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胸キュン短編&歌

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#小説

16先生

16先生

「私のこと、好きか嫌いか、どっちかだけ教えてください。それくらいいいでしょう? 真剣なんですから」

保健室。
白衣姿の彼は困ったように眉根を寄せる。
緊張すると胃のあたりがしくしくする私は、入学当初から保健室に日参してて。ぶっきらぼうだけど優しい、保健教諭に恋をするのは必然だった。

「好きだよ」

あっさり言われてムッとする。

「女性として、ですよ? わかってるくせに」
「あのなあ」
「困ら

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15山奥に転校していった王子さま

15山奥に転校していった王子さま

来てしまった……。

半日に一回しか通らないというバスから降りて、大きな山に挟まれた国道沿いのバス停におりる。
田舎って聞いてたけど、想像以上だ。
これ、絶対、彼に会いに来たってバレちゃう。どうしよう。たちまちなけなしの勇気が萎んでいく。
一度も話したことがないのに、会いに来るなんて図々しいよね。

日を改めよう……。
バスの時間までせみとりでもして時間を潰そう。
と思ったら。

「あれ?」

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13写真

13写真

「俺カメラが趣味なのよ。新しいのが来たから試し撮り」

店長は言う。なるほど。そういう意味ですか。

「いいよな。このフォルム」

三脚から下ろしたばかりのでっかいカメラを撫でながら目を細める。
その手つきにドキッとした。
ああ、すごくカメラが好きって感じの触り方。
パン生地に触れてるときと似た、独特な色気を感じてしまう。
ああ、なんだろう。この気持ち。
ざわざわする。店長といると、心の奥がきゅっ

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12開店前

12開店前

「お前ってさあ、もうちょいリアクションしろよ」
「すみません」
「そうじゃなくってさあ」
鉄板を素手で持ってしまった私を前に、店長のお説教は続いてる。
処置が良かったのか火傷はない。
でも店長はなんだかまだ怒ってるようだ。
「私、とろくて……迷惑ばかりかけて……本当にダメダメですよね……」
責められてる間に落ち込んできた。
店長ってすごく一生懸命だから。
パンを愛してるのわかるから。
なんの夢もな

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11 恋のマジック

11 恋のマジック

マジック部のイベントが大成功に終わり、打上げに呼ばれた。
密着取材の1週間。
真面目な新聞部の私は、変人会長に振り回されてばかりだった。
今だってそう。
蜘蛛の玩具を握らされ、悲鳴をあげた私を見て、ニヤつくなんて。
かっこいいくせに意地悪なんです。
なんでこんなに見た目と性格にギャップがあるんだろ。
「私、蛇より蜘蛛が嫌いなんです」
どれほどひどいことをしたか、わからせるために怖い顔をして彼を睨む

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10 なれそめ

10 なれそめ

「……っていうのが馴れ初めらしい」
放課後のマックで、ふと両親の出会いについて友人に話した。
友人の両目が大きく見開く。
「ま、マジで……?! それってセクハラじゃん?」
「同じこと思った。でも昔は普通だったんだって」
「へええええ」
「ママ、よくそれでバイトする気になったよね。私だったら帰るなあ。怖いもん」
「確かに」
友人は頷きながらもこう続けた。
「でもさーあんたのパパって素敵じゃん。帰らな

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8 歌姫 

8 歌姫 

「ねえ、こないだから独りぼっちだよね」
教室での昼食タイム。
私は同じグループの一人に小声で言った。
視線の先には窓ぎわで一人、イヤホンを耳に突っ込んでパンをかじっているクラスメイトがいる。
黒髪のボブで大人しそうな横顔。数日前から単独行動が多い。お弁当まで一人で食べているんだから、一緒に行動していたメンバーにハブられていると思っていいだろう。
「あー、歌姫ってことがバレたからね」
友人も小声で教

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