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渋滞しない裏方

 大きな力に動かされる人が羨ましかった。

 貧しい国に支援を、子どもたちの未来のために。その人の使命感と社会におけるニーズがマッチしていて、追い風を受けて迷いなく突き進むのだ。扱う規模も大きいために、とにかくやるべきことには困らない。
 やりがいもあって、明確な成果も出て、感謝もされる。

 かつて身近にそういう人がいた。どんどんステップアップしていく背中を見送って、自分もあんな風にと思ったことは一度ではない。

 けれど、自分が同じように振る舞おうとしても、僕はそうしたマクロな動きには惹かれなかった。大きなうねりを起こす、その中の小さな小さな個人に関心が向いていた。

 けれど、一人一人に注意を向けてみると、個々人がとても豊かで、可能性を秘めていた。そのことに気づいてから、僕は自分が社会を変えるとか、偉大な功績を残す幻想を諦めた。

 自分がなにかをなす必要はないのだ。
 ともすれば自虐的な台詞に聞こえるかもしれないけれど、みんな表舞台に立とうとしたら舞台の上は渋滞してしまう。だから、舞台を盛り上げる裏方も必要なのだ。裏方には裏方にしか見えない世界があって、脚光をあびる人の様々な顔を見ることができるだろう。自分が案外そういうものに興味を持っている。

 大きな動きが起きる瞬間を傍で見ていたい。

 

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