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オールド・ニッコールの標準レンズの簡単な比較(3本)

 お酒の世界では、水平比較と垂直比較という言葉があると言います。水平比較は、同時代のお酒をできるだけ条件を合わせた上で、ある部分のみを比較して違いを見つけるもの(例えば、同じ年代・同じ葡萄やワイン生産者・同じ葡萄の品種であるが、日照などが違う畑の葡萄で作られたワインの比較をすることで、畑ごとの出来の違いを探るもの)で、垂直比較は、同じお酒でも異なる年代のもの(1970年のシャトーマルゴーと1990年のシャトーマルゴーを比較することで、年代の違いや熟成の効果を探るもの)を比較するものです。

 ということで、突然で恐縮ですが、お正月でレンズ遊びをする時間がありましたところ、同じ50mm f2で同じレンズ構成のNikkor-H Auto 50mm f2(1964年)とAi Nikkor 50mm f2(1977年)の垂直比較、同じ50mmでほぼ同年代に発売されたNikkor-S 50mm f1.4(1962年)とNikkor-H 50mm f2(1964年)のf値・レンズ構成の違いによる水平比較をしてみました。大変簡単にではありますが、何かの参考になりましたら幸いです。

1 垂直比較

 ニコンの50mm前後の標準域の典型的なダブルガウス型(補正レンズなどを使わない、4群6枚の対称型のものと本稿では定義)のレンズは1964年のNikkor-H Auto 50mm f2が最初であり、1977年のAi Nikkor 50mm f2まで同じレンズ構成となります。なお、ニコンの一眼レフで最初の標準レンズである1959年のNikkor-S Auto 50mm f2は5群7枚で、当時の技術では1枚補正レンズを入れなくては50mmを実現できなかったとのこと。

 ということで、同じレンズ構成のNikkor-H Auto 50mm f2(シングルコーティングモデル)とAi Nikkor 50mm f2を比較することで、コーティングや硝材等の進化を描写の観点から味わおうとするものです。なお、専門的なうんちくはなしで、あくまで写真の出来上がり結果のみの比較となります。上がNikkor-H Auto 50mm f2で下がAi Nikkor 50mm f2となります。またカメラの設定については、Nikon Z7で撮影して、Lightroomでピクチャー設定を標準で、色温度5450・色被り補正+13にしています。両レンズともに開放で撮影しています。

 一例目で逆光でのゴーストを比較。あえて太陽に向けてより分かりやすくゴーストが出るように調整をしました。その結果、ご覧の通り、逆行耐性は天と地の差ですね。Nikkor-Hはどうしようもないほどのゴーストが出ちゃってますが、Ai Nikkorはさすがのコーティング(?)で、ほぼ出ていないですね。

 二例目は順光における解像度・色のり・後ボケの比較。解像度はやはりAi Nikkorの方が格段に良いですね。硝材だけでなく、レンズ設計も年代を経るにつれて(微)調整がなされた結果でしょうか。
 色のり・後ボケは、当方のような素人には一見わかるような違いはなさそうでした。

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2 水平比較

 次に、1962年のNikkor-S Auto 50mm f1.4(シングルコーティング)と1964年のNikkor-H Auto 50mm f2(シングルコーティング)の比較です。前者は5群7枚の変形ダブルガウス型(前群に1枚補正レンズを追加)となります。なお、ニッコール千夜一夜物語によると、当初は一眼レフ用レンズの50mmでf1.4を実現するのは非常に困難であり、最初は58mmと焦点距離を伸ばして実現したが、「ニコンにとって必ずしも満足すべきレンズ」ではなく、「50mmの標準レンズを実現することが至上命題」であり、「1962年に発売されたこのレンズは、目論見通り好評をもって受け入れられ、ニコンFの標準レンズとしての地位を築いていった」とされることから、ニコンにとってマイルストーン的なレンズと言えると思います。

 上がNikkor-S Auto 50mm f1.4で、下がNikkor-H Auto 50mm f2となります。またカメラの設定については、Nikon Z7で撮影して、Lightroomでピクチャー設定を標準・色温度5450・色被り補正+13にしています。両レンズともに開放で撮影しています。

 一例目では、ゴーストについて比較。50mm/f1.4は球状のゴーストと半円形の虹の組み合わせになっている一方で、50mm f2は先程の垂直比較の通り降り注ぐような虹のゴーストが出ています。球状のゴーストの色を比較すると、50mm f1.4が暖色系の、50mm f2が青色ベースの寒色系のコーティングがなされていることが分かりますね。なお、1960年のNikkor-S Auto 5.8cm f1.4も青色の寒色系のコーティングがなされていました。発売時期ごとにコーティングの色の使い分けがなされている訳ではなく、レンズごとに違うとしたら、その理由はなんなのでしょうね、興味深いですね。

 二例目は順光における解像度・色のり・後ボケの比較。解像度はやはり開放f1.4のレンズの方が劣りますが、それに加えて滲むような描写になっているのがお分かりでしょうか。またf1.4は何となくフレアがかったような描写で、シャドーが浮いており、色が若干あさっりしているように見えます。後ボケは当然f1.4の方がボケていますが、へっぽこ自分には有意な違いがあるようには見えません汗

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3 ポートレート撮影における結論

 個人的には、解像度やフレア・ゴーストの美しさから、この3本のうち総合的にはNikkor-H 50mm f2が一番好みです。ただし、描写の柔らかさを最優先にするならば、にじみを伴うNikkor-S f1.4が一番美しく女性を写してくれそうな気がします。Ai Nikkor 50mm f2は安定度では一番ですが、レンズ遊びという観点等は、数多あるオールドレンズ・現代レンズの中からあえてこのレンズを使う場面は少なそうな気がします汗 ただ、たった13年で解像度の向上やフレア・ゴーストの劇的な抑制が実現されており、この間の技術者の皆様の努力には頭が下がる思いですね。なお、出来上がりが予想し難いフィルム撮影の場合は、自分でしたらAi Nikkor 50mm f2を選ぶと思います。

 なお、今回は記載しませんでしたが、Fマウントのオールドニッコールの標準レンズの中では、55mm f1.2がやはり開放f値1.2による描写の柔らかさという観点で一番好みであり、また、5.8cm f1.4は寒色系の色合い・ゴーストの美しさという観点でこれまた得難いものです。よろしければこちらの作例もご覧いただければ幸いです。

 最後に、これらのレンズは全て中古販売店やインターネットサイトで購入したものとなり、購入後にメンテナンス等には出していません。すなわち、コーティングや内面反射防止措置の劣化(あるいは独自の再コーティングの可能性)やレンズ設置箇所のズレ等により100%の状態ではない可能性が高く、当方が所有している個体特有の描写である可能性も否定できません。更に、同じモデルであっても、製造ロットの違いで、コーティングや硝材の変更やレンズ構成の微修正もなされている可能性もあるかもしれません。オールドレンズとはそういうものであることをご理解いただけましたら幸いです(だからこそ楽しい!?)。

4 補論(4群6枚のダブルガウス型の標準レンズ)

 現存する企業が製造したあるいは今なお製造している、4群6枚の標準的なダブルガウス型のレンズを集めてみました。特に名高いライカのSummicronで初めて4群6枚となった1980年モデル(4型?)とその最新型の2019年のSafariモデルの比較は興味深いですし(外観のカラーリングと最短撮影距離が大きな違いで、描写は変わらないのだろうか)、それと最新のZeissのLoxiaとの比較も面白そうです。もちろん、Summar vs Biotarの初期のダブルガウス型でのLeica vs Zeissの対決も面白そうです。ですが、そんな自己満足的な比較のために費やせるお金があるはずなく汗

(1)Carl Zeiss
Biotar 58mm f2(1936→ソ連のHelios-44シリーズがコピー)
Contarex Planar 50mm f2(前期1957・後期1965の2タイプあり)
Planar 45mm f2 (1994、コンタックスGマウント)
Planar 50mm f2(2004、zmマウント・コシナ製)※
Loxia 50mm f2(2014、Sony Eマウント)※
※LoxiaはzmマウントのPlanarの焼き直しとネットでは言われていますが、メーカーHPのMTFを見ると結構違うことが分かります。Loxiaの方が周辺の描写が良くなさそうではあります。また、zmマウントはコシナが製造していることは公開されていますが、Loxiaの製造元は公開されていません。

(2)Leica
Summar 50cm f2(1933、Lマウント)
Summicron-M 50mm f2 IV (1980、Mマウント)
Summicron-M 50mm f2 Safari (2019、Mマウント←コーティング・硝材・レンズ構成が現行化されているかは不明。カラーリングの違いのみ???)

(3)Canon
Serenar 50mm f1.8 (1951、Lマウント)〜Canon 50mm f1.8 III (1958)
Super Canonmatic R 50mm f1.8 (1959、Canon Rマウント)
Canon FL 50mm f1.8 I (1964、Canon FLマウント)〜Canon FDn 50mm f1.8(1979)

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