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多様な声に心を傾ける

写真家へのあこがれ。
写真家になりたいと言うことさえはばかられる。
やっぱり到底なれそうにないと思った夜であった。

誰でも写真は撮れる。
今日から写真家です。と言えばカメラさえあれば写真家になれる。なんなら、スマホがあればスマホカメラマンと言える。
でも、そこには「どんな」が抜けている。
だから、今までやればいいじゃん なればいいじゃん って声かけも、そして自分で思ったとしてもしっくりこなかったのだ。
人物、風景、広告、ウェディング……どこなのか、どこにもピンとこない。
私が写真家だなんて、、という遠慮とかではない。
そこには曖昧な輪郭をもった確かなものがあるから、言えないのだ。

今は「どんな」の、部分を一言で言い表すことができない。
なりたい、したい。それがないと始まらないが、wantがある以上はそこにはたどり着けない。
wantのその先にあるものなのかもしれない。

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東京都人権プラザで開催している、齋藤陽道(はるみち)さんの写真展 「感動、」へ。
夜はたっぷり2時間のイベント。

「ことばの起源へ」酒井邦嘉(言語脳科学者、東京大学大学院教授)×齋藤陽道世界を豊かに捉えることばと、人を傷つける偏見に満ちたことば。言葉とこころと脳の関係を紐解く脳科学者と、ろう者として存在の声を探る写真家がことばの起源を探る。

陽道さんは生まれつき耳の聞こえないろう者。耳の聞こえる人の世界で生きていくために、幼少期は補聴器をつけて発音の訓練をしていたけれど、どうやっても分かりきれない世界の中で生きていかなければいけないという、孤独を抱えていた。
その後ろう学校に通うようになり、そこで日本手話に出会って、これが声であることに気がつく。

とまぁ、齋藤さんがどんな方なのかは教えて!グーグル先生。

登壇相手である教授の酒井さんと、筆談でのトークショー。うーん、ライティングショー?初めての経験だ。
始まったのに音が聞こえてこない。でも、対話は進んでいる。ペンの走る音がきこえて、懐かしく感じる。
パソコンで文字を打った方がはやいけれど、文字の大きさや書く場所、タイミング、相手の文字の声に挿入したり。二人同時に書くこともできる。

声で同時に話されると何を言ってるのか聖徳太子でない限り聞こえないけれど、文字であれば目がそれぞれを追って、それぞれの声を見ることができる。そんな良さもわかった筆談だった。

シーンとしているのにピンッとした緊張感があるわけではない。
不思議な空間。

日本手話というものがあるんですね。日本語対応手話と日本手話の違い。
対応手話は、文字情報のようなもの。
この形は「か」、この形は「ぜ」この二つを合わせると「か・ぜ」となり、ようやく「風」になる。それに比べて日本手話は、ぐわあぁ〜っと風が吹く様子、顔に風がかかる様子、それが爽やかな風なのか、台風のように強い風なのかが一目でわかる。一種の舞のようでもあり、完全なる表現者だ。

陽道さんはろう学校で16歳の時にようやく日本手話に出会えた。
私も手話に種類があるとは思っていなかったし、耳の聞こえない人は必ず接することがあるものだと思っていた。耳の聞こえない人でさえ、日本手話に出会うきっかけがない人もいるという驚き。

筆談に加えて、時折手話で話す様子はまさしく、陽道さんの声だった。

まなざしも声である

2011年に発表した写真集「感動」の中に出て来る人たちのほとんどは何かしらの障がいや社会的マイノリティの人たちだ。
でもそれは、障がい者をテーマに撮りました。ということではない。
これが写真を読むということか。

筆談の中で、カミという言葉が出てきた。神でも神様でもなく、カタカナのカミ。どこかで読んだ、人は本来「神」であるという言葉がずっと陽道さんの中に引っかかっていたそうだ。

それは自然=カミ ということである。

自然というと、ナチュラルにでふわっとした良いイメージがあるけれど、津波だとか台風だとか、怖い一面も持っている。そんな人間の中のカミとシンクロした時にシャッターを押す。

まなざしが混ざり合い、相手と目だけでシンクロすることがあるそうだ。
それは人間だけにとどまらず、動物も。
そのときには無意識にシャッターを押している。我がない写真ほど良い写真になるそうだ。

自分の範疇を超えた先にあるもの。

陽道さんの声を聞いていて、ビリビリ痺れる感覚がする。ああ、そうかそうか。したい、やりたい。wantには我があるのだ。

でも、もちろんそれはベスト!な写真であって、仕事の写真はまた別。と言っていたことに少し救われた気もした。 


イベントが終わって、人権プラザの施設内展示室にアイヌについてのコーナーがあり、そこを見ていたら、カムイ=神 という言葉が目に入った。

あ!!!

漢字の神ではなく、カミ、もしかして、ニュアンスとしてはカムイが近いのでは?と。

人や生き物の中にあるカムイに触れる。私もそんな体験がしてみたい。

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会期
2019年1月19日(土)から3月30日(土)まで
※日曜は閉室。祝日は開室。

開室時間
9時30分から17時30分

会場
東京都人権プラザ 1階 企画展示室
東京都港区芝2-5-6 芝256スクエアビル 1階

入場料
無料

イベント
まだ2回あります。
イベント詳細こちら

齋藤陽道さんホームページ
http://www.saitoharumichi.com/

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