


p24~p28では『正式な契約書の取り交わし』が少ないことなどについて扱っています。

アニメーション制作者実態調査2019_page-0024

「必ず契約書を取り交わしている」はわずか全回答者の13.9%に過ぎません。
契約書の状況について「わからない」という回答も31.8%あり、

アニメーション制作者実態調査2019_page-0025

下請適正取引ガイドラインの認知度も目を通したことがあるのは13.1%。
(これはガイドライン自体に問題がある可能性もありますが)

アニメーション制作者実態調査2019_page-0029

p53の『仕事上の問題』のコメントに、以下のようなものも。

>>作品のスタート、座組の悪さが原因で、すべての作品ではないが、実作業に多大な問題、ストレスを生じていることがある。現場の職人はそこに対しとても鈍感な場合が多く、わけもわからずにストレスを受け続けている。仕事を選ぶ能力も必要だが選べない人、場合もある。出資、プロデュースに疑問を覚える。

アニメーション制作者実態調査2019_page-0053

また、「自分に不利な内容なので契約書を交わさない」という回答や、制作会社の法務部に直談判して問題のある契約内容を修正して貰ったケースも重要。

これらは会社側を信用できないのでそもそも契約が危険、という状況です。

つまりはアニメ業界の契約に関して、

・クリエイター側の法的認知(≒マネジメント意識)が薄く、自衛ができない
・制作会社側の無知または悪意による不当な契約

という大きく二つの課題があると言えます。

『雇用形態』の比率はフリーランスが約50%。
在宅オンラインのケースもあるようですが、契約が曖昧な状態での在宅業務は適切な報酬の支払いや労働量管理にリスクが伴います。
ちなみに自宅比率は27%。地方人材の活用という意味では、制度とシステムを整えた上でオンライン比率は上げたいところ。

アニメーション制作者実態調査2019_page-0032

アニメーション制作者実態調査2019_page-0037

「作品単位の契約」「カット単位の契約」が多いことも、不安定さに拍車をかけているようです。

この場合の不安定さとは、仕事がなくなることではなく「正しい労働条件を長期的に確保する」ことが難しい、ということを指します。

アニメーション制作者実態調査2019_page-0034

クリエイター自身の働き方としても、仕事への慣れ、効率化、品質向上が難しい一因として挙がっていました。たった1クール、3ヶ月以下で切れる契約が大半というのではさもありなんです。

そしてこれらの原因の一つとして、p36の(雇用形態について)「説明はなかった」が36%ある点があると思います。

アニメーション制作者実態調査2019_page-0036

普通の会社であれば、どんな契約であっても(アルバイトでも)本来あり得ないことですね。労働基準法違反です。

アニメ制作会社が労働基準法を順守するつもりがない(雇用形態の説明をしないのは業務量以前の問題なので)ケースについては、この2019年末のマッドハウスに対する是正勧告のように、少しずつ労働基準監督署の動きが見え始めているようです。

とはいえ、「STUDIO 4℃」のケースでは未払い残業代の振り込みによって(判例が生まれる前に)裁判が途中終了してしまったことも。

「アニメ業界を回すためにはこうするしかない」という理由で過剰労働化しているケースの他、アニメ制作会社自体が純粋なブラックという要因もあるようなので。後者については、まずは行政(労基)の今後の対応に期待したいところです。

『平均作業時間』については、p38~p41に記載されています。月の平均休日が3日以下のケースが17%近くあるなど、やはり業務量過多は深刻な様子。

p44~p47が『年間収入』について。回答者全体の4分の1ほどが200万円以下の収入であり、同人誌の販売など兼業者、会社の役員報酬が平均を押し上げてもなお440万円で、最頻値は300万円。
この回答者全体の平均年齢は39歳です。

『技能・技術の習得方法』についてはこの通り。
個人的には、総じて技術の習得そのものが困難であるようには見受けられません。やはり前回触れたように、「過労と低賃金で人が集まらない」「人が足りなすぎて競争原理が働かない」などが技術低下の主要因と推測できます。その他の意見は以下の通り。

その他、『様々な実際の意見』について。p59~p77に自由記述欄の記載が全文掲載されています。
382名もの方々がこれだけ具体的かつ切実な声を上げているというのは、それだけ積年の危機感や、「業界を変えたい」という思いの表れだと思います。

アニメーション制作者実態調査2019_page-0056

アニメーション制作者実態調査2019_page-0057

アニメーション制作者実態調査2019_page-0059

アニメーション制作者実態調査2019_page-0061

最後に『今後の仕事計画』について。
これだけ多くの労働環境上の問題を抱えながらも、今もなお63.4%の方は「働ける限り、アニメーション制作者として仕事を続けたい」を選んでいます。

アニメーション制作者実態調査2019_page-0057

決して低い数字ではありません。ただのブラック企業なら二割を切ってもおかしくない。

『アニメ愛』だけで支えられている業界と言いましたが、その情熱の熱量は尋常ではないです。本来ならば彼らこそが世界一だと、何の気兼ねなく誇れるほどに。

課題をすべて解決し、それが実現できる方法を。
これからも考えていきたいと思います。


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