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猫の鳴き声は、万病の薬

ああ、薬を飲むのを忘れてた。
昨日から気分の浮き沈みが激しかった。
私はいま、定期的にくる月経に苦しめられている。
いつもは痛み止めの薬を飲んでいるけれど、今日は仕事が休みだからと飲まなかったのが間違いだった。
じりじりと強弱をつけて私を苦しめる痛みからは、眠ることでしか逃げられない。
昼過ぎまで寝ていたせいか、身体のダルさを言い訳にソファでゴロゴロしていても眠ることはできなかった。
何か食べて薬を飲もうにも、家にはレトルトのラーメンしかない。
あと二時間もしたら夕食だし、ラーメンは重すぎるな。
お腹の痛みはずっと続いている。
窓から入った風がカーテンを揺らし、私の頬をなでていった。
その風に心地よさを感じながら、私はそっと目を閉じた。

「ぬあぬあ」
窓の外から猫の鳴き声が聞こえてきた。
その声は静かな住宅街に、驚くほど響いていた。
「ぬあぬあ」
「ぬあ~ぬあ~」
発情期なのかな。
強弱をつけたり、長くしたり短くしたりと異性を引き付けようとする声に、オスかもメスかもわからないが、私の頭の中にその猫の映像が勝手に浮かび上がってくる。
声が野太いからちょっと太めの雄猫かな。
野良猫だから、気の強い雌猫かもしれない。
そんな想像をしていると、猫の声が一層大きくなっていった。
窓のすぐ下まで来ているようだ。
私はぐっとお腹に力を入れて、ソファから起き上がった。
窓に近づいて、下を見る。
隣の家の、ところどころ草が生えたガレージが見えた。
そのガレージに停まっている赤い車の後ろタイヤに猫はいた。
白と茶色の綺麗な毛並みの猫で、こちらには気づいていないようだ。
「ぬあぬあ」
気づくと私の口から声が出ていた。
猫は一瞬、鳴くのをやめて辺りを見回したけれど人間の声だと思ったのか、また鳴き始めて建物の陰に隠れてしまった。
「ぬあぬあ」
鳴き声はまだ聞こえている。
しばらく猫の姿を探したけれど見つからず、私はまたソファに横になった。
痛みはいつの間にかなくなっていた。


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