『いや、その才能、欲しいんだが』

何も知らずに育った幼少期

『それ』に気が付いたのは、多分、小学校の一年生くらいだったと思う。
 いつもより1時間も早く目が覚めた私は、特に何もすることもなかったので、制服に着替えて、玄関の上がり口に座り込んでいた。
 当時はお洒落な鉄製のドアなんて珍しく、昔ながらのすりガラスの入った、横開きのものだった。
当然、全てが透けて見えるわけではないのだが、差し込む朝日のせいで、外に置いてあるものの色と形くらいは分かった。
そのすりガラスを、ぼーっと眺めていたときのことだ。
向こうから、50センチくらいの棒の先に、先が広がった、茶色いものが近づいてきた。

『うん?何だあれ??』

と思う間もなく、その物体はうちの玄関の前で止まった。

‥犬?

‥棒みたいな犬??

しばらく待ってみたが、それはいっこうに動こうとしない。
よし、何か確かめてやろう。驚かせて逃げたら面白くないから、そーっと扉を開けて‥。

半ば探偵気取りで、顔半分だけ扉を開けてみると。

‥うん?ホウキ??

確認のため、もう一度扉を閉めて、中から見てみる。

間違いない、さっきのシルエットと同じものが、同じ場所にある。

そう、ホウキがどこかにお出掛けしていて、朝早くに自分で歩いて帰ってきたのだ。

そんなこと、ある?そんなこと、あるぅ??

あったがな!!

よし、確かめてやる!!

そう思った私は、ホウキの前に仁王立ちになり、圧を掛けながらアホ丸出しでこう聞いた。

 「自分、今、歩いて帰ってきたやんな?自分一人で歩いて帰ってきたやんな??扉の奥で、じっと見てたんやけど!」
もちろん、ホウキが答えるはずもないし、微動だに動くはずもない。
しかし、私には、ホウキがシラを切り通そうとしているのが分かった。
「シラを切り通すつもりやろ、分かっとるんやけど!!」
さっきの三倍くらいの圧を掛けながら言い放つ私に、もちろんホウキは動かない。

でもなぜか。

でも、なぜだかホウキが、もんのすごく冷や汗をダラダラとかいてるのが分かった。そして次の瞬間ー。

やべー!
マジやべー!
人間に見られてもーたー!!

と、ホウキが焦りに焦り倒しているのがわかった。

と同時に、直感が降りてきた。

『動くことを人間に見られてしまった物は、存在を消されてしまいます』

次の瞬間、今度は私が焦り出した。なぜか急にホウキが可愛そうになってしまった私は
「なーんてな!ホウキが動くわけないやんな!あはは!冗談やって!!」
わざと大きな声で、おどけるように言ってみせた。
すると、さっきまで焦り倒していたホウキが、いくぶんか、ホッとしたのが伝わってきた。
「ほな、学校行く準備でもしてこ!」

やべーやべー!ホウキの存在消されてしもぅたら、私のせいやん!!

少しの罪悪感を抱えながら家に入った私は、慌てて朝ごはんをかきこんで、ランドセルを背負ったらもうダッシュで学校へ走った。

そしてー。

 そんなこともすっかり忘れて学校から帰ってきた私に、おばあちゃんが聞いてきた。

「ちょっとあんた、ホウキ知らん?なんぼ探してもないんよ」

‥‥あいつ、消されたな‥‥

自責の念でしろ目をむきそうになっている私が、人とは違う才能に気が付いた瞬間でもあった。

そして、この才能が、のちに自分の人生を、ワッショイお祭り騒ぎにするとは思ってもみなかった。

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門


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