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迷惑メールの精


ぱぱらぱー、という安っぽいファンファーレがスマホから鳴り響くと、
ポワンという効果音と共に髭面のおっさんがどこからともなく現れた。

「は?は?」

僕は訳も分からず戸惑う。そんな僕を無視して若干暑苦しさが目立つ笑顔でおっさんが告げる。

「おめでとうございます!あなたが今年迷惑メールを削除した記念すべき3000000000人目の方(累計)になります!」
「ちょっと待ってください、なにがなんだか分からないんですけど、とりあえずあなたはなんなんですか」
「迷惑メールの精です」
「迷惑メールの精」

聞いても意味が分からなかった。
ダメもとでもう少し詳しい説明を求めてみる。

「迷惑メールの精はですね、選ばれた方に3つの願いをかなえて差し上げるという役目を負っております」
「ああ、ランプの精的なやつなのね。で、願いってなんでもいいの?」
「いえ、メールに関することだけです」
「ええ…」

思ったよりも使えない。迷惑メールに関する願いなんて正直3つもなくて、ただ1つ、「メールが来ないようにしてくれ」というだけだ。
なので僕はその旨を迷惑メールの精と名乗るおっさんに伝えた。

「あー、やっぱりそうですよね。皆さんそうおっしゃいます」
「そりゃそうでしょ」
「ではその望みを叶えましょう」

またもやどこからかぱぱらぱーというファンファーレが鳴り響き、迷惑メールの精(おっさん)は姿を消した。
いったいなんだったのだろうか。一応スマホの迷惑メールフォルダを開いて、フィルターに引っかかった迷惑メールを確認してみると一通残らずフォルダから消えていた。

しばらくしてメールが来ないことに気が付いた。
迷惑メールだけではない。仕事に関することや連絡事項のメールも一切届かない。どれだけパソコンやスマホを変えようが、メールソフトを入れなおそうが、どうやっても届かない。
社内の情シスもこれには頭を抱えていた。

あの時僕はなんて言った?「メールが来ないようにしてくれ」だった。
あろうことかあのおっさんはその言葉を文字通りに解釈し、迷惑メールだけではなくすべてのメールが来ないようにしてくれやがったのだ。

ようやく僕はあのおっさんの正体に気が付いた。
迷惑メールの精なんかではない。




あのおっさんは「MAILER DEMON」だ。

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