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ワガハイは猫である。


名前はちゃんとある。というかワガハイが名前なのである。
白地に黒のハチワレ頭に口の上にちょびっと黒が乗っかっており、それがどうにも七三頭と口ひげに見える。ゆえにその名をワガハイという。

もちろん猫であるからしてきちんとした猫ひげが生えており、ドアの隙間を通り抜けるときなどはその性能を遺憾なく発揮しているのであるが、どうにもどんくさいところがあって、水を必死に飲みすぎて思わず前足を突っ込んでしまったり、鴨居に登ったはいいが下りられなくてうろうろしているところを飼い主に見つかり気まずそうに顔を洗いだしたりと人間味あふれる仕草がやたらと多い。

ちょこんとお澄ましして座っている姿は背筋もすらっとしておりいかにも猫なのだがいかんせんその顔面の模様がどうみてもおじさんに見える。
よっておじさんが背筋をすらっと伸ばして、なんならそこはかとない色気も醸し出して座っているようにも見えて、なかなかの不条理を感じさせる佇まいなのである。

まあそんなところも飼い主にしてみれば可愛げのある点であり、私が「ワガハーイ?」と呼べば「ナーゴ」と鳴いて寄ってくるときなど愛おしさを感じずにはいられない。

ただどうにか直してほしいと思うのはくつろぐときの姿勢である。
ソファの上のクッションで寛いでいるときなど、後ろ脚をだらしなく広げて
どっかりと背中をクッションに預けて虚空を眺めているさまはどう見ても立派なおじさんなのである。
今日のわざをなし終えて帰宅し、ステテコ姿でビール一杯の晩酌を傾けながら今夜の巨人-阪神ナイター戦の行方に一喜一憂するおじさんなのである。
ここにマタタビでも加えたら一体どうなるのだろうかと、飼い主の度量が日々試されている。

まあしかし名前の由来からして酔っぱらった日には水甕に落ちてしまいやしないかと心配になるのでそこをぐっとこらえる毎日なのである。わが家に水甕はないけれども。

そんなことをスマホで撮ったワガハイの写真を見せながら彼氏にのろけていると「吾輩は猫であるの猫って、黒猫じゃなかったっけ?」と突っ込まれた。「どっちかというとこの猫のビジュアルイメージって夏目漱石だよね。それって作者じゃん」とも言われた。

…いや、うん、別にいいのである。だってワガハイは猫なのだから。

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